辞表を出した民間取締役が、「経産省の介入でゾンビ企業の延命機関になる」という趣旨の批判をしていたが、それを自ら宣言しているようなものだ。これは、ファンドとしては、命取りになる発言になっているのだが、世耕大臣はそれをわかっていないようだ。

■もう優秀な人材が集まらない産業再生機構

 実は、JICはアメリカにバイオ・創薬系の子ファンドを立ち上げたばかりだった。世界最高クラスの人材をリクルートしていて、その際、JICの子ファンドは高額(と言ってもシリコンバレーのプロから見れば薄給と言われるだろうが)報酬を約束している。もちろん、経産省の承認を得たうえでのことだ。JICのある社外取締役の例えを借りれば、ロナウドやメッシを雇うのに、さすがに財務省の次官並みの固定給でとは言えないということだ。

 ここで注意しなければならないのは、海外のプロたちには、「日本のために」というお題目は通用しないことだ。日本国内であれば、優秀な日本人で、「日本のために」という志を持つ人は少なからずいることは前に述べた通りだが、シリコンバレーではありえない。

 しかも、今回の騒動は、シリコンバレーに瞬く間に伝わったようだ。「JICという官民ファンドの子ファンドが、経産省の横やりが入ってできたと思ったら、清算になったそうだ」という噂はJICにとっての致命傷になる。なぜなら、この世界で活躍するプロから見て重要なのは報酬だけではないからだ。それと並んで重要なのが、どれくらい自由に面白いことをやらせてもらえるかということなのだ。その意味では、JICは、経産省という日本の役所に支配されていて、一回決めたことをひっくり返されることもあるということになれば、優秀な人材は「絶対に集まらない」と言っても過言ではない。

 それは、もちろん、国内にも当てはまる。つまり、JICには、今後、優秀な人材が集まることはないということだ。集まるとしたら、官の力を頼みにしないと仕事ができない人か、官民ファンドにいたことが自分の箔付けになると考える人だろう。二流か三流ということだ。

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