親の看取りは誰しもが経験するもの。しかし、ゆっくりと最期のお別れをすることができなかったと、後悔する人は多い。まだまだ元気だからと、話し合わずにいると、その日は急にやってくる。AERA 2017年7月10日号では「後悔しない親との別れ」を大特集。お墓のこと、相続のこと、延命措置のこと、そろそろ話し合ってみませんか?
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「危篤に陥り、病院のベッドで寝ていたお袋がいったん目を開けたとき、つい『暗証番号は?』と聞いてしまった。後で振り返ると申し訳ないことをしてしまったと、今でも後悔することがあります」
こう語るのは、『70歳をすぎた親が元気なうちに読んでおく本』(アスペクト)の著者で、フリーライターの永峰英太郎さん(47)。2013年の秋、前年に初期のがんを克服した母(享年75)が、別のがんでステージ4と診断され、同時に父(78)の認知症が進行していることも判明した。そして14年1月、母は力尽きて自宅で倒れ、父も腰の圧迫骨折で入院した。両親の同時介護が始まった。
父は現役時代、ラジオ局のアナウンサーとして活躍。専業主婦の母は父の定年後、地元で保護司として活動を始め、家を留守にすることが増えた。そのかわりに父はあまり外出しなくなったという。
「母は独立して生活している私や姉に心配をかけたくないと、父の病気のことは隠していました。母には万が一のときに備えてバッグの中に通帳、印鑑などをまとめて入れておいてもらいましたが、暗証番号を聞いていなかったため現金を引き出すことができませんでした」(永峰さん)
父に聞いても解決しなかったため、父が認知症であることを証明する介護保険証や、母が入院した際の病院の領収書などを銀行に持参し、直談判してなんとか引き出すことができたという。
銀行口座は名義人が死亡したことが金融機関に知られると、口座が凍結されてしまい、相続が確定するまで出入金ができなくなる。入院費や葬儀代など、まとまったお金を家族が立て替えるのにも限度があるので、預金を引き出しておく必要がある。