そしてこれは長男のみならず、女婿などにも当てはまる。岸信介元首相の女婿である安倍晋太郎氏は1958年の衆院選で当選し、大平正芳元首相の女婿の森田一氏は選挙期間中に死去した大平首相(当時)の後継として80年の衆議院選で補充立候補し、当選を果たしている。

 さて、岸田首相の長男の翔太郎氏の場合も、将来は岸田首相の地盤を継ぐべく、その修業のために公設秘書となり、首相秘書官に就任したことは明らかだ。そして岸田政権が発足して1年たち、政権基盤が固まったあたりで翔太郎氏を帝王教育しようというところだったのだろう。

首相官邸に入る岸田文雄首相と翔太郎氏(左)
首相官邸に入る岸田文雄首相と翔太郎氏(左)

 しかしタイミングが悪すぎた。8月に行われた各社世論調査では、安定した支持率を誇っていた岸田政権だったが、9月には各社の調査で支持率が大きく下落した。

 また10月に入って食料品などが値上げされ、北朝鮮からのミサイル発射も続いている。3日に臨時国会が始まったが、これらに対して政府は有効な措置を講じてくれる様子がない。少なくとも国民はそう感じている。

 そうした状況の中で13日に公表された時事通信の世論調査では、内閣支持率は前月比4.9ポイント減の27.4%で、初めて「危険水域」に突入した。「青木率」(内閣支持率+政党支持率が50を割ると内閣が倒れる、あるいは政局になる、という経験則)も50.9と危機状態だ。

 また8、9日の共同通信の世論調査では、食料品や電気料金などの値上げについて、78.9%が何らかの打撃を感じており、安倍元首相の国葬についても61.9%が否定的で、岸田首相の政治的判断に国民の多くはNOを突き付けている。

 というのも、国民にとってまさに今は「戦時」となっているからだ。

 にもかかわらず、この危機に長男を既定路線通りに首相秘書官に任命したのは、岸田首相の視線が国民ではなく、岸田家の存続に向けられているととらえられても仕方ない。

 そのことすら気付かないということは、昨年に幸運にも政権を獲得した岸田首相の運はすでに尽きたのかもしれない。そしてそのような首相をおしいただく我々も、運が尽きてしまったのだろうか。

(政治ジャーナリスト・安積明子)

安積明子 政治ジャーナリスト。兵庫県出身。慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格し、政策担当秘書として勤務。その後テレビなど出演の他、著書多数。「『新聞記者』という欺瞞|『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)などで咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を3連続受賞。近著に「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)。趣味は宝塚観劇

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安積明子

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■あづみ・あきこ/兵庫県出身。慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格し、政策担当秘書として勤務。その後テレビなど出演の他、著書多数。「『新聞記者』という欺瞞|『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)などで咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を3連続受賞。近著に「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)。趣味は宝塚観劇。

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