「あーん、アイアム、ライター。ライターのヤマダ」

 ボスがニコニコしながら手を差し出してきた。握手だ。笑顔を浮かべているけれど、その顔には明らかに、

「アンタ、英語できないのね」

 と書いてあった。脈拍が一層速くなる。

「えーっと、ヒ、ヒーイズ、キムラマンのカメラ」

「キムラマン?」

 ボスが流暢に復唱した。

 何かが間違っていると誰もが思いつつ、しばらくの間、誰もがその原因に気づかなかった。

 四人は円陣を組んだまま、しばらくの間、きょとんとしていたのだった。

週刊朝日 2018年6月8日号

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山田清機

山田清機

山田清機(やまだ・せいき)/ノンフィクション作家。1963年生まれ。早稲田大学卒業。鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』(第13回新潮ドキュメント賞候補)、『東京湾岸畸人伝』。SNSでは「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれている

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