ケイリーンさんのアドバイスは、紙選びにも及んだ。例えば、ざらざらとしたテクスチャーのある荒目の紙と、それがない細目の紙。荒いテクスチャーは水彩の透明感の邪魔になることがある。ケイリーンさんが使うのは、細目よりさらに細かい「極細」の水彩紙だ。また、質の悪い水彩紙を使うと「グラデーション」を表現しにくい、とも。
「グラデーションをうまく出せないのは自分のテクニックのせいだと思っている人がいるんですけど。だいたいは紙のせいです」(ケイリーンさん)
そして、いよいよ実際の着彩に入る前の練習タイム。一定の濃さで面を塗っていくとき、グラデーションにしたいとき、ケイリーンさんが自身の手元を投影しながら描いていくのに合わせ、受講者たちも試していく。水や絵の具が乾いてしまわないうちに描き進めること、ぬらしたふきんを置いて筆をきれいにしながら描いていくこと、黒を使うと透明度が損なわれるので代わりに茶色や紫を使うこと、赤や黄色といった主要な色は、濃かったり薄かったり、オレンジっぽかったりと複数種類を用意していること、グレーをよく使うこと。ケイリーンさんならではのコツが続々披露されていく。
グレーの食べ物はあまりないけれど、絵の具をそのまま使うのではなく少しだけグレーを混ぜることで、オリジナルの色をつくることができる。「彩度」を下げたいときも、黒を混ぜると暗くなってしまうけれど、グレーなら暗くならない。そんな用途の広い色が「グレー」だという。
そのグレーをうまく使いながら、赤、黄色などを混ぜて、大福の表面の白い餅のなかでも、粉が落ちて真っ白ではない部分に塗る色を作っていく。あえて言うなら、カーキに近いような色。全員の席を回ってパレットをのぞきこみ、色味を確認したら、先ほどの下書きへの着彩がスタート。ケイリーンさんが筆を動かして色を着けていく様子が投影され、それを見ながら受講者も着彩を始めた。パレットではカーキのように見えた色が、水彩紙にのると、粉が落ちた大福の表面そのものに見えてくるから不思議だ。