バニシング・スプレーで引かれた線(写真:gettyimages)
バニシング・スプレーで引かれた線(写真:gettyimages)
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 開幕戦のブラジル対クロアチア。前半40分過ぎ、FWネイマールが倒されて、ブラジルにFKが与えられると、西村雄一主審がスプレー缶を取り出し、クロアチアの選手が作る壁の前にシューッと白線を引いた。これ以上近づいてはいけないという線をスプレーで示したのだ。W杯初登場となったこの道具は、「バニシング(消える)・スプレー」と呼ばれ、引かれた線は、その名の通り1分もすると跡形もなく消えてしまう。

 バニシング・スプレーを扱う会社のホームページでは、ポルトガル代表のクリスチアーノ・ロナウドが「すばらしいアイデア。キッカーにとっては、とても助かる」とコメントしている。

 日本の試合では見かけないこのスプレー、「今のところ国内では流通していないようです」(大手スポーツ用品店店員)というが、Jリーグでの導入を考えてもよさそうだ。

 今大会では、もう一つ新技術が導入された。ゴール判定を補助する「ゴールライン・テクノロジー」だ。これは、ピッチ周辺に設置された7台のハイスピードカメラを使って、ボールがゴールラインを越えたか判断するというもの。

 フランス対ホンジュラス戦では、判断が難しいフランスの2点目を、ゴールライン・テクノロジーがゴールと判定した。

 人間にはできない正確な判定を下すなら問題はなさそうだが、ドイツサッカー協会公認S級ライセンスを持つ解説者の鈴木良平氏は、疑問を投げかける。

「ドイツでは“皇帝”ベッケンバウアー氏が、以前から機械による判定に反対しています。『人間が判断するから、50年近くたっても、いまだに議論できる試合がある』というのです」

 1966年のW杯イングランド大会決勝、イングランド対西ドイツ。イングランドのハーストのシュートはバーにあたって真下に落ちた。これがゴールとされて西ドイツは優勝を逃した。

「いまだにドイツ人は、あれはゴールじゃないと言い、イングランドの人は入っていたと言う。こういうことがなくなったら寂しいじゃないですか。今の時代では、通らないかもしれませんけど……」

 すべて機械が審判を下す日もそう遠くないのかも。

週刊朝日  2014年7月4日号