水が多すぎると、絵がぼんやりする。使う絵の具は一度にたくさん混ぜないで、少しずつ作る。使い切ったらまた、同じように混ぜて作る。全く同じにはならないが、

「その違いがまた、立体感につながるんです」(ケイリーンさん)

 いちごの断面は、まず全体をごく薄い黄色に。そして明るい赤と黄色を混ぜたオレンジで、輪郭から内側に向けて色をのせていく。薄い黄色、オレンジ、赤、濃い赤というレイヤーに分けて塗り重ねていくことで、いちごがいちごになっていく。ベタッと塗るのではなく、筆先でタップするように色を置き、グラデーションを表現。この作業が始まると、教室からは音が消えた。ケイリーンさんが1人1人にアドバイスする声と、受講者たちが水入れで筆を洗う音。それだけが響く。

 いちごの次は豆。その次はあんこ。

「筆に水をつけすぎないで」

「まずは薄く色を置いて、次に濃くおいていきます」

 表面に現れた豆を表現した後、の部分にごくごく薄く豆の色を置いていくと、餅に隠れた豆が浮かび上がってくる。

 あんこは紫に赤と黄色を混ぜて表現。薄いトーンで、あえてムラっぽく全体に色を置き、最後に濃い紫であんこの中に含まれる小豆の粒をおいていくと、あんこは粒あんになった。

右が見本となった写真。左がケイリーンさんの完成形。受講者たちのいちご豆大福も、ケイリーンさんに負けず劣らずの仕上がりとなった
右が見本となった写真。左がケイリーンさんの完成形。受講者たちのいちご豆大福も、ケイリーンさんに負けず劣らずの仕上がりとなった

 最後に1人1人の着彩と乾き具合を確認し、ハイライト部分に入れておいたマスキングをはがしたら、あとは微調整。大きすぎたハイライトには色を置き、下書きの鉛筆が残っていたら消していく。講座が始まって3時間ほどで、受講者全員の水彩紙にそれぞれのいちご豆大福が現れた。

 受講者の一人、都内在住の会社員の女性は「大福の粉感を表現するのが難しかった。でも、初めてマスキングを使って、こんな表現ができるんだ、と楽しかった」とうれしそう。水彩経験者だという都内の女性は、「いつも下書きをしないで書いているんですが、今日はいろんなやり方を試すことができて、新鮮でした」と話した。

 ケイリーンさんの、

「みんなが同じ絵の具、同じ参考写真で描いたのに、それぞれに個性が出ていて、面白かった。お疲れさまでした!」

 という言葉で、講座は終了した。

(文 生活・文化編集部/写真 清永 愛)

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