◆医師余りが始まる? 需給バランスに変化

 まず医師の数だが、医学部数や定員が現在と同じだと仮定すると、今後も増えていく。

 対して医療ニーズは、人口減少や医療の進歩などさまざまな要素を加味すると、微増からある時期を境に微減に転じる。30年ごろには需要と供給が拮抗し、そこからは医師余りが始まるという推計が出ている。しかしこの場合、ただ単に医師が余るのではなく、変化が起こっていく。三原さんは言う。

「医療AIやロボットの進歩で、一部の手術が自動化されるなど、医師の仕事は変わるかもしれません。一方、身近なケガや病気に対応するプライマリーケアなどの領域では、患者との対話が重要になるため、AIやロボットでは代替しにくい面があります。遠隔診療の技術が進歩、普及すれば、地域で患者に対応するかかりつけ医が隣で助言しつつ、大病院の医師から専門的な知見を聞く診療スタイルも普及する可能性があります」

厚生労働省「医師の働き方改革について」の「医師の時間外労働規制について」の図をもとに簡略化した
厚生労働省「医師の働き方改革について」の「医師の時間外労働規制について」の図をもとに簡略化した

 22年12月に行われた国立大学病院長会議の記者会見で、医師の働き方改革への取り組み状況の報告があった。

 国立の42大学病院で22年8月時点における時間外・休日労働時間を調べると、年1860時間を超えた医師の数は、2万1977人中484人(2.2%)。年1860時間というのは、今回の働き方改革のB、およびC水準で定められた上限で、副業やアルバイト先などでの勤務も含まれる。この働き方改革によって何が起こるか。

「まず、医師の労働時間が制限されることで、病院は勤務体制の見直しを迫られます。大学病院の運営が回らなくなり、地域の中小病院に派遣していた若手医師を引き揚げるかもしれません。地方の病院でもアルバイトなどで対応していた診療科が維持できなくなる可能性もあります。その結果、地域の医療提供体制が影響を受けることが懸念されています」(三原さん)

 これに対し、厚労省は地域枠を設け、若い医師に地方勤務を義務付けて地方での医師不足の解消につなげようとしている。「中長期的には、働き方改革が病院再編を進める」(三原さん)という。

 一方で、個人の医院・クリニックはどの地域に開業してもいいので(自由開業制)、地域偏在は解消しない。さらに今後は、医師でなくてもいい業務は看護師や医療クラークなどが担当し、医師は診療業務にのみ携わるようになる。今まで以上に多職種の連携が必要となってくるのは確かだ。

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