この件について、中央区は「取材には回答できません」(地域整備課)、企業グループの広報窓口の三井不動産も「個別の契約について回答は差し控えさせていただきます」(担当者)と、内容を明らかにしていない。

 かりに超高層棟だけで算定すると、協力金は約14億円。51億円近い想定額との差は約37億円にのぼり、都の見積もりが多かったことになる。協力金が14億円だとすれば、用地は約20億円も跳ね上がる。それ以外の要因は考慮していないが、約150億円で売れる用地を129億6千万円に下げていたとすれば、都民はどう思うだろうか。

 協力金についての合意時期なども、区と企業グループにたずねたが、回答は得られなかった。

 都は五輪後、企業グループに分譲や賃貸、商業施設の運営などで計画を大幅に上回る収入があった場合、増収分の半額を都に追納させるという。それでも今回“損をした”20億円分については「(追納のケースには)当てはまりません。(日本不動産研究所による)調査報告書が算出した評価額はあくまで計画段階の想定で、現実の額とは異なります。開発協力金も、中央区と企業グループが決めるもので把握していません」(都市整備局)という。

 選手村用地をめぐっては、周辺の土地価格より不当に安く売却する契約を結んだとして都民らが17年、都を相手取り、前知事らに適正価格との差額の賠償を求める訴訟を起こした。いまも裁判が続く。

 五輪が延期されても、都の失った利益が戻ってくるわけではない。そのツケはいずれ、都民に回される。(本誌・池田正史)

週刊朝日  2020年8月7日号

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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