●7割以上が70代で病気
財産のことだけでなく、葬儀はどこで行い、誰を呼ぶのか。お墓や相続についての要望を聞き出せないまま、14年2月に母は他界した。近所の親しい人に葬儀の日時を告知してもらい、無事執り行った。フリーランスの永峰さんは、葬儀が終わるまで仕事をセーブした。親戚に相談して、先祖代々のお墓に入れてもらうことができたが、問題は母に金融資産があったこと。
母の財産を相続するには「認知症の父に成年後見人を立てないと資産は移せない」と銀行に言われ、葬儀後も実家の片付けの作業などに追われた。
「死に直面している人に向かって、死後の準備について聞き出すのは、“死刑宣告”をするような気がして、私にはできませんでした。母が危篤になってからは葬式の準備などに追われて、ゆっくりと最期のお別れができませんでした。とくにお金やお墓の話は『縁起でもない』と、遠慮していましたが、70歳頃から対応していれば、母の最期に向き合えた。そう思うと、後悔しかありません」(同)
日本人の7割以上が70代で病気を発症し、75歳を迎えると3人に1人が支援や介護の必要な生活を余儀なくされる。この年齢にさしかかった親を持つ40~50代はある日突然、親の衰えていく様子を目の当たりにすることになる。
●話し合う間もなく…
『介護破産』(KADOKAWA)の共著者で、淑徳大学総合福祉学部の結城康博教授の試算によると、介護にかかる費用の目安は、約546万1千円という。
「バリアフリー対策など介護の初期費用が平均80万円、介護にかかる月々の費用は平均7万9千円といわれていますので、これに平均4年11カ月という介護期間をかけますと、合計で約546万1千円になるのです。さらに、生涯の医療費の8割を亡くなる前の約2年間で使うというデータもありますので、終末期にまとまったお金を用意しておかなければ、家族の負担は大きくなります」(結城教授)