適量であれば「酒は百薬の長」。だが、自分で酒の飲み方をコントロールできなくなり、その後の人生を左右させてしまうことは元TOKIOメンバー山口達也しかり、著名人に限らず往々にしてある。なかでも、最も重症な部分に位置するのが「アルコール依存症」だ。いわゆる予備軍を含めると、国内に900万人いるとされている。

 疾患の啓発を促す厚生労働省のホームページにも、アルコール依存症は「ひとことでいうと、『大切にしていた家族、仕事、趣味などよりも飲酒をはるかに優先させる状態』」と示している。依存症の治療方針は、かつて「断酒」が原則だったが、近年は酒量を控える「節酒」の治療法も試みられている。ここでは、アルコール依存にまつわる治療法を紹介する。

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 東京都に住む、Aさん(39歳)は、23歳でテレビ番組の制作会社にADとして就職し、元々付き合いで飲む程度だった酒量が仕事のストレスや不規則な生活から増えた。プロデューサーになった35歳のころから、酒量は更に増えた。2年前、仕事中に突然吐血し、総合病院に運び込まれ、そのまま入院。肝硬変からくる食道静脈瘤破裂だった。治療した医師は、アルコールが病気の原因と考え、治療後に、アルコール依存症の専門病院である久里浜医療センターを紹介。Aさんはそこでアルコール依存症と診断された。

 アルコール依存症とは、長い間大量に飲酒を続けることで脳に異常が起こり、自分で飲むことをやめられなくなってしまう病気だ。

「アルコール依存症は、以前は中年男性の病気とされていましたが、近年は社会環境や生活習慣の変化により高齢者や女性の患者が増え、うちを訪れる患者さんの約半数を占めています」

 久里浜医療センター院長の樋口進医師はそう話す。

 アルコール依存症の治療は「断酒」、つまり一生お酒を飲まないことが基本となる。そのためには患者本人の意志が何よりも重要で、その意志を継続させるために心理社会的治療と薬物療法を併用して行う。

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アルコール依存症の特徴