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「コロナも換気扇もどちらも怖い」 苦悩する換気扇恐怖症の男性、SNSの告白が救いに
井上有紀子 井上有紀子
「コロナも換気扇もどちらも怖い」 苦悩する換気扇恐怖症の男性、SNSの告白が救いに
消毒はこまめに、換気に気を張って、マスク着用は必須……。これらの生活様式の変化が、知らず知らずのうちに人々の心にも影響を与えている(撮影/写真部・加藤夏子)  コロナ対策として欠かせない換気扇だが、見たり考えたりすると恐怖を感じる人もいる。その背景には、感染症だけではない不安や恐怖がある。AERA 2022年1月17日号から。 *  *  *  名古屋市のIT企業に勤める男性(26)はこう話す。 「私は換気扇を見たり、考えたりすると、恐怖を感じる『換気扇恐怖症』です。換気扇を目にすると、吸い込まれるような感じがして、身がすくみます。トラウマという表現が近いかもしれません」 ■動画で不意に目にする  高所恐怖症、先端恐怖症と同じように、換気扇を見たり、考えたりすると、尋常ではないほど怖くなる。限局性恐怖症といい、これも不安症の一つだという。この男性もコロナ禍の影響を受けた。コロナの感染対策として換気扇は欠かせない。 「コロナ禍になってから、換気扇を意識することがかなり増えました。飲食店など屋内施設に入る際には、換気されているかをチェックします。見るのは嫌だけれども、コロナの情勢では無視はできない。コロナも換気扇もどちらも怖い。換気扇を使わず、窓を開けて換気しているようなお店だと安心できます」  在宅勤務が増え、通勤中の地下鉄駅などで大型の換気扇を目にすることが減ったのは利点だという。ただ、動画を見る機会が増えて、不意に換気扇を見ることが多くなったのはつらい。  精神科医の井上智介さんが解説する。 「換気扇恐怖症に悩む人は結構多くいます。恐怖感は危険が差し迫っているアラートです。脳の誤作動といわれていて、ほんとうは危険ではないのに、見た瞬間、恐怖心がわいてくる。なぜ換気扇が怖いのか、人には理解されずに、孤立してしまい、うつ病を併発する人もいます」  換気扇恐怖症の男性は「ZUCCA」という名前でnoteやツイッターに投稿している。 「今までリアルで同じ恐怖感を持つ方と出会えたことはありません。友達に、換気扇が怖いと話しても、なかなか理解してもらえませんでした。ただ、ネットで探してみて、人には理解されない何らかの恐怖症状で悩んでいる人が意外と多くいることを知れて、安心に繋がりました。私も写真とともにnoteにまとめてみると、『実は』と話してくれる人が出てきました」 ■「つらい」と言っていい  コロナ関連の恐怖や不安をきっかけに、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症する人もいる。井上さんは言う。 「恐怖症が他の人にとってはなんてことないものを恐怖の対象とするのに対して、PTSDは災害や犯罪など明らかに命の危険にさらされた後、鮮明に思い出すフラッシュバックの症状が表れます。記憶の冷凍保存と呼ばれ、再体験に苦しめられます」  イタリアの調査では、コロナ重症者の3分の1が、PTSDを経験すると報告されている。 「私は診察したことがありませんが、コロナで生死の境をさまよったことが恐怖体験になって、それがトラウマになるのだと考えられます」(井上さん)  過酷な医療現場でPTSDになる医療スタッフもいる。保健師紹介業エムステージの保健師、本田和樹さんがこう話す。 「ある病院でコロナ感染第1号になった看護師がうわさをたてられて、PTSDになりました。コロナ対応で逼迫した別の病院では、担当していた入院患者がコロナ陽性だと判明した看護師が、自分自身の感染の可能性が高まり、PTSDとうつ病を発症して、仕事をやめた事例もありました」  約2年間、コロナ禍が社会を覆っている。感染症そのものだけではない不安や恐怖が人々をむしばむ。井上さんは言う。 「コロナでみんなが大変なのに、私だけつらい、怖いと言っていられないと思ってしまいがちです。でも、つらかったら受診してください。早く治療すれば、寛解できます。症状と付き合いながら日常生活を送っていく選択肢もありだと思います」 (編集部・井上有紀子)※AERA 2022年1月17日号より抜粋
ウィズコロナ
AERA 2022/01/16 11:00
「父は弱かったんだ」 人生のどん底を味わった元ひきこもりの非常勤講師男性27歳、過去を許す
「父は弱かったんだ」 人生のどん底を味わった元ひきこもりの非常勤講師男性27歳、過去を許す
写真はイメージです(Getty Images)  不登校やひきこもりが社会問題になっている。その原因やきっかけに「家族との関係」を挙げる人は多い。子どもの将来を思っての親の言動が、ときには子どもを追い詰めることもある。不登校やひきこもりは、家庭内暴力に発展することも多い。立ち直るための大きなカギは、家族との関係改善だ。第三者に支援を求めることで、家族との関係を立て直し、社会復帰を果たすことができたという元ひきこもりの男性を取材した。 *  *  *  福田大和さん(仮名、27歳)は、中学校の保健体育の非常勤講師だ。  昔から運動は得意だった。子どもと関わることも好きだし、今の仕事にはやりがいを感じられる。来年は教員採用試験を受けて、正規の教員になることを目指している。  健康的で明るく、社交的な青年に見える大和さんだが、実は学生時代、何度も不登校になり、家にひきこもった経験がある。さらには家庭内暴力の末、警察沙汰になったこともあるという。 ◆優等生でサッカー部のエースの変貌  大和さんが初めて不登校になったのは、高校二年生の秋だ。 「こんなはずじゃない。何か違う」  あるとき、自分の中に黒い雲のようなものが広がっていくようで、苦しくなり、耐えられなくなった。  当時、大和さんは県内でもトップクラスの進学校に通っていた。成績優秀で、国立大学を目指して勉強し、海外留学も予定していた。  家庭環境にも恵まれていた。有名大学出身で一流企業に勤める父と専業主婦の母。両親は教育費を惜しまず、大和さんも小学校のときから常に優等生で、学級委員も務め、サッカー部ではエースだった。  はたから見れば、陽の当たる道を歩んできて、これからも道は拓かれている、順風満帆な人生だった。  しかしあるとき、大和さんはその道を「これは俺の人生じゃない」と思った。 「親に押しつけられた人生だ」  そう思い始めてからは、何をしていても落ち着かない。教科書や本を読んでも、文字が頭に入らない。夜も眠れない。ついに学校に行けなくなった。      写真はイメージです(Getty Images)  昼夜逆転の生活になり、起きているときは布団の中でゲームをし続けた。