これまでは相続人全員の同意がなければ、遺産分割協議を終えるまで引き出すのは難しかった。

「新しい制度は、遺族同士の調整がつかず、相続人全員の合意を取り付けるのが難しいケースで恩恵が大きい」(佐藤さん)

 注意点もある。失敗しないためにもポイントを押さえておこう。相続と遺言を専門に扱う行政書士の佐山和弘さんはこう指摘する。

「引き出すには戸籍謄本などの書類をそろえる必要がありますが、意外と時間がかかる。葬儀代などすぐに必要なお金は、現金で用意しておいたほうが無難です」

 全国銀行協会によると必要な書類は、被相続人(故人)や相続人全員の戸籍謄本、預金を払い戻す人の印鑑証明書など。

「必要な書類は金融機関やそれぞれのお客様の状況によっても異なります。事前に、それぞれの金融機関に確認しておくと安心です」(全銀協)

 亡くなるまでに転籍や引っ越しを繰り返していることが多く、戸籍謄本を出生までさかのぼって集めるのは手間だ。書類が用意できても手続きにも時間が必要。あるメガバンクでは「2~3週間程度」はかかるという。

「急なケースに間に合うかどうかは、金融機関の対応によっても変わってくる。過度に期待しないほうがよいかもしれません。遺族を受取人とした生命保険に加入しておくのも一つの手です」(佐山さん)

 次は、法定相続人以外でも介護などの貢献分が認められる制度。

 これまでは長男の嫁が夫の親を介護しても、遺言がない限り遺産はもらえなかった。今回の改正で、「特別寄与料」を受け取れるようになるが、ここにも課題がある。相続コーディネーターで相続支援会社「夢相続」の曽根恵子代表はこう話す。

「従来の法定相続人にとっては、取り分が少なくなる。すんなりと受け入れられないかもしれません。貢献分を主張しすぎると、親族間でトラブルの種になる可能性も。納得してもらえるように、どれだけ貢献したのか説明できるようにしましょう。介護に充てた時間をノートに記録しておくといいです」

 実際にこんなケースがあった。高齢の親と同居していた埼玉県の男性は、親が亡くなったときの妻の言葉が忘れられないという。長男である男性は仕事で家を空けていることが多く、父母の介護や面倒は妻に任せきりだった。成人後に実家を離れた2人の弟も正月やお盆休みに帰省するだけ。親が亡くなってから兄弟が協議する場で妻は、「がっかりだわ」とつぶやいたという。

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