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「コロナも換気扇もどちらも怖い」 苦悩する換気扇恐怖症の男性、SNSの告白が救いに
消毒はこまめに、換気に気を張って、マスク着用は必須……。これらの生活様式の変化が、知らず知らずのうちに人々の心にも影響を与えている(撮影/写真部・加藤夏子)
コロナ対策として欠かせない換気扇だが、見たり考えたりすると恐怖を感じる人もいる。その背景には、感染症だけではない不安や恐怖がある。AERA 2022年1月17日号から。
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名古屋市のIT企業に勤める男性(26)はこう話す。
「私は換気扇を見たり、考えたりすると、恐怖を感じる『換気扇恐怖症』です。換気扇を目にすると、吸い込まれるような感じがして、身がすくみます。トラウマという表現が近いかもしれません」
■動画で不意に目にする
高所恐怖症、先端恐怖症と同じように、換気扇を見たり、考えたりすると、尋常ではないほど怖くなる。限局性恐怖症といい、これも不安症の一つだという。この男性もコロナ禍の影響を受けた。コロナの感染対策として換気扇は欠かせない。
「コロナ禍になってから、換気扇を意識することがかなり増えました。飲食店など屋内施設に入る際には、換気されているかをチェックします。見るのは嫌だけれども、コロナの情勢では無視はできない。コロナも換気扇もどちらも怖い。換気扇を使わず、窓を開けて換気しているようなお店だと安心できます」
在宅勤務が増え、通勤中の地下鉄駅などで大型の換気扇を目にすることが減ったのは利点だという。ただ、動画を見る機会が増えて、不意に換気扇を見ることが多くなったのはつらい。
精神科医の井上智介さんが解説する。
「換気扇恐怖症に悩む人は結構多くいます。恐怖感は危険が差し迫っているアラートです。脳の誤作動といわれていて、ほんとうは危険ではないのに、見た瞬間、恐怖心がわいてくる。なぜ換気扇が怖いのか、人には理解されずに、孤立してしまい、うつ病を併発する人もいます」
換気扇恐怖症の男性は「ZUCCA」という名前でnoteやツイッターに投稿している。
「今までリアルで同じ恐怖感を持つ方と出会えたことはありません。友達に、換気扇が怖いと話しても、なかなか理解してもらえませんでした。ただ、ネットで探してみて、人には理解されない何らかの恐怖症状で悩んでいる人が意外と多くいることを知れて、安心に繋がりました。私も写真とともにnoteにまとめてみると、『実は』と話してくれる人が出てきました」
■「つらい」と言っていい
コロナ関連の恐怖や不安をきっかけに、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症する人もいる。井上さんは言う。
「恐怖症が他の人にとってはなんてことないものを恐怖の対象とするのに対して、PTSDは災害や犯罪など明らかに命の危険にさらされた後、鮮明に思い出すフラッシュバックの症状が表れます。記憶の冷凍保存と呼ばれ、再体験に苦しめられます」
イタリアの調査では、コロナ重症者の3分の1が、PTSDを経験すると報告されている。
「私は診察したことがありませんが、コロナで生死の境をさまよったことが恐怖体験になって、それがトラウマになるのだと考えられます」(井上さん)
過酷な医療現場でPTSDになる医療スタッフもいる。保健師紹介業エムステージの保健師、本田和樹さんがこう話す。
「ある病院でコロナ感染第1号になった看護師がうわさをたてられて、PTSDになりました。コロナ対応で逼迫した別の病院では、担当していた入院患者がコロナ陽性だと判明した看護師が、自分自身の感染の可能性が高まり、PTSDとうつ病を発症して、仕事をやめた事例もありました」
約2年間、コロナ禍が社会を覆っている。感染症そのものだけではない不安や恐怖が人々をむしばむ。井上さんは言う。
「コロナでみんなが大変なのに、私だけつらい、怖いと言っていられないと思ってしまいがちです。でも、つらかったら受診してください。早く治療すれば、寛解できます。症状と付き合いながら日常生活を送っていく選択肢もありだと思います」
(編集部・井上有紀子)※AERA 2022年1月17日号より抜粋
AERA
2022/01/16 11:00