食事は、母親が部屋まで運んでくれた。たくさんの友達が心配してメールをくれたが、返すことはなかった。  1カ月後には精神科に通うようになり、さまざまな薬を処方された。副作用で気力がなくなり、頭が回らなくなった。  結局、高校を休学して一年4カ月間自宅に引きこもったのち、通信制の学校に編入。しかしそこでも、しばらく通っては数カ月休学する、ということをくり返した。そのころは、他人に対して心を閉ざし、常に不安を抱えていた。  大和さんの変貌ぶりに、母親は「どうして」と泣いた。宗教に傾倒し、大和さんにも「お祈り」や「瞑想」を強要するようになったという。一方、父親はただ、不思議そうに大和さんを見ていただけだった。 ◆父は何を考えているかわからない  父親は、大和さんが小さいころから、忙しすぎてほとんど家にいなかったという。あまり顔を合わせることもなく、大和さんにとっては何を考えているかわからない「怖い」存在だった。そんな父に従う専業主婦の母。大和さんには夫婦で意思疎通ができているようには見えなかった。  ただ、2人は教育熱心という点では一致していて、大和さんは小さいころからたくさんの習い事をさせられた。サッカー、水泳、武道、英語……。毎日何かの予定が入っていて、多い日は一日に3つの教室をはしごするという詰め込みスケジュールだった。  日ごろ無口な父が、大和さんの受験については口を出した。地元でいちばんの進学校に進み、国立大を目指すこと。大和さんは、本当はサッカーが強い高校に進みたかったが、父の言いつけに従ったのだった。  不登校やひきこもりの原因やきっかけは、ひとつではない。しかし、「家族との関係」が一因になっている人が多いことは間違いない。一般社団法人「ひきこもりUX会議」の調査によると、「あなたのひきこもりの原因やきっかけはなんですか」という設問に対して「家族との関係」と答えた人が42.2%。さらに、「生きづらさの理由」として親を挙げる人も半数近くにのぼっている(『ひきこもり白書2021』より)。  また、子どもがひきこもる家庭の特徴として、父親は仕事熱心で家庭での存在感が薄く、子どもとのコミュニケーションが少なく、母親は過干渉・過保護、という話を複数のサポート団体から聞いたことがある。大和さんの家庭は、まさにこのタイプにあてはまるように思える。 ◆制止を振り切って「殺すしかない」  休学しながらも、なんとか通信制の高校を卒業し、短大に進学した大和さんだったが、やはり人間関係はうまくいかず、入学して間もなく不登校になり、何カ月もひきこもった。  小中学校時代のサッカー部の仲間たちが、大学に入ったり、サッカーを楽しんだりする様子をフェイスブックで見るたびに、劣等感にさいなまれる。「現実を見たくない」と思い、ゲームにのめりこんだ。 「おかしいな、俺はこんなに頑張ってるのに、なぜこうなるんだろう」 「もう死にたい」 「居場所がない」  そんな気持ちを、誰に伝えればいいのかもわからなかった。そして、いつのまにか父親への憎悪をつのらせていった。 「なぜ、俺がこんなに苦しんでるのに本気で向き合ってくれないんだ?」  ある夜、こう思った。 「父を殺すしかない」  夕食を終えてくつろいでいる父親に、突然殴りかかった。母親や祖父が制止しようとするのを突き飛ばし、父親に向かっていった。  父親はというと、緊迫した事態にも無反応で、大和さんに殴られるままにされていた。 「これでもまだ俺を無視するのか。この人はずっと変わらない。父親として、何もしてくれない」  大和さんは悲痛な思いを抱えながら「殺す!」「死ね!」と叫び、無抵抗の父に拳を振り下ろし続けた。止めようとする家族にも手を挙げた。まだ小学生だった弟が部屋で泣き叫んでいた。  ついに母親が警察に通報。「このままだと夫は殺される」と思ったのだろう。電話口で「家の中で息子が暴れています」と母親は必死に助けを求めていた。  駆け付けた警官は大和さんをパトカーに乗せ、精神病院に連れて行った。気がつけば、自分の意志に反して入院手続きが進められていた。そこで我に返った大和さんは、「もう大丈夫です、二度としませんから」と警察官に訴え、なんとか入院を免れた。  大和さんは、この時、人生の「底」が見えたと振り返る。 「父に暴力をふるったときが“どん底″でした。誰を信じていいかわからず、言葉で気持ちを伝えることもできなかった。あのとき父を殴らなければ、どこかで別の形で爆発していたと思います。暴力が、家族以外の他人に向かわなくてよかった。家族には申し訳なかったけれど、変わるきっかけになったのは確かです」 ◆悩まされていた「多動症」への対策  じつはその事件の少し前から、大和さんは、あるサポート団体に支援を求めていた。「福岡わかもの就業支援プロジェクト」という団体だ。父親が新聞で見つけて、「こんなところがあるから、行ってみないか」と勧めてくれたのだ。  団体の代表である鳥巣正治さんは、大和さんの話をじっくりと聞いてくれた。そして、自身の息子がひきこもりだったという経験や、苦しかった時期をどう乗り越えたのかを、大和さんに話してくれた。  精神科でも心療内科でも「上から目線で診断するだけ」だけのように思えたが、「この人は横に立って自分の話をきいてくれる」、そう感じた。  鳥巣さんは言った。 「これからは、薬に頼るのはやめなさい。大和は病気じゃない」  そう言われても、5年以上飲み続けていた薬をやめるのは不安だった。しかしやめてみてしばらくたつと、だんだん元の自分の活力が戻ってくるのを感じた。  実は大和さんは、高校に入学したころから「多動症」に悩んでいた。じっと座っていられない、集中力が続かない。何も頭に入ってこない。  そのひとつの原因は、メールが気になってしまうことだ。当時、セールス系を含めて1日に1000通近くのメールやLINEが来ていて、その通知がくるたびに開いてしまっていた。  鳥巣さんのアドバイスに従って、メールアドレスを5つから2つに減らし、LINEのグループも7つから3つに減らし、フェイスブックもやめた。通知を切る方法、不要なメールを拒否する方法など、情報を整理する方法も教わった。  じっと座って勉強に集中する練習もした。最初は5分やって5分休憩。集中する時間を、10分、15分と伸ばしていった。すると徐々に、決めた時間は集中できるようになってきた。また、部屋を片づけて、収納ボックスなど集中を切らす原因になりそうなものを、座った位置から目に見えない場所に移動した。 ◆父とふたりで飲みに行ってわかったこと  鳥巣さんの団体では、ひきこもりの人たちが立ち直るために「コーチング」という手法を用いている。コーチングとは、人が本来持っている力や可能性を最大限に発揮できるようサポートするためのコミュニケーション技術だ。傾聴、承認、質問といった技法により、本人の「気づき」を促していく。 「コーチングを受けた感想は、一言で言えば『スッキリした』。