◆大学改革は必要、世界基準の教育力・研究力・臨床力を
では、教育や研究をする機関である大学側は、今後のあり方をどう考えているのか。
東京医科歯科大前学長で医学医療コンサルタントの吉澤靖之医師は、「選ばれる大学であることが、今まで以上に重視されるだろう」と言う。
選ばれる大学とは、世界に引けを取らない教育力、研究力、臨床力を備えた大学ということだ。その三つの力を客観的に評価する指標の一つが、毎年、イギリスの『Times Higher Education(THE)』が発表している「世界大学ランキング」だ。世界的にもっとも影響力がある指標とされ、2023年版では世界の1799校が対象となっている。ちなみに1位のオックスフォード大学(英)は、7年連続首位だ。
日本の大学は39位の東京大が最上位で、京都大(68位)が続く。現在、医学部は全国に82ある(防衛医科大を含む)が、同ランキングは傾向として総合大学の評価が高めに、単科大学は低めになるといわれている。吉澤医師は「世界ランキングでの上位ランクイン」を目指し、さまざまな改革を進めてきた。その一つに“単科大学の学内組織を統合的に再編したセンター化や領域制”がある。
それぞれの研究力を、横串を通すかたちで一体化することで、世界と太刀打ちできる力をつける。吉澤医師は学長時代、東京医科歯科大の医学部と歯学部の垣根を取り払い、両学部が連携して研究を進める土壌を作った。
「それまではバラバラだったが、医療データを全部統合することで組織力がついた。同じ方を向いて歩むことで研究力が高まる」(吉澤医師)
また、東京工業大、一橋大、東京外国語大との四大学連合の連携強化に取り組み、まず研究課題の総合的解析を目指してさまざまな提案を行ってきた。特に、研究課題が共通する東京工業大とはリサーチセンター設立を提案していた。
そして吉澤医師の退任後の22年10月、田中雄二郎新学長が、THE世界大学ランキングで国内の単科大トップの東京工業大と2位の東京医科歯科大が統合することを発表した。24年度中をめどに、できる限り早期の統合を目指す。
少子化が進んでいるうえ、AIやビッグデータで医療やシステムがどんどん変わっているなか、「今ある医学部がすべて残れるとは思いません」と厳しい意見を持つ吉澤医師。
「そういう意味でも、(東京医科歯科大と東京工業大の)統合は大学自体の存在意義にもかかわってくる部分だと考えています。病院ではインテリジェンス化が進むことは間違いありませんが、日本はデジタル化が遅れている。その遅れを取り戻すためにも、大学改革は必要です」
(山内リカ)
※後編<信頼できる医療情報、どう見極めればいい? SNS発信の“草分け医師”に聞く>に続く
ニッセイ基礎研究所 保険研究部主任研究員 三原岳氏(みはら・たかし)/早稲田大卒。時事通信社、東京財団研究員を経て2017年ニッセイ基礎研究所入所。研究分野は医療・介護・福祉。著書に 『地域医療は再生するか』など。
東京医科歯科大学前学長 吉澤靖之(よしざわ・やすゆき)医師/東京医科歯科大医学部卒。東京逓信病院、イリノイ大、ウィスコンシン医科大、筑波大などを経て2014年東京医科歯科大学長、20年退任。現在は千葉西総合病院などで臨床に関わる。専門は呼吸器内科。