岸田文雄首相が10月4日に長男の翔太郎氏を政務担当の首相秘書官に任命したことに、「情実人事だ」との批判が噴出している。そもそも首相秘書官とはどんな職務で、どのような人物が就いてきたのか。岸田首相の狙いはどこにあるのか――。
翔太郎氏は慶應大学を卒業後、三井物産に勤務。2年前から岸田事務所で第2秘書を務めたが、昨年10月に岸田政権が発足し、山本高義氏が首相秘書官に転出した際に第1秘書に昇格した。
しかし公設とはいえ議員秘書と首相秘書官では、その権限は大きく異なる。
内閣法第22条はその1項で首相秘書官の設置を規定し、第2項でその数については政令で定めることとし、第3項で首相秘書官が「内閣総理大臣の命を受け、機密に関する事務をつかさどり、または臨時に命を受け内閣官房その他関係各部局の事務を助ける」としている。内閣と行政権の帰属を規定した憲法第65条を含めて解釈すると、首相秘書官の権限は極めて大きくなる。
まさに立憲民主党の安住淳国対委員長が「首相秘書官は閣僚以上の権力を持つ」と述べた通りだが、実際にその例がある。第2次安倍政権の今井尚哉秘書官だ。
今井氏は経済産業省の元キャリア官僚で、第1次安倍政権で経産省からの秘書官を務めた。安倍晋三首相(当時)が2007年9月に持病のために総理職を辞任した後も、今井氏は安倍元首相のところに足しげく通い、自信を失いがちの安倍元首相をゴルフや山登りに誘って励まし続けた。そして12年に第2次安倍政権が発足して政務担当の秘書官に就任したとき、経産省を退官して退路を断っている。
今井氏はもともと押しが強い性格の上、今井善衛・元通産事務次官と、経団連会長を務めた今井敬・元新日本製鉄会長という大物をおじに持ち、官界にも財界にも顔が利く。第2次安倍政権が長期政権になったのは、今井氏が官邸を経産省カラーに染め上げたからだといわれていた。ちなみに森友学園問題で昭恵夫人付きスタッフとして財務省に連絡していた谷査恵子氏は経産省で今井氏の後輩にあたる。
{!-- pager_title[政権の寿命は首相秘書官の力量次第で決まる?] --}