心がもやもやしていたのが、解けていくようで気持ちよかったんです。自分の性格や心の癖がわかり、抱えている問題の原因がわかってきた。落ち込んでも、どうすればいいかわかる。最近では、すぐあきらめる癖がなくなって、意欲的になってきたと感じます」(大和さん)。  そのうちに、「人を元気にする仕事っていいな。得意なことを生かして、体育教師になろう」と考えるようになった。  教員免許を取るために、短大を出たあと、他県の大学に編入した。しばらく家族とは疎遠だったが、あるとき父が訪ねてきてくれた。  その日、初めてふたりで飲みに行った。暴力事件の後、父は髪の毛が一気に抜け、老けてしまっていた。 「進路を決めるとき、自分の意見を押しつけて悪かったな」と大和さんに謝ってくれた。 「今では、父は本当は優しくて気の弱い人だったんだなとわかります。ひきこもった息子に無関心だったわけではなく、何も言えなかっただけ。暴力をふるったことに対しても、ひとことも僕を責めなかった。今でも、完全に許せたわけじゃないけれど、社会人になった今では、働き続けてきた父の立派さがわかるし、応援してくれていることを感謝しています」 ◆職場の先輩に思い切って打ち明けたところ…  編入した大学を2年間で卒業し、晴れて中学・高校教諭の一種免許状(保健体育)を取得。今の職を得ることができた。  学校での仕事は忙しく、常に分刻みで行動しなくてはいけないので、焦って集中力がなくなることもしばしばだ。現在でも、多動症の症状が出そうになることがある。そんなときも、鳥巣さんに教わった方法で気持ちを落ち着かせることができている。 写真はイメージです(Getty Images)  いつの間にか友達が増え、彼女もできた。今はもう孤独ではないし、元に戻ることはないと思う。  大和さんの将来の夢は、ヨーロッパで暮らすこと。日本人学校で、教員として働きたいと思っている。  最近、職員室で隣に座っているベテランの先生に、思い切って自分の過去の話をしてみた。するとその先生はこう言ってくれた。 「そんな経験をしている人が教員になるって、素敵なことだよ」  学校には不登校の生徒もたくさんいるが、大和さんには誰よりも彼らの気持ちがわかる。 「あの辛い経験が役に立って良かったと、心の底から思います。子どもたちの味方になってあげるのが、自分の使命だと思っています」 (取材・文/臼井美伸) 臼井美伸(うすい・みのぶ)/1965年長崎県佐世保市出身、鳥栖市在住。出版社にて生活情報誌の編集を経験したのち、独立。実用書の編集や執筆を手掛けるかたわら、ライフワークとして、家族関係や女性の生き方についての取材を続けている。ペンギン企画室代表。http://40s-style-magazine.com 『「大人の引きこもり」見えない子どもと暮らす母親たち』(育鵬社)https://www.amazon.co.jp/dp/4594085687/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_fJ-iFbNRFF3CW
ひきこもり多動症父親
dot. 2022/01/10 10:00
精神科にかかる人は15年前の約1・6倍に増加 精神科医が語る「心の病気」が身近になった実態
精神科にかかる人は15年前の約1・6倍に増加 精神科医が語る「心の病気」が身近になった実態
東京都立松沢病院院長・水野雅文医師  日本では年々、精神科の受診者が増えており、国際的な疫学調査などさまざまな研究結果から、「4人に1人は一生の間に何らかの精神疾患にかかる」ということがわかっています。精神科医で東京都立松沢病院院長の水野雅文医師が執筆した書籍『心の病気にかかる子どもたち』(朝日新聞出版)が1月20日に発売となります。2022年度から高校の学習指導要領が改訂され、保健体育の授業で「精神疾患の予防と回復」を教えることになることから、生徒だけでなく保護者や教員にも正しい知識を得てもらうための一冊です。書籍からその一部を抜粋してお届けします。 *  *  *  日本では年々、精神科の受診者が増えています。厚生労働省が3年ごとに実施している患者調査によると、精神疾患で医療機関に通院または入院している患者さんの数は1999年には約204万人でしたが、2002年には約258万人に。さらに17年(最新値)は約419万人となり、15年間で約1・6倍に増加しています。  厚生労働省は13年、今までの4大疾病のがん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病に、精神疾患を加え、「5大疾病」とし、これらの疾患は国民に広くかかわる疾患として、地域における予防・治療・回復のためのリハビリテーションなどの重点的な対策が必要であるとしました。  新型コロナウイルスの感染が拡大してからは、自由に行動できないストレスや活動量が落ちたことによる「コロナうつ」が増えたなどと話題になっていますが、この患者調査の数字はコロナ禍が始まる前のもの。増加傾向はコロナ禍に関係なくずっと続いています。  一口に精神疾患と言っても、いろいろな病気がありますが、どのような病気が多いのでしょうか。  17年の調査で通院している患者さんの病気別内訳を見ると、多い順にうつ病、不安症、統合失調症となっています。うつ病は15年前の約1・8倍に、不安症は1・7倍に、統合失調症は約1・2倍に増加しているのです。 『心の病気にかかる子どもたち』(朝日新聞出版)より  子どもはどうでしょう。子どもの精神疾患に関して全員を調べた調査はありません。医療機関にかかっていない子が多いので、実数をもとに、系統的な予防や治療計画が立てられないという問題があります。 ■精神疾患が身近な病気に  精神疾患は特殊な病気だとか、限られた人がなる病気だと考えられがちです。一方で、近年は街にメンタルクリニックや心療内科、ストレスケアクリニックといったさまざまな名称の精神科が増えているので、まれな病気というイメージはだいぶ薄れてきているかもしれません。 イラスト/タナカ基地 『心の病気にかかる子どもたち』(朝日新聞出版)より  では日本人はどの程度の割合で精神疾患にかかっているのでしょうか。厚生労働省の患者調査は、その年に精神疾患で医療機関に通院あるいは入院している患者さんだけを集計した数字です。医療機関にかかっていない人の数も含めると、実際の患者数はもっと多く、国際的な疫学調査などさまざまな研究結果から、「4人に1人は一生の間に何らかの精神疾患にかかる」ということがわかっています。4人家族であれば、だれか一人は精神疾患になってもおかしくない。自分自身はもちろん、家族、学校の友だち、職場の同僚、誰もがなる可能性ある――それくらい頻度が高い病気なのです。  