「一般的に特養の入居者は、長期間にわたって寝たきりだったり、オムツの中に排泄物がずっとあったりの生活を送っています。そんな日々が続けば、皆生きる意欲や元気になろうとする気力を失ってしまいます」

 そう話すのは、「杜の風・上原 特別養護老人ホーム正吉苑」(東京都渋谷区/定員80人)の施設長の齊藤貴也さん。

「ここではそれらを取り戻すためのケアを行っています。脱水と低栄養、排便困難、運動不足の改善です」

 具体的には1日1500ミリリットルの水分摂取、1500キロカロリーの栄養摂取、そしてオムツ外しだ。オムツは施設で購入すらしていないという。“排便はトイレで”を目指し、入所者は入所当日からオムツを外し、立って歩く練習をする。

 要介護4で車椅子で全介助が必要だった100歳の女性が、入所2カ月で歩行能力が回復し、2年ぶりにシルバーカーを押しながら歩けるようになった。また、入所まで何年間もオムツでの排便生活だったのに、入所当日にトイレで便座に座る姿を見て感涙した家族もいたという。

「施設で、転倒が危険だからと寝たきりにさせるのではなく、転倒のリスクを説明した上で、歩く練習をする。歩けないのは歩き方を忘れているからで、筋力をつけるより繰り返し歩くことが大切なのです」(齊藤さん)

 水分摂取も50種類の飲料を用意し、一人ひとりに合った水分プラン(時間や量、コップ)で摂取習慣をつけていく。さらに「今年やりたいこと応援活動!」と銘打ち、入居者や家族に今年中にやりたいことを聞き、ケアプランに記して取り組む。なかには「高尾山(都内)に登りたい」と希望した人もいて、見事、実行できたという。

 すべての入居者が同じようにいくとは限らないが、こうした過程は、介護職員のモチベーションを高めることにもつながるのではないだろうか。

 人手不足で疲弊しながら入居者の世話に日々追われるよりも、自立した入居者を自宅へと送り返せるほうが、仕事への取り組み方も変わってくるだろう。

次のページ