対して、無事に済まなかったのが福岡藩黒田家だった。
同藩も財政難に苦しみ、新政府の太政官札や一分銀などを大量に偽造し、その金を財政の補填だけでなく、藩士の遊興におおっぴらに使ったのである。ただ、大聖寺藩と異なり、偽金の出来映えはひどいものだったことからすぐに発覚した。新政府は内偵を進め、明治3年7月に新政府の役人たちが福岡藩庁や通商局などに乗り込み、一斉摘発をおこない、偽金造りに用いた印刷機や贋札を多数押収した。
大聖寺藩と異なり福岡藩は許されず、新政府は明治4年7月2日、知藩事の黒田長知を免職とし、偽金に関わった5人の重臣に死刑を宣告、このほか50名ほどが遠島や懲役、罰金などの処罰を受けた。一説には、この厳しさは新政府による見せしめであり、これによって偽金造りを根絶しようとしたといわれる。長知に代わって知藩事として福岡に着任したのは黒田家とは無縁の有栖川宮熾仁親王であった。廃藩置県の直前の出来事ではあったが、福岡藩は事実上廃藩になったといえるだろう。
◎河合 敦(かわい・あつし)
1965年、東京都生まれ。歴史研究家。多摩大学客員教授。早稲田大学非常勤講師。青山学院大学文学部史学科卒業。早稲田大学大学院博士課程単位取得満期退学(日本史専攻)。「歴史探偵」(NHK総合)他に出演。著書に『殿様は「明治」をどう生きたのか』『関所で読みとく日本史』『徳川15代将軍 解体新書』『お札に登場した偉人たち21人』など多数。