精神疾患の中でもよく知られているうつ病は、罹患率が高く、100人いると 3~5人がうつ病と診断されることになります。著名人でもうつ病を告白している人はたくさんいます。  しかし、普段ニュースになることはほとんどない精神疾患、たとえば統合失調症も、実は約100人に1人がかかっていて、けっして珍しい病気ではありません。  精神疾患は誰もがかかり得る身近な病気であり、自分事として知識を持っておくことが必要になってきています。 ※『心の病気にかかる子どもたち』(朝日新聞出版)より抜粋 水野雅文(みずのまさふみ)東京都立松沢病院院長 1961年東京都生まれ。精神科医、博士(医学)。慶應義塾大学医学部卒業、同大学院博士課程修了。イタリア政府国費留学生としてイタリア国立パドヴァ大学留学、同大学心理学科客員教授、慶應義塾大学医学部精神神経科専任講師、助教授を経て、2006年から21年3月まで、東邦大学医学部精神神経医学講座主任教授。21年4月から現職。著書に『心の病、初めが肝心』(朝日新聞出版)、『ササッとわかる「統合失調症」(講談社)ほか。
心の病気病気
dot. 2022/01/05 09:00
「入管に人生をめちゃくちゃにされた」不安と恐怖でうつ発症も 収容経験者たちが証言
野村昌二 野村昌二
「入管に人生をめちゃくちゃにされた」不安と恐怖でうつ発症も 収容経験者たちが証言
ロヒンギャのミョウチョウチョウさん(36)。東京入管に約1年4カ月収容された。支援者たちの助けを受けながら生活している(撮影/小山幸佑)  今年3月、スリランカ国籍のウィシュマ・サンダマリさんが、収容されていた名古屋入管で亡くなった。入管の実態とはいかなるものなのか。収容経験者たちの証言から浮かび上がったのは、人権意識に欠いた対応だった。AERA 2021年12月20日号から。 *  *  *  閉ざされた「密室」で、何が起きているのか。  全国に17カ所ある入管収容施設の本来の目的は、オーバーステイなどで在留資格のない外国人を送還するまでの間、一時収容することだ。しかし、収容者への対応は人権意識に欠き、国際基準と乖離(かいり)していると批判が高まっている。 ■診察自体が容易でない  今年3月にはスリランカ国籍のウィシュマ・サンダマリさん(当時33)が、収容先の名古屋入管で命を落とす悲劇が起きた。  出入国在留管理庁(入管庁)の報告書によれば、ウィシュマさんは20年8月、ビザのオーバーステイで名古屋入管に収容された。翌21年1月中旬ごろから体調不良を訴え、同月末に「容態観察」のため監視カメラがある単独室に移された。だが、吐き気や手足のしびれなど体調は悪化し、繰り返し仮放免や外部病院での点滴や入院を求めたが受け入れられず、3月6日に搬送先の病院で死亡が確認された。  なぜ、健康状態が悪化しても適切な治療を受けられないのか。指摘される理由の一つが、貧弱な医療体制だ。現在、常勤医師がいるのは東京入管だけ。それ以外は非常勤医師が輪番で診察し、専門外の病気も診る。常勤医師もいない中、収容施設内では医師の診察の機会を得ること自体が容易ではない。  茨城県牛久市にある東日本入国管理センター(牛久入管)に、一昨年まで3年4カ月近く収容されていたクルド人男性(20代)も、証言する。 「何もしてくれなかった」  男性は収容中、腹部が痛くなり入管職員に訴えた。だが、施設内の非常勤医師に診てもらえたのは2週間後。その時、医師に「外部の医師に診てもらったほうがいい」と言われ申請したが、外部の医師に診てもらえることは一度もなかった。 牛久入管などに3年4カ月近く収容されていた、クルド人男性(20代)。収容中にがんを発症。「入管はひどい」と繰り返した(撮影/編集部・野村昌二) ■人生めちゃくちゃに  職員に「痛い」と訴えても、鎮痛剤を出し「我慢して」と言うだけ。針で刺されるような激痛で眠れず、夜中に部屋のドアをたたくと、懲罰房に5日間入れられた。不安と恐怖から、うつ症状を発症したという。  意を決しハンストを行い、ようやく仮放免が許可された。すぐ住まい近くの病院で診てもらうと、がんと診断され緊急手術で患部を摘出。だが、がんは他の部位に転移し、今は抗がん剤の治療に専念している。抗がん剤による副作用で体調はすぐれず、支援者や親族からの援助で何とか生活できていると話す。 「入管に人生をめちゃくちゃにされました」(男性)  こうした事態を入管はどう考えているのか。牛久入管と東京入管は、適切な処置はしているとした上で、 「個別の事例や事案にはお答えできない」などと回答した。  入管の収容期間は事実上、入管当局の裁量で決められ、理論上は無期限だ。そうした中、収容されていた人は、「人間扱いされなかった」と口をそろえる。埼玉県に住むロヒンギャのミョウチョウチョウさん(36)もそんな一人だ。言葉を振り絞る。 「私たちは犯罪者じゃない」  15年前、祖国ミャンマーでの政治弾圧から逃れ来日。今年4月までの約1年4カ月、東京入管に収容された。 ■ここで死ぬと入管喜ぶ  何よりつらかったのが、先の見えない収容生活だ。仮放免を申請して却下されても、その理由を教えてくれない。 「何で却下された? 身元保証人もいるのに何で?」  と職員に聞いても、 「私たちにはわからない」  としか答えない。  ミョウさんは、日本に助けを求めに来た。難民申請を繰り返しながら、日本で平和に暮らした。だが、日本政府は難民として認めてくれないばかりか、在留資格も認めてくれない。そうした中、突然、理由もわからないまま収容された。いつ出られるかわからない不安から、体重が一気に減った。体調も崩し、心臓が苦しくて息ができなくなったこともあった。医者に診てもらいたいと申請すると、非常勤医師が診察してくれたのは3週間後。しかも、医師は触診もせず薬を出しただけ。絶望から何度も死のうと思ったと話す。 「でも、ここで死ぬと入管が喜ぶ。私の居場所は日本しかない。だから、頑張って仮放免になるまで耐えた」  精神的なダメージは、仮放免となり、収容施設から出てからも続く人が多い。 1年8カ月近く東京入管(東京都港区)に収容されていたクルド人男性のフセインさん(40代)さんは、仮放免から2年近くたつ今も様々な症状に苦しめられる。 「眠れない、何もする気にならない。落ち込んだり、物忘れも多くなったりした」  収容中に食事を取らず栄養不足になったせいか、目が悪くなり、チカチカしたりするようになった。今も精神科に通院し、睡眠導入剤や精神安定剤などの薬が手放せないという。  仮放免者は通常、2カ月に1度、入管に呼び出されて更新手続きをする。この間、コロナ禍で呼び出しはストップしていたが、再開されるようになった。呼び出されて出頭すると、難民申請を取り下げられそのまま収容される可能性もある。  フセインさんには日本で結婚した妻(30代)と、幼い子どもが2人いる。収容されれば、家族と会えないばかりか、トルコに強制送還される危険性もある。  再収容されるかもしれないことをどう思っているかと聞くと、 「怖いよ」  そう言うと、押し黙った。(編集部・野村昌二)※AERA 2021年12月20日号より抜粋
