これほど違うのに、なぜ新たに「発達障害」という名称でこれらをひと括りにするのか? ひと括りにすることで個々の障害の境界がぼやけ、誤解や混乱も生んだという指摘もある。日詰正文・厚生労働省発達障害対策専門官は、こう解説した。

「普通の育児ではうまくいかず親が困っていたり、本人がみんなと同じようにやっているのにうまくいかず困っていたり。そんな当事者たちの困り事に対する適切な対応の『コツ』が、世界中の学者や支援者が開発したノウハウから日々わかってきています。さまざまなコツが発達障害というキーワードで見つかりますよ、コツを知れば今よりも楽になるかもしれないですよ。そんなメッセージを発信するために発達障害というゆるやかなゾーンが設けられたのです」

 日詰さんは、「メタボリックシンドローム(メタボ)」同様、意識喚起の用語なのだと付け加えた。もっとも、メタボと発達障害とでは大きな違いがある。メタボは内臓脂肪を減らすことにより解消できる。それに対し、発達障害は、脳機能の発達が関係する生まれつきの障害であり、根本的に治るものではない。

●話しかけに一切無視

 発達の過程で明らかになるため、生まれてすぐに診断できるわけではない。問診や行動観察などから診断するが、判定が難しい。グレーゾーンが多く、専門家であっても判断がつきにくいのが発達障害の難しいところだ。

 乳幼児健診などで発達障害の可能性がある子を拾い上げるスクリーニングも全国の自治体で実施されているが、発見できる割合は自治体ごとにバラツキがある。保健師らの勘や経験のみに頼っている現場もある。

 都内在住の母親は、話しかけても、何を働きかけても一切無視する長男にどう接していいのか、悶々と悩む日々が続いていた。心配して長男が3歳の頃に受診した最初の病院では、診断がつかず様子見となった。

「お母さん、子どもにちゃんと関わってあげている?」

 という医師の言葉に、「私のせい?」と自分を責めた。

 次に訪れた総合病院では、児童精神科医から前置きもなく「自閉症」と診断名だけ告げられた。先の見通しを聞いても、

「ここでお話しできることは何もありません。あとはソーシャルワーカーのところで」

 と突き放されるだけだった。

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