慶應大の宮田裕章教授(医療政策・管理学)は言う。
「将来を見据え、最新のテクノロジーを取り込んで個々人の健康や医療に対する主体的な選択を支えるシステムをデザインする必要がある。そのために必要なのが、個人を中心にした健康・医療データの統合です」
医療そのものの質向上のために本当に必要な情報は、医療行為がどの程度、その人の健康や生活を向上させたかだ。医療や健康、各種の簡易検査など多くのジャンルから、その判断に使える質の高いデータを戦略的に集めていけるようになることに、宮田教授は期待を寄せる。
すでに皮膚科の分野では、皮膚の写真データをAIがビッグデータに照らして解析し、診断が下せるようになるという報告が出てきている。カラオケ好きな人にはカラオケを使った健康法を示したり、認知症予防のために例えばSNSを使って脳の活性化をサポートするなど、健康状態と趣味嗜好を結びつけ、「楽しみながら自然と健康になる」ツールの提供も可能になる。
「現段階ではどの行為が長期的に見て健康や生活を向上させるかははっきりしていないものが多く、玉石混交状態であることには注意が必要です。ただ、今後データが積み上がっていけば、より精度の高い情報提供が可能になるでしょう」(宮田教授)
●ヘルスケアを標準装備
国主導のデータベース作りには「民業圧迫」の指摘もある。
「米国のIT大手の中には、医者をスタッフに加え、開発側とコミュニケーションをとりながら医療、健康データに関するビジネスを開発しているところもある。日本は遅れている」
と焦る事業者もいた。アップルはiPhoneなどに搭載するios8に「ヘルスケア」というアプリを標準装備している。
個人向け健康管理アプリ「わたしムーヴ」や法人向け「健康サポートLink」を展開するドコモ・ヘルスケアの佐近康隆コーポレート本部長は言う。
「匿名化したデータの需要が急激に伸びるとは思わない。電子化されている健診、レセプト(医療費明細)データと組み合わせ、薬局や保健師の指導に使えるようなデータなら、需要が生まれそうだ」