AERA 2021/12/17 17:00
綾瀬はるかさんへのネット上での「中傷」殺到のナゼ 専門家「誹謗中傷は“依存症”的な傾向」
國府田英之 國府田英之
綾瀬はるかさんへのネット上での「中傷」殺到のナゼ 専門家「誹謗中傷は“依存症”的な傾向」
綾瀬はるかさん(c)朝日新聞社  新型コロナウイルスに感染し、入院した女優の綾瀬はるかさん(36)に対し、ネット上では憶測に基づいた中傷コメントがあふれた。何の根拠もないのに、なぜ入院中の当事者を叩いてしまうのか――。精神科医は、中傷を続けてしまう「依存症」に陥っている可能性を指摘し、「最終的には叩いた側も不幸になる」と警鐘を鳴らす。 *  *  *  綾瀬さんの入院は8月31日、事務所が発表した。発熱の症状が出た綾瀬さんは3回、抗原検査やPCR検査を受けたがいずれも陰性。発熱が続いたため26日に4回目の検査を受けたところ陽性判定が出た。当初は自宅療養だったが、その後、肺炎の症状が出たため入院となった。重症か中等症かなど、具体的な程度は明らかにされていない。  入院の一報や、これらの経緯がネットニュースで報じられると、記事のコメント欄には「上級国民だから入院できた」「ホリプロがあらゆるコネやお金や頼み倒して、いくつもの病院にお願いした結果ではないでしょうか(原文ママ)」「裏の力が働いたのかな」などと憶測に基づいたコメントや、入院する必要がないと一方的に決めつけて批判するコメントが殺到した。  何の根拠もなく、今まさに入院中の人をなぜここまで叩いてしまうのか。コメントの中には事実かのように断定して書いたものもある。ネット中傷に詳しい弁護士によれば「名誉毀損に当たる可能性がある」と、AERA dot.では9月4日に詳報した。 ■ネット中傷に「仮面効果」  想像するのは自由だとしても、なぜわざわざ書き込んでしまうのか。精神科医で心理学者の、ゆうきゆう医師(ゆうメンタルクリニック理事長)は、こう言う。 「ネットの中傷には、仮面効果というものが関与しています。仮面効果とは、『人間は仮面をかぶると、人に対して悪意的な対応や残酷な対応をしやすい』という心理学的な傾向を言います。ネットだと匿名で顔が見えないことにより、攻撃的な面がより出やすくなります」  ゆうき医師によると、誰かの中傷やバッシングをすると、脳内に「ドーパミン」という快感をもたらすホルモンが放出されるという。  綾瀬さんを中傷した「コメ主」の他の投稿をみると、様々なニュースに噛みついている人も少なくなかった。ならば彼らは快感を得続けているのかと思いきや、話はそう単純ではない。  ゆうき医師は、「あくまで一時的に気分がよくなるに過ぎません」とくぎを刺す。中傷によってドーパミンが放出され、快感を得られたとしても、中傷を繰り返していくうちにドーパミンの量が減っていってしまうのだ。 「同じ快感を得るためには、より強く、行為の回数も多くしなければならなくなります。そのため、何度も中傷をしてネットから離れられなくなるという繰り返しになります。私は個人的に『誹謗中傷依存症』と呼んでいますが、ネットの中傷には依存症的な傾向があると考えています」(ゆうき医師)  この状態は、アルコール依存症と似ているという。アルコールは脳に快感をもたらすが、飲み続けているうちに脳に耐性ができてしまい、どんどん量が増えていく。「やめたくてもやめられなくなる」のがアルコール依存症だ。 ■高まる「叩きたい」欲求  終わりの見えないコロナ禍で、誰もがストレスは増している。ゆうき医師は、そうしたストレスを外にぶつけようと、中傷をしてしまう人が増えているのではないかと推察したうえで、こう警鐘を鳴らす。 「中傷を続けた人は、最終的には不幸になります」  ストレスは、中傷では解消できない。一瞬、楽になったように感じても、また新たなストレスをため込んでいるだけなのだという。 「逆に、『依存している対象に飢えてしまう』というストレスにもさらされます。アルコール依存症の人は、お酒を飲むことが我慢できない、早く飲みたいという『飢え』が生じますが、実はこれもストレスを感じている状態なのです。誹謗中傷も同じで、また叩きたいという欲求が高まり、それに囚われ続けることでストレスにさらされます。さらに、そうした『依存症』の人は日常のちょっとした幸せへの感度が鈍くなり、依存対象でしか幸せを感じられなくなってしまう。結局は、自分が不幸になるだけなのです」(同)  家でも外でも、スマホを見続ける人は多いだろう。ゆうき医師は、ヤフコメなどについて、「依存症的な人に何度も書き込んでもらい、アクセス数を増やしている側面もあるのではないか」と指摘し、ネットニュースなどを一切見ない「ネット断食」の日を設けることを勧める。  やる前は不安に思うかもしれないが、「実際にやってみると困らないことに気付きます。ネットの情報の多くは、人の劣等感を刺激したり攻撃したり、また煽ろうとして書かれています。それを読んで気持ちが揺らぐというリスクを考えると、見ないでいただいた方が精神的にも良いと思います」(ゆうき医師)  中傷やバッシングを続けてしまう人は、まずは試しに一日ネットを遮断し、「誰も叩かない日」を作った方が良さそうだ。意外と、気分が晴れるかもしれない。 (AERA dot.編集部・國府田英之)
dot. 2021/09/10 11:30
NICUの赤ちゃん「こんなに小さくて育つだろうか…」と責める母親への言葉がけ
NICUの赤ちゃん「こんなに小さくて育つだろうか…」と責める母親への言葉がけ
写真はイメージ(GettyImages)  コロナ禍での妊娠・出産・育児は、母親に大きな不安やストレスを与えているといわれる。低出生体重児を出産した母親は、平時でも「子どもを小さく生んでしまったのは私のせい……」と自分を責めることが多い。さらには、コロナの感染拡大を気にしながら出生後の医療的ケアでメンタルヘルスの悪化も懸念される。  そんな母親たちにNICU(新生児集中治療室)のスタッフはどのように接しているのだろうか。 国立成育医療研究センター新生児科の対応について聞いた。 *   *  *  人口動態によると、2019年に生まれた子どものうち、出生体重2500g未満で生まれた「低出生体重児」は、男児8.3%、女児10.5%。2005年ごろからは横ばいが続いている。低出生体重児は出生後に医療的ケアが必要になる場合も多く、必要と診断されたら、出産後ただちにNICUに移される。  出産という大きなイベントを乗り越えた母親は、わが子の産声を聞き、自分の手で抱くことで、出産のつらさを忘れ、幸福感に包まれるものだが、NICUに搬送される場合、一度も触れることなく、目の前からわが子がいなくなることもある。