日本介護福祉士会前会長で、現在は本県介護福祉士会会長の石本淳也さんは、「古き措置時代の風習が根付いている施設は危険」と指摘する。「措置時代」とは、介護保険制度が始まった2000年4月より前のことだ。

 現在は高齢者虐待防止法で禁止している行為も、当時は「許容」されていたため、いまだにそのときの常識のまま介護する職員がいることは否めないという。

 介護の現場に30年間いるという石本さん自身も、

「当時は(事故防止のため)車椅子に固定しなさい、と教えられました。もちろん、今は身体拘束はNGです」

 時代とともにサービスの質も変化していかなければならないが、

「利用者に乱暴な物言いをしたり、薬を余分に飲ませて眠らせたり。そういったケアが行われていることは否定できません」(石本さん)

 そうした側面のほかにも、質の低下の大きな要因として人手不足が挙げられる。介護事情に詳しい淑徳大学の結城康博教授(社会福祉学)が話す。

「特養に限りませんが、介護の現場は全国的に深刻な人手不足です。それによってサービスの質が落ちている特養は少なくないです」

 都内の特養で働く未知さん(仮名・40代)の施設では朝、30人の「起床介助」を一人でするといい、

「朝食の7時半までに全員を起こして着替えなどをすませるために、最初の人は朝5時半に起こします。利用者には気の毒です。一人ひとりと、もっとじっくり話をしたいけれど、職員の慢性的な人数不足でそれもできないもどかしさがあります」

 公益財団法人介護労働安定センターの2019年度の介護労働実態調査では、事業者に従業員の過不足について聞いたところ、「大いに不足」「不足」「やや不足」と回答した合計が65.3%。労働者でも、仕事に関連した悩みや不満では、「人手が足りない」の回答が一番多かった。

 さらに今の時期、コロナ禍が介護サービスに影響している可能性がある。

 特定非営利活動法人介護保険市民オンブズマン機構大阪の担当者が言う。

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