腫瘍内科・緩和ケア内科医 西智弘さん/川崎市立井田病院腫瘍内科部長。緩和ケアチームや在宅診療にも関わる。一般社団法人プラスケア代表理事として、「暮らしの保健室」を運営(写真:古川雅子)
腫瘍内科・緩和ケア内科医 西智弘さん/川崎市立井田病院腫瘍内科部長。緩和ケアチームや在宅診療にも関わる。一般社団法人プラスケア代表理事として、「暮らしの保健室」を運営(写真:古川雅子)

 緩和ケアとは、重い病気を抱える患者・家族が直面するさまざまなつらさを軽減し、自分らしい生活を送れるように支える医療。その時期を選べることもまた重要だという。腫瘍内科・緩和ケア内科医の西智弘さんに、ケアの取り組みを聞いた。AERA 2022年11月7日号の記事を紹介する。

*  *  *

 僕が川崎市で実践しているのは、「どこのドアからでも入れる緩和ケア」です。

 2017年に、市内に「暮らしの保健室」を作ったことが大きい。医療者と市民が気軽につながることのできるカフェで、がん患者に限らず、医療者と接点を持ちたい市民が利用。保健室から緩和ケアにつながった人も大勢います。

 ここでは、緩和ケアという言葉は使いません。別に、自分ががん患者だと言わなくてもいい。コーヒーを飲みながら、その人が自分の人生のどこに価値を置いているのか語ってもらうことも。それは、緩和ケアでいう「ライフレビュー」の代替にもなります。

 一方、他院で抗がん剤治療を受けている患者さんが「今のうちから、緩和ケアのかかりつけ医に」と希望された場合は、15年に僕が勤務する病院に開設した「早期からの緩和ケア外来」を案内しています。生活の質を維持して過ごすことができるうちに、「これだけはやっておきたいこと」を話し合い、実現できる。終末期にぎゅっと顔合わせをして計画し始めても、間に合わないことは多々あります。早くから関わりを持つようになってから、患者さんの容体が急変しても、僕が患者さんにかける言葉が変わりました。「○○さん、頑張りましたね。あれもこれも達成できてよかったですね」と。

 大事なのは、患者さんがどの段階からケアを受けたいかを選べるということ。最期まで「自分らしく生きる」を誰もが選べる。それを僕ら医療者が支える。そんな構図の方が、医療のあり方として健全だし、僕がつくりたいのは、そういう社会なんです。

(ノンフィクションライター・古川雅子)

AERA 2022年11月7日号