そんな母親の落胆や孤独感はどれほど深いだろうか――。  同センターでは新生児をNICUに搬送する前に、必ず母親に触れてもらうという。 「新生児には、手のひらに何かが触れるとギュッと握ろうとする把握反射があるので、お母さんの指が赤ちゃんの手のひらに触れるように導き、『わが子が自分の手を握った』と実感してもらえるようにしています」と話すのは同センター新生児科の和田友香先生。  その後、「NICUで預かりますね」と声をかけて搬送する。この言葉には、「育児の主体はご両親。病院は赤ちゃんがご両親の元に帰れるようにサポートする」という思いが込められているのだ。  出産時は産むことに精いっぱいで現状を把握しきれていないことも多く、NICUでわが子に初めて対面したとき、「こんなに小さくて育つのだろうか……」とショックと不安で落ち込む母親も少なくない。 「『お母さんがここまで頑張っておなかの中で育ててくれたから、赤ちゃんも頑張って大きくなろうとしているんですよ』と声をかけ、心の負担が少しでも軽くなるように努めています」(和田先生)  また、低出生体重児の母親は、自分や夫の両親の「もうちょっとおなかに入れておけなかったの」「あんなに小さくて大丈夫なの」といった心ない言葉で傷つけられることも多い。そのため、両親がNICUにお見舞いに来たときにも「お母さんがぎりぎりここまでおなかで育ててくれたから、赤ちゃんが元気に育っている。お母さんはとても頑張ってくれた」と説明することを意識しているそうだ。  NICUに入院中は搾乳した母乳を届けてもらう。自分で飲めない赤ちゃんには、口や鼻から管を入れて母乳を注入する経口もしくは経鼻哺乳を行うのだが、母親が母乳を持ってきたときには、目の前でチューブに母乳を入れて、飲む姿を見せるようにしている。  それは「お母さんの母乳で育っていることを実感してほしいから」(和田先生)だ。チューブからとはいえ、わが子が母乳を飲む姿を見ることで、子どもへの愛情が深まり、退院後の育児に前向きになれる人が多いという。  出産前から予定日より早く生まれそうなことがわかっていたり、病気があることがわかったりしているケースでは、出産後の赤ちゃんがどういう状態になることが予想されるか、どういう治療が必要なのかなどについて、出産前に説明を受けることができる「プレネイタルビジット(出産前児童保健指導)」という制度がある。 「NICUに入る新生児は出産直後に多くのスタッフに取り囲まれ、さまざまな処置を施されます。その様子を横で見ているお母さんに『不安にならないで』というのは無理な話。プレネイタルビジットで出産後の流れを漠然とでも理解していただくことで、不安や心配の軽減につながればと考えています。ご両親が希望される場合に行うことが多いですが、経過を知っておいてほしい場合にはこちらから提案することもあります」(和田先生)  NICUでの治療が終了し状態が安定した新生児は、退院に向けて経過観察を行うGCU(新生児回復治療室)へ移る。病院によっては、退院前に両親が赤ちゃんと一緒に入院し、ケアの仕方などを医師や看護師に教わりながら、退院後の生活を疑似体験するファミリールームをGCUに設けていることがある。   同センターは「その部屋がないことが課題」(和田先生)だそうだが、退院後に在宅酸素が必要なケースなど、退院後の生活をシミュレーションしてほしい場合には、GCUの中に仕切りでプライベート空間を作り、両親が赤ちゃんと過ごせるようにしている。 「お母さんが不安を抱えていると母乳の分泌量が減るし、赤ちゃんの情緒にも影響を与えます。お世話の不安を少しでも解決してから退院してほしくて行っています。退院するときに『やってよかった』と言っていただけることが多いです」と和田先生。  同センターは、周産期と小児医療を専門とする国内最高レベルの病院で、出産前の胎児から、出産後の新生児まで一貫して診療ができるため、ハイリスク管理を必要とする妊婦が日本全国の産院から紹介され、出産を迎えることも少なくない。  しかしこうしたケースは、同センターで出産はするものの「『退院の日』を迎えることはない」(和田先生)とのこと。それはなぜなのか。 「赤ちゃんが家庭に帰れる日まで当センターでケアしてしまうと、地元に帰ったとき“主治医不在”の状態になってしまうから」(和田先生)だという。 「小さく生まれた赤ちゃんの子育ては、家庭に帰ってからが本番です。ご両親が赤ちゃんのことで不安や疑問を感じたとき、相談できる主治医が近くにいない環境は作ってはいけないのです。そのため、退院後も当センターでフォローすることが難しい赤ちゃんは、状態が安定した時点で地元の病院に転院し、退院までのケアを行ってもらうようにしています」(和田先生)  状態が安定してからの転院とはいえ、NICUに入院中の赤ちゃんの搬送にはリスクがある。そのため必ず新生児科の医師と看護師が付き添い、搬送中のバイタルチェックを行う。 「通常は、車や新幹線などで搬送しますが、赤ちゃんの負担を最小限にするために必要であれば、ヘリコプターを使うこともあります」(和田先生)  無事に搬送できたら、転院先のNICUでの状態を確認し、担当医にこれまでの経過を詳細に説明。後のケアとフォローを託す。 和田先生は「NICUを退院したら病院の役目はおしまい、ではない」と言う。  NICUでの治療が必要だった赤ちゃんは、退院の日を迎え、その後元気に育っていても、成長とともに障害などが現れる可能性があるからだ。  そうしたサインをいち早く発見し、対応すれば、障害によって被る子どもの「困難」をできるだけ少なくすることができる。それには継続的なフォローアップが必要ということで、同センターは「フォローアップ外来」を開設した。退院後から1才6カ月までは2~3カ月ごとに受診してもらい。その後は3歳、6歳、9歳の発育発達を診ていく予定だ。 「赤ちゃんの成長を診るだけでなく、お母さんのケアができる場にもしていきたいと考えているんです。例えば、産後うつは早く気づいて精神科を受診してほしい病気なのですが、育児で手一杯のお母さんは、自分のために病院に行こうという発想にはなかなかなりません。でも『赤ちゃんを見せに来て』というと病院に来てくれます。赤ちゃんの日々の様子や心配に感じていることなどを聞きながら、お母さんの心身の不調にも目を向け、必要な場合は専門医につなげられるような場にしていきたいです」(和田先生)  コロナ禍で医療のひっ迫と隣り合わせの状況下、今日も国立成育医療研究センターの新生児科では、低出生体重児の入院中だけでなく退院後の生活も見据え、母親に寄り添った医療が行われている。
GCUNICU国立成育医療研究センター病気病院
dot. 2021/07/05 11:00
「日本型変異株」発生のリスク 「遅すぎ」接種ペースが招く!?
