今後、日本においてより効果的なアルコール依存症治療を進めるためにも、新薬の開発・承認が急がれる。

■節酒指導での治療も実験的にはじまる

 アルコール依存症の治療で大きな問題点としてあげられるのが、推計109万人の患者のうち、治療を受けている人数が約8万人と極端に少ないことだ。肥前精神医療センター院長の杠(ゆずりは)岳文医師は、一般の病院でもアルコール依存症の治療が受けられるように、国立病院機構福岡病院の中にアルコール専門外来を09年に開設した。ここではアルコール依存症の治療目標に、これまでの断酒に加えて、飲酒量を減らす「節酒」も新しく選択肢として実験的に加えた。

「現在、予備軍を加えると、アルコール依存症患者は900万人程度いるとされています。一般の病院で、しかも節酒を治療目標に加えることで、より多くの人が依存症の治療につながるようにしたのです」(杠岳文医師)

 節酒の治療は外来で15分から30分程度のカウンセリングを行う。カウンセリングの目的は、このまま飲み続けるとどのような体の病気になるか正しい知識を教えることと、具体的な目標を立てたり、飲酒日記をつけたりして、自分なりの節酒の方法を一緒に考えてもらうことだ。

「たくさん飲む人ほど自分の飲酒量に不安を持っています。ただ、自分だけでは量を減らせないので、適切な指導が必要です」(同)

 とはいえ、すぐに節酒がアルコール依存症治療の選択肢に加わるわけではないと杠医師は語る。

「アルコール依存症治療の基本は断酒だと思います。ただし節酒を治療の選択肢に入れることで、比較的軽症な患者層や予備軍への治療が広がることを期待しています。また13年からメタボ健診に減酒支援が加わったことで、アルコール依存症の予防に節酒が効果を発揮するでしょう」

■アルコール依存症の診断基準

 次のうち3つ以上当てはまれば、アルコール依存症の恐れがあります。

・お酒を飲めない状況でも強い飲酒欲求を感じた
・自分の意思に反してお酒を飲みはじめ、予定より長時間または多量に飲み続けた
・お酒を飲む量を減らしたり、やめたときに、手が震える、汗をかく、眠れないなどの症状が出た
・飲酒を続けることで、お酒に強くなった
・飲酒のために仕事やつきあいなど大切なことをあきらめた
・お酒の飲みすぎによる体や心の病気がありながら、お酒を飲み続けた
(WHOによる診断ガイドライン(ICD-10)を編集部で改変)

◎樋口進 医師
独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター院長 

◎杠岳文 医師
独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター院長

※週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2015』から抜粋。医師の所属は当時。