「休止」「予算要求取り下げ」と聞けば、相当程度経産省も反省しているように見える。「解体的出直し」と言えば、何か全く違ったものに生まれ変わるかのような響きもある。しかし、それは典型的な官僚の騙しのテクニック。これほどの逆風下でJICをすぐに生き返らせるのは難しい。経産省が存続の姿勢を見せれば見せるほど、世論の批判は高まる可能性がある。そんなときの常とう手段が、とりあえず「休止」してほとぼりを覚まし、「諮問委員会」という第三者に問題点を厳しく指摘してもらって、それを改善する。経産省の意見ではなく第三者が言ったとおりにしますという形をとって「解体的出直し」をするのである。

 もちろん、その本当の意味は、単に「経産省の利権は維持して再スタートする」ということだ。世耕大臣が言った、「ガバナンスに国の意向をしっかり反映」というのは、実は、経産官僚たちの「個別案件への介入利権」をしっかり確保するという意思を宣言させられたものだ。もちろん、それはそのまま世耕大臣の利権にもなる。

「産業再生機構」の経験から言って、私は、「JIC」の「官僚のおもちゃ化」がさらに進むことになると予測している。なにしろ、ノーリスクで多額の資金を動かし、ベンチャー企業や次世代技術の育成に「関わった気になれる」。天下国家を動かしていると思いたい官僚にとって、こんな面白いおもちゃはない。

 高額報酬がなく、経産省が介入すると宣言してしまったJICにはもう優秀な人材は集まらない。そうなれば、「官僚のおもちゃ化」に歯止めはなくなる。したがって、JICの成功はもう不可能だ。

■居酒屋で陳情した産業革新機構担当課長

 実は、産業革新機構を作る話が出た時、私はまだ経産官僚だった。たまたま、内閣審議官として出向していたが、革新機構設立には猛反対していた。産業再生機構の設立を担当し、執行役員としてその運営に携わった審議官級の幹部が反対すると影響力が大きいと考えたのであろう。当時の担当課長から、「古賀さん、飲みに行きましょう」と誘われて行った居酒屋の座敷で、担当課長は、「古賀さん、どうかおとなしくしていてください。古賀さんに騒がれるとまずいんです」と陳情を受けたことを思い出す。その時、私は、「官民ファンドの役割は終わったんじゃないか。また作れば、ゾンビ企業の延命に使われるだけだぞ」と言ったが、その課長が、「絶対にそんなことはしません。産業再生機構の仕組みをそのまま使います」と懇願したのを思い出す。

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