食べ物を描く際には、最適な「角度」がある、という話も出た。俯瞰(ふかん)だと立体感が出ない。正面だと見えない部分が多くなる。ベストなのは「45度」だとケイリーンさん。実際、講座で配布された写真も、丸のままのいちご豆大福の前に二つに割ったものを断面が見えるように置いて、斜め45度から撮影したものだった。
輪郭を描き終えたら、あんこに包まれたいちごも描いていく。
「写真通りの形じゃなくてもいいんです。自分の好きな形で。私は今日は、写真よりちょっと丸く、かわいく描きます。実物から離れすぎるのもよくないんですが、写真じゃなくてイラストなので、自由に、好みで描いていいんです」
話しながらケイリーンさんが描いていくイラストは、とがったいちごの先端がちょっと丸みを帯びていたり、豆がないところにも「ちょっとさみしいから」と豆を加えたり、あんこと餅の厚みを調整したり。
輪郭を描き終えたら、立体感を出すための影も加えていく。受講者たちの経過を確認しながら、ケイリーンさんは繰り返す。
「正確じゃなくていいですよ。もっと適当で。そこがアナログの面白さ。個性も出てきます」
最初は肩に力が入っていた受講者たちも、次第にリラックス。それぞれに下書きを仕上げていった。
次にケイリーンさんが取り出したのは、「マスキング」という液状の画材。水彩で色を着けていく前に、白く残しておきたいところをマスキングしておくと、誤って塗ってしまうことを避けられる。塗ってしまったら上から白い絵の具で塗ればいいじゃないか、と思うかもしれないが、
「水彩という透明な画材を使っているのに、不透明にしてしまうのはもったいない。紙の白をうまく残すことで、絵の仕上がりの透明感やシズル感が違ってくるんです」(ケイリーンさん)
マスキングは数分で乾くうえ、着彩が終わったら、消しゴムで消してはがすことができる。もちろん、そこに別の色を入れていくことも可能だ。