亀井洋志 亀井洋志
「日本型変異株」発生のリスク 「遅すぎ」接種ペースが招く!?
ワクチン接種に使われる注射器 (c)朝日新聞社 ワクチン担当の河野太郎行政改革担当相 (c)朝日新聞社  専門家たちに強く迫られたことで当初の方針を覆し、慌てて北海道、岡山県、広島県への緊急事態宣言発出に踏み切った菅義偉政権。感染の波が全国を覆う中、頼みの綱のワクチン接種もなかなか進んでいない。その遅れがウイルスの変異を招き、重大な結果につながる恐れがあるという──。 *  *  *  海外と比較して、日本の新型コロナウイルスワクチンの接種は遅々として進まない。1回以上接種を受けた人の割合は5月13日時点で3.2%と、先進国が加盟する経済協力開発機構(OECD)37カ国中でも最低。医療従事者約480万人への接種も、4月末時点で2回目の接種を終えた人はまだ22%程度だ。  ワクチンの供給が限定的だったこともあるが、政府は医療従事者への接種も進まぬうちに、高齢者の接種を同時並行する形で開始。菅義偉首相は「1日100万回接種」をぶち上げ、7月末までに完了させる方針を打ち出した。ところが、一部の自治体が期限内の完了は困難と回答すると、菅首相は記者団に「ショックだった」と吐露。東京五輪開催を照準にした目標設定が、無理筋だったことは明らかだ。  精神科医で、老年内科医でもある和田秀樹・国際医療福祉大学大学院教授が怒りを込めて語る。 「政府が真っ先にやるべきだったのは、医療従事者と入院患者を合わせた約600万人分のワクチンをあらゆる手段で確保し、一気に接種することでした。そうすれば、感染や院内クラスターを恐れる医療スタッフをコロナ治療の戦力にすることができ、医療逼迫の回避につながります。政治的メッセージなのか、高齢者への接種を前倒しで始めましたが、供給量が足りないから予約も取れず、逆に高齢者を不安に陥れているだけです」  5月7日時点で、ワクチン接種後の死亡例が39件あるのも気になる。重いアレルギー反応であるアナフィラキシーと判定されたのが107件(5月2日時点)。和田医師が勤務する病院でも、特に2度目の接種後、約1割の人に38度以上の発熱が起きているという。約3600万人いる高齢者に安心してワクチンを打てるのか、副反応の検証のためにも医療従事者への先行接種が不可欠だと指摘する。  不条理は、医療従事者の中での接種順にもある。和田医師がこう続ける。 「地域医療の最前線に立ってコロナ患者を診ている病院よりも、富裕層相手の病院のスタッフのほうが先にワクチンを受けているというめちゃくちゃな現実がある」  加えて懸念されるのは、ワクチンの打ち手不足だ。各自治体は集団接種会場での医師や看護師の確保のため、人材派遣会社を通じ「日給10万円」でアルバイト医師を募集するなど苦慮している。医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師が言う。 「バイトの医師が毎日入れ替わるような体制だと、自分の病院で緊急手術やワクチン接種があればそちらを優先せざるを得ないから、穴を開けることになる。自治体がしっかり計画を立て、現場を仕切り、バイトを差配するリーダー格の医師を置かないと、接種は進まず、だらだら延びてしまうでしょう」  ワクチン接種のスピードが鈍いことは、新たに深刻なリスクを招きかねない。すなわち、「日本型変異株」の出現である。上医師はこう語る。 「抗生物質や抗がん剤を使った治療は、一気にやらないと耐性を招くことが知られています。ワクチンの場合も、日本のように緩慢に接種を進めているとウイルスが変異をくり返す中でワクチンが効くものは消えていきますが、耐性を持ったものが生き残り、増殖していくことが考えられます」  英科学誌ネイチャーは、「迅速かつ徹底したワクチン接種が、変異株が足場を築くのを防ぐ」と指摘している。その通り、米国と英国は今年に入ってワクチン接種を一気に加速させ、感染者を激減させた。5月15日時点で、ワクチンを少なくとも1回以上接種した人の人口に占める割合は、米国が約46%、英国が約53%。両国では経済再開の動きが活発化し、屋内施設や飲食店の集客制限が緩和されるなど街が活気を取り戻しつつある。上医師が説明する。 ■接種率が4割で集団免疫効果? 「米英両国とも接種率が40%くらいになったころから感染者は増えておらず、集団免疫の効果が出始めた可能性があります。変異株が入ってワクチンの効きを低下させたとしても、ファイザーやモデルナのワクチンは変異株に対しても有効性が50%はあるといわれており、蔓延にはつながらないと考えられます」  一方、日本の接種率は一向に上昇しないまま、時間だけが経過している。 「いまは昨年同時期に比べても、はるかに感染者数が多い。その分、ウイルスの変異が起きる可能性も高まります。このまま本格的な冬の流行期に突入していく中で、『日本型変異株』が現れる恐れが十分にあり得るのです」(上医師)  日本発のワクチン耐性株が出現してしまえば、早期にワクチン接種を終えた各国が通常の経済活動に復帰していく中、日本だけがその流れから取り残されることすら考えられる。悲劇的結末を避けるためには、ワクチン接種のスピードアップに全力を注ぐ必要がある。(本誌・亀井洋志) ※週刊朝日  2021年5月28日号
新型コロナウイルス病気
週刊朝日 2021/05/19 08:00
医師1734人が回答「いい病院」とは? 「患者サポートが充実」「チーム医療の連携」1位は
医師1734人が回答「いい病院」とは? 「患者サポートが充実」「チーム医療の連携」1位は
