「(面会ができないため)外部者が入らず施設が密室化すると、職員の緊張感がなくなりがちです。それによって利用者への対応がぞんざいになることはあり得ます」

 それが入所者の身体にも影響している。公益社団法人全国老人福祉施設協議会によると、

「外出も家族との面会もできずレクリエーションにも制限がかかるなど、入所者のストレスが高まり、不穏な言動が増えたり、認知症の程度が進んだり、身体機能の低下が進むなどの状況が発生してきています」

 サービスの質では、医療面でも施設と入所者とで、考えに大きな隔たりが見られるケースがある。

 3年前に開設した都内の特養に90代の母親がいる絵里さん(仮名)は、こう明かす。

「母は施設で1週間に3回の負傷(打撲とやけど)がありました。やけどは腹部と右ひじで、胃ろうのふたが夜間に外れて胃液(胃酸)が流れたことによるものでした」

 しかし発見は3時間後。その後、施設が提携する皮膚科医に診てもらったが治らず。施設看護師にその旨を伝えると「(提携の)医師の指示どおりにしか動けない」の一点張り。自分で別の病院に連れていくと、薬を処方されて1週間で治った。

 施設側から受け取った事故報告書の内容は十分とはいえず、施設長からの謝罪は1カ月以上経ってからだったという。

 施設の医療面について、利用者側の希望と施設の対応に差が出るのはなぜなのか。

 前出の結城教授が言う。

「特養はあくまでも生活の場を提供する施設なので医療行為は限定的です。望む医療ケアをしてもらえない=ブラックというわけではありません」

 厚生労働省高齢者支援課担当者に聞くと、

「実際に、『施設嘱託医が全然往診に来ない』など、不満の声が寄せられることはあります」

 としながらも、

「特養における医療の関わり方については、今より強化して病院並みにというのはすぐにできるとは言い難く、特養で受けきれない医療ニーズは病院や介護老人保健施設など他のサービスとの役割分担で対応しています」

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