このように、ファンドに関する役所の介入はおよそ限度というものがない。

■再生機構が示した民間人の「矜持」

 一方、あまり知られていないが、再生機構関連では、設立前に報酬の問題も大きな議論となったのをよく覚えている。今回のJICのケースと全く同じように、「優秀な人材に来てもらうには、官僚の給与体系では無理だ」という意見がかなり強かったのだ。私も、「確かにそのとおりだな」と思ったこともあった。しかし、各省庁のトップである事務次官よりも高い給与を払うのかという「官」の理論も根強かった。これは、「官」のプライドと言っても良いのかもしれない。とりわけ、財務省はそれを強く主張した。

 しかし、結論は意外とあっさり出た。社長に就く斉藤惇氏(元野村証券副社長)や産業再生委員長になる高木新二郎氏(元判事、再生を手がけるトップクラスの弁護士)らが、「国の資金と信用をバックに仕事をするのに、その成果を自分のものであるかのように高額報酬を求めるのはいかがなものか」という、極めて真っ当な考え方を示し、後に専務取締役となった冨山和彦氏(現(株)経営共創基盤代表取締役)もそれに賛同したので、一件落着となったのである。当時1億円プレイヤーと騒がれた松岡真宏氏(現フロンティア・マネジメント(株)代表取締役)らが、報酬大幅ダウン覚悟で参加するのも話題となった。

 官僚は、自分たちは国のために働く高い志を持っているが、民間の人は、金儲けしか考えていないから、高い報酬がなければ公の仕事には参加しないと考える傾向がある。しかし、私は、当時の状況を見て、それは官僚の思い上がりだということを思い知らされた。民間人も官僚も同じ人間。官僚でもろくでもない利己的な人もいれば、民間にも世の中の役に立ちたいという志の高い人もいる。それだけのことだ。だから、民間人で高い能力を持つ人でも、国のためだと思えば、一定期間なら薄給でも馳せ参じる人がいるのは当たり前だ。現に、年収ダウンを厭わず集まった当時の幹部の面々は、むしろ、年収ダウンを誇りにしているかのようにさえ見えた。よく「官僚の矜持」という言葉を聞くが、私に言わせれば、これこそ、「民間人の矜持」である。

次のページ 経産省が犯したもう一つの過ち