感染症は微生物が起こす病気である。そして、ワインや日本酒などのアルコールは、微生物が発酵によって作り出す飲み物である。両者の共通項は、とても多いのだ。感染症を専門とする医師であり、健康に関するプロであると同時に、日本ソムリエ協会認定のシニア・ワイン・エキスパートでもある岩田健太郎先生が「ワインと健康の関係」について解説する。
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パスツールが『ワインの研究』を著しても、化学者の「フォン・リービッヒ」はこれを読まなかったという。彼はパスツールの微生物による「発酵」説を頑なに拒否し続けた。これは単にフォン・リービッヒが頑迷なわからず屋だったためではない。彼は彼で、偉大な実験成果を出していたのだ。
フォン・リービッヒは実験で、(非生物である)たんぱく質が卵白などを分解できることを示した。そのため、やっぱり生物がアルコールを造っているのではなく、物質(たんぱく質)が原因ではないか、と思ったのだ。
このたんぱく質は、今日では「酵素」と呼ばれている。
■化学反応を早める物質を触媒といい、酵素もその一種
酵素(enzyme)とは、化学反応が起きるときの触媒のことだ。しょくばい?なんじゃそれ。それは、そこにある化学反応のスピードを速めてくれるような物質のことだ。英語ではcatalyzerと書きカタライザーと読む。触媒作用のことはcatalysis、カタリシスと読む。もともとはギリシャ語由来の言葉で、「分解」の意味だ。
まとめると、触媒とは化学反応を早める物質のことで、触媒の一種に酵素がある。酵素の多くは、たんぱく質からできている。ついでに言えば、たんぱく質はアミノ酸からできている。
で、ですね。そのたんぱく質は何が作っているかというと、これは生物なんですねー。そう、酵素は微生物が作る物質(たんぱく質)なのだ。微生物が酵素を作り、酵素が発酵という化学反応を起こすときの触媒になっている。わかりますか?