■撮影中「クレイジー」の声
ヘッドランプの明かりを頼りに足を前に進め、標高8600メートル付近で日の出を迎えた。バッグからカメラを取り出し、中国・チベットの地平線から上る太陽に向けてシャッターを切る。しばらく歩くと、ネパール側の山が色づいてきた。
「別に構図を探すこともないし、光を待つこともありません。そんなことをしていられる環境ではないですし。自分が気持ちいいと感じる構図がもう身に染みついていますから、ああいいなと思った瞬間を特に何も考えずに撮っています」
大きなカメラに大きなレンズをつけて写真を撮っていると、ほかの登山者の声が耳に入った。「クレイジー」。バックの中に予備のボディーと交換レンズ2本が入っていることを知ったらもっと驚くだろう。上田さんは声の主にこう言った。「イッツ、マイジョブ!」。
エベレストの山頂に到着したのは23日午前8時59分だった。
「ぼくは別に山岳写真家というわけではありません。自分の一つのテーマとして4年ほどヒマラヤを撮影してきました。そのなかでエベレストは撮っておきたい、みんなに伝えたい山だったんです。来月はタヒチの海に潜って、クジラを撮影する予定です」
(アサヒカメラ・米倉昭仁)