イラスト/阿部結
イラスト/阿部結

 SNSで「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれるノンフィクション作家・山田清機さんの『週刊朝日』連載、『大センセイの大魂嘆(だいこんたん)!』。今回のテーマは「日本の美」。

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 春になって鬱陶しいのは、スギの花粉と花撮り爺さんの急増である。

 花撮り爺さんたち、朝も早よからやたらと高級なカメラをぶら下げて、梅の花、桜の花、花壇の花々にシャッターを切りまくっている。

 大方、自分の撮った写真をSNSにアップして、爺さん同士「いいね!」の押しっこでもしているのだろうが、まことに優雅というか、暇というか、結構なご身分としか言いようがない。

 しかし、この春の花撮り、自分でやってみるとなかなかいいんである。嬉しいんである。

 いまのカメラは高性能だから、肉眼で見るよりもむしろ美しく写る。その美しい花々の写真をSNSに投稿する行為は、たとえて言えば、古の歌人たちが春の訪れを和歌に詠んで言祝いだのと、そう違わない気がする。自慢合戦ではなくて、言祝ぎ合戦をやっているんである。

 要するに、ふと気づいてみれば、大センセイも花撮り爺さんの仲間入りをしていたという次第なのだが、そこは独創性溢れる大センセイである。凡百の花撮り爺さんがこぞってレンズを向けるような、月並みな花々に心を動かされはしない。大センセイが心ときめくのは、路傍や河原にひっそりと咲いている、雑草の花なのである。

 目を凝らしてみると、春の野には実にたくさんの花が咲いている。ニラのような葉っぱに、先端の尖った白い花を咲かせるハナニラ。小ぶりな花だけれど、よく見るとあっかんべーと舌を出しているような、ムラサキサギゴケ。ブラウスの衿のような形をした山吹色の花を咲かせているのは、キンポウゲであろうか。

 大センセイが特に心を奪われている、ふたつの花がある。

 ひとつは、濃厚なオレンジ色をしたポピーのような花だ。花弁は外側にいくほど色が薄くなり、まるで和紙を染めたような風合いがある。

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山田清機

山田清機

山田清機(やまだ・せいき)/ノンフィクション作家。1963年生まれ。早稲田大学卒業。鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』(第13回新潮ドキュメント賞候補)、『東京湾岸畸人伝』。SNSでは「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれている

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