父親ほどの年齢の漁師から新卒まで、坪内知佳は幅広い年代の漁師をたばねる(撮影/写真部・馬場岳人)
父親ほどの年齢の漁師から新卒まで、坪内知佳は幅広い年代の漁師をたばねる(撮影/写真部・馬場岳人)
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 山口県の沖合に浮かぶ萩大島で、よそ者、当時24歳、シングルマザーでありながら、漁師たちをたばねて会社の社長になった女性がいる。事業成功までの波瀾万丈な道のりを描き話題を生んだ著書、『荒くれ漁師をたばねる力』の著者・坪内知佳さんだ。刊行から1年半、彼女のパワーは衰えるどころかさらに進化を見せている。改めて振り返る“荒くれ”たちとの日々と、彼女がいま描く「夢」とは――。

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「うち、採用には困ったことがないんですよ」

 坪内知佳はサラリとそう言った。彼女が代表を務める株式会社「GHIBLI(ギブリ)」は、山口県萩市にある。全国規模で人不足が叫ばれている昨今、地方の中小企業で採用に困っていないと公言できる企業は少ないだろう。

 ギブリは地方に拠点を置く、高給のIT企業などではない。旅行部門、コンサルティング部門があるが、メインの事業は鮮魚販売部門。詳しくは後述するが、それにしても「おしゃれ」とか「人一倍稼げる」という仕事ではない。なのになぜ、「ギブリで働きたい」という希望者が絶えないのか。そのヒントは、坪内の次の一言からうかがえる。

「みんながみんな、想い合える世の中であってほしいんですよ。一生に一度の人生だから、好きなスタッフと楽しく仕事したいし、気持ちよく生きたいじゃないですか。みんなの人生がそうあってほしいんです」

■漁師からの意外な相談

 さかのぼること10年前の2009年。当時23歳、シングルマザーだった坪内は、やむを得ない事情もあって故郷の福井県には戻らず、女手ひとつ、子どもを生んだ萩市で生きる決意を固めていた。そのために高校、大学時代に必死に磨いた英語を活かして翻訳事務所を立ち上げたことが、予想外の出会いを生んだ。

 萩市の観光に関するウェブの翻訳の仕事を請けたのが縁で、地元の旅館の仲居さんの語学指導と、繁忙期のサポートをすることに。その年の12月、忘年会シーズンで忙しい宴会場の手伝いをしている時、萩の港から船で数分、日本海に浮かぶ萩大島の松原水産という船団で漁労長をしていた長岡秀洋と知り合った。

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漁業のことなど考えたことがなかった