家の中には緊急避難セットを作り置いてある。震災後、そういうものを家に用意していた人も多かったはずだが、これもまた、徐々に減っているのではないか? あのころと大きく違うのは、僕は子供を授かった。たまに地震が起きると、息子の顔が浮かぶ。

 息子はまだ2歳9カ月だが、そろそろ小学校のことを考えている。僕の周りは私立に行かせる人が多いようだ。僕は小学校は公立に通わせたいと思っている。家から歩いて1~2分のところにある。去年、そこに引っ越した。小学校の前には公園もある。

 なぜ、私立ではなくて公立なのか?と聞かれると、僕は迷いなく答える。「地震がきても家が近いから」と。私立に電車で通わせていたら、地震が起きたときに……と、考えてしまう。僕は10年以内に東京、もしくは、関東に大地震が起きると思って行動している。震災直後は、東京にも大地震が起きる可能性を考えて行動していた人も多かったはずだが。今はどうだろう? 僕が小学校を選ぶ理由が地震だと言ったときの、相手の目。共感してくれる人もいるが、大体が、「そうだね」と言いながらも、心からそうではないことはわかる。僕は果たして臆病なのだろうか? でも、油断しちゃダメだ。絶対に。東京か関東に大地震が起きると思って、これからも僕は様々なジャッジをする。

週刊朝日  2018年3月16日号

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鈴木おさむ

鈴木おさむ

鈴木おさむ(すずき・おさむ)/放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。

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