食堂ではおばさんたちが働き始めた。厨房では7、8人の人影が忙しなく動き回っている。ベテランぽいおばさんがひとり、合間をみて「付き添いのみなさま~。雪のなかご苦労様で~す。給茶器のお茶は無料になってますので、ご自由にお飲みくださ~い」と声をかけてくれた。飲んでよいものか、迷っていた保護者たちが一斉に給茶器にむかった。さっきのベテランおじさんは給茶器から魔法瓶にお茶を補充している。抜け目ないな。4時間のうち、3回の補充。ベテランとベテランが対峙した。ただのお茶ごときで緊張感は走ることなく、「お孫さんの受験ですかー?」「そうなんですよー」と、和むベテランたち。

 試験終了5分前くらいから付添人たちがソワソワし始めた。居ても立ってもいられずに、気の早い人は子供を迎えに昇降口へむかう。私もむかう。ベテランにはまだまだ遠い。

「お疲れ様でしたっ!」。交通整理をしつつ、受験生の一人一人に声をかけるベテラン風の先生方の表情が温かい。

 出てきた我が子に「どうだった!?」と聞けば「やることやったからあとは待つだけだ」とのまるでベテランじみた返事。

 たくさんのベテランひしめく受験会場で、ぺーぺーの私の原稿は4時間進むことなくメモとにらめっこするだけであった。

週刊朝日  2018年2月23日号

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