心理社会的治療は、大きく三つ。一つめは教育だ。アルコール依存症の特徴は、本人が自分はアルコールに依存しているという事実を認められないことにある。そのため、まずは、アルコール依存症という病気を理解し、自分が依存症であることを把握させる。二つめは患者たちを集めて行う認知行動療法。なぜ入院するに至ったのか、立ち直るためにはどうしたらいいのかを本人に考えてもらい、患者同士意見を出し合う。三つめは個々に対するカウンセリングだ。この三つを繰り返し、患者自身に断酒を決断させ、実行させる。

 心理社会的治療は症状の重症度によって「入院」、または、「外来」のいずれかで行う。Aさんの場合は食道静脈瘤破裂の治療で断酒できていたため、外来で通院しながら、日常生活を送るための認知行動療法、カウンセリングなどの治療を受けた。

 一方、断酒を継続させるために薬物治療が併用される。従来は「抗酒薬」と呼ばれるものが使われてきた。一口酒を飲むだけで悪酔いを引き起こす働きにより、酒に対する嫌悪感を抱かせ、飲酒を予防する薬だ。しかし抗酒薬は副作用が出やすく、心臓や肝臓に問題を抱えている人は使用できない。また、患者自身も副作用の強さから怖がって飲みたがらない人が多かった。

■飲酒欲求を抑える断酒補助薬が登場

 これに対し、2013年5月、飲酒欲求そのものを抑える断酒補助薬「レグテクト(一般名・アカンプロサートカルシウム)」が登場した。アルコール依存症になると、脳の興奮に関係するグルタミン酸神経の活動が高まり、飲酒欲求を高める。レグテクトはその神経の働きにブレーキをかける薬だ。抗酒薬とは異なり、副作用も少ないため、ほぼ全ての患者に使用できるという利点がある。

 ただ、レグテクトは1日3回服用する必要があるため、断酒への強い意志と規則正しい生活が必要になる。また、飲酒欲求は脳内のさまざまな神経伝達物質が関係しており、レグテクトが働くのはそのうちの一つだ。そのため「レグテクト単体での効果はまだ限定的だ」と樋口医師は言う。

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基本は断酒。だが節酒も