相続預金の払い戻し制度について説明する全国銀行協会のチラシ(右)、相続改正について説明する法務省のパンフレット
相続預金の払い戻し制度について説明する全国銀行協会のチラシ(右)、相続改正について説明する法務省のパンフレット
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相続大改正の主な変更点&注意点とやるべき備え(週刊朝日2019年7月5日号より) 
相続大改正の主な変更点&注意点とやるべき備え(週刊朝日2019年7月5日号より) 

 相続の大改正が7月1日からいよいよ始まる。故人の口座からの預金引き出しや自宅の生前贈与、介護の貢献など、身近な分野で制度が大きく変わる。変更点&注意点をポイントごとに徹底解説した。利用しやすくなった自筆証書遺言についても紹介。いつか必ず来る相続に失敗しないよう、いまから備える!

【図解】口座の引き出しや新しい権利など、相続大改正の主な変更点&注意点こちら!

「施行間近になり相談が多くなっています」

 相続に詳しい税理士の佐藤和基さんのもとには、さまざまな相談が寄せられる。民法の相続ルールが大幅に変わるのは、実に約40年ぶり。誰でもいつかは向き合うだけに、無関心ではいられない。

 今年1月からすでに施行されたものもあるが、大部分は7月から変わる。身近なものから順番に解説していこう。まずは、遺産分割前でも故人の口座から一定額を引き出せる制度。

 一定額というのは、金融機関ごとに故人の預貯金残高の3分の1について、相続人の法定相続分をかけたもの。例えば残高が900万円あって相続人が子ども3人だけだとすると、300万円×3分の1の100万円まで引き出せる。

 金融機関ごとに150万円の上限がある。残高が数千万円あっても、引き出せるのは150万円まで。葬儀代や当面の生活費といった、比較的少額の支払いに対応する制度のためだ。

 7月以前に亡くなった人の預貯金についても、7月以降に引き出す場合は新しい制度の対象となる。

 この制度ができるまでは、口座が金融機関によって凍結され、お金に困るケースが多々あった。

「今年海外で事故で亡くなった母親の訃報(ふほう)が金融機関に伝わり、口座が凍結されてしまいました。遺体の引き取りや葬儀の費用がかさみましたが、長男の私が立て替えるしかありませんでした。父は早くに亡くなり、弟とは長い間連絡が取れない状況でした」

 神奈川県に住む40代の男性はこう振り返る。母は昔から憧れていた海外で悠々自適の生活を満喫するつもりだったが、事故に巻き込まれた。男性はしのぶ間もなく、現地とのやり取りやお金の工面に追われた。

「母は日本に戻るつもりだったので、通帳や印鑑を日本に残していました。でも、私以外の相続人である弟と連絡がなかなか取れず、預金は引き出せなかった。やっと連絡がついたのは、葬儀の準備などが一段落した後です」

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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