長く伸びた茎の先に一輪の花をつけて風に揺られている姿は、雑草と呼ぶのはもったいない可憐さである。こんなにステキな花が河原や道端に咲いていることが、信じられない。

 もうひとつは、花びらの形が端正を極める丈の低い花である。

 花弁の色は純白で、中心部が薄紫に染まっている。大センセイ、この花を見る度に、女性が大学の卒業式なんかで着る矢羽柄の着物を思い出す。まさに“日本の美”と呼ぶに相応しい凛とした花なのである。

 大センセイ、このお気に入りのふたつの花の写真を撮って、SNSに投稿した。

 すると、予想もしていなかったコメントが寄せられたのであった。

 ポピーのようなオレンジ色の花には……。

「それは、ナガミヒナゲシという外来種です。根から毒物を出して周囲の草花を枯らしてしまうので、駆除の対象にしている自治体もあるはずです。見つけ次第、引っこ抜きましょう」

 なんだか、ものすごく悪いヤツみたいである。

 そして、あの“日本の美”には……。

「これは日本の花ではなくて、ニワゼキショウという外来種ですよ。もともとは観賞用として輸入されたものが、野生化したようです」

 まさか、これが日本の花ではなかったなんて!

 大センセイ、桜を見るとすぐ「日本の美」だとか詠嘆する手合いが大嫌いだが、自分が日本の美として愛でていた花が外来種だったとは、なんともマヌケな結末であった。

週刊朝日  2019年3月8日号

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山田清機

山田清機

山田清機(やまだ・せいき)/ノンフィクション作家。1963年生まれ。早稲田大学卒業。鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』(第13回新潮ドキュメント賞候補)、『東京湾岸畸人伝』。SNSでは「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれている

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