写真はイメージです(GettyImages) アンケートの回答結果  いい病院って、どんな病院ですか? 医療者向け情報サイトを運営するエムスリーと共同でアンケート調査を行った結果、医師たちの本音を聞くことができた。記事の後半では、患者がチェックできる「いい病院」の情報についても紹介する。現在発売中の『手術数でわかる いい病院2021』(朝日新聞出版)から抜粋。 *  *  * ■医師の技術力とチーム力を重視  いい病院とはどんな病院か――。この問いに、医師はどう答えたか。おもに「がん」や「心臓病」など専門的な治療が必要な疾患について、「すぐれた治療、かつ患者にとって納得がいく治療をする場合」という条件で、選択肢から上位3つを選んでもらった。1位、2位、3位に選ばれた選択肢をそれぞれ3、2、1点とカウントして集計したのが図表だ。上から「医師の技量」「チーム医療」、そして「患者のサポート制度」という結果になった。  医師によっていい病院の定義はさまざまだ。「患者が安心して身を任せることのできる病院」と回答したのは、東京都の開業医、根本充医師(内科・47歳)。その条件として「検査設備が整っていること」を挙げる。緊急度の高い疾患の場合、初期診断・治療を可能にするためにはCTやMRIによる当日検査が必要となる。また、内視鏡検査や心臓カテーテル検査が実施できる体制であれば、「より安心」だという。  さらに、治療の専門性が高く、院内の他科と連携のとれた「全人的診療」が可能であればより望ましいと指摘する。全人的診療とは、病気や患者の一部だけではなく、その人の生活背景やそれまでの人生、価値観なども含めて総合的にみることだ。 「その上で、日頃から開業医と病院の医師との間で良い関係が築けていることが重要です。患者は日常的な診療は開業医のもとで受け、状況が変化したら専門診療科を受診する。このように、『患者・診療所・病院』の三位一体の関係性が構築できていれば、おのずと質の高い診療ができるでしょう」(根本医師)  東京都の男性勤務医(精神科・55歳)は、「スタッフにやる気があり、かつ『細かいこと』をおろそかにしない病院」と回答した。手術とは一見関係のなさそうな、患者の様子にまで目を配り、異常な所見を見逃さないようにすることが大切だという。 「手術は成功しても、元気が出ずに入院が長引くうちにからだの機能が低下し、退院が不可能になるということもある。そういう事態を回避するためにも、医師や看護師が細かい注意を払い、異常がみられれば他科と連携して迅速に解決を目指すことが求められます」  また根本医師と同様、医師が病気だけをみるのではなく、「その人自身とその人生をみること、患者とその家族がどうすれば治療に納得・満足できるかを考えることが大事」と指摘した。 「手術数が多いことはもちろん重要だが、ほかの治療もそれなりに選択されていることが大事」と指摘するのは熊本県の男性勤務医(泌尿器科・49歳)だ。  たとえばがんの治療一つとっても、各病院で得意な治療法は異なる。症例数が多いことはいい病院の条件になるものの、「どれか一つの実績だけが多い場合、患者に対し、その治療法に誘導しがちになる可能性や、ほかの治療法にあまり詳しくない可能性が考えられます。その結果、治療法が偏り『患者主導による治療法の決定』という現代医療の流れとは離れてしまう可能性もあります」と警鐘を鳴らす。  ほかにも、病院の体制に関することとして「スタッフが働きやすい」「診療がスムーズ」「職種問わず仲がいい」「待ち時間が少ない」「指導態勢が整っている」や、「患者利益を最優先する」「患者の立場になって治療を提供する」といった、「患者ファースト」の考え方を大切にする意見も多くみられた。また、特に開業医からは「地域との連携を大切にする病院」についての声が多く、「フットワークが軽く、地域ニーズにこたえる」「紹介しやすい」「紹介患者さんをスムーズに受け入れてくれる」などが挙がった。 ■治療実績のほかにも参考にできる指標はある  次に「患者が病院にかかる前に調べられる情報で、『いい病院』かどうかを知るためにチェックすべき情報」について、任意で回答を集めた。多かったのは「手術数や患者数などの治療実績」「専門医の数」「病院のホームページ」「受診した患者の口コミ」など。そのなかでも、チェックするポイントとしては「所属医師の名前、顔写真と保有資格の明記」「スタッフの略歴」など、医師のプロフィルが公開されていることが挙げられた。顔写真や保有資格の明記が信頼度につながるのだろう。  ほかにも、「信頼できるかかりつけ医に、どこの病院、どの医師がいいか聞く」「院内の清掃が行き届いているか」「施設のさまざまな情報を公開していること」「院内やスタッフの雰囲気がいいか」という意見もあった。  具体的な参考ポイントと理由について、2人の医師に話を聞いた。「医療連携室のホームページの充実具合」と言うのは、東京都の開業医、福田元医師(糖尿病科・53歳)。医療連携室とは地域のかかりつけ医をはじめ、病院や施設をつなぐ窓口で、病院と診療所の連携を担う存在だ。ホームページで医療連携室の紹介に注力しているようであれば、こまやかさが必要な医療機関として信頼に値するという。予約のとりやすさ、受診者に寄り添うサービスの有無、担当者の氏名などを確認しよう。クリニックや診療所などで医療連携室がない場合は、「ホームページで医師のプロフィルを確認し、会って人柄を確かめることが、自分に合う医師を見つける方法だと思います」(福田医師)。  また、山口県の男性勤務医(泌尿器科・51歳)は「部長の経歴」を挙げる。部長とは、各診療科の長のことを指す。これは、経歴や肩書にこだわるということではなく、自分の治療に関わる医師の「強み」を見極めることが大切ということだ。 「手術を受けたい場合は、その医師がどの病院でトレーニングを受け、どれだけの手術件数をこなしているかをみる。『医師の技術力』は、いい病院・いい医師を探すためのひとつの指標になり、技術力のある医師に多くの手術を担当させるのがいい病院と考えられます」  一方、薬物治療であれば、トレーニングを受けた病院や留学先、論文数、受賞歴、資格の有無などのチェックをすすめる。 「薬物療法には知識と幅広い視野が重要で、多くの治療専門医と面識があることが、良好な治療成績をもたらすと考えられます」(男性勤務医)  手術数や治療数以外にもさまざまある「いい病院」の条件。患者自身がチェックできることもあるので、参考にしてほしい。 【患者がチェックできる「いい病院」情報】 ●部長の経歴 ・どのような病院でトレーニングを受けていたか ・留学先や論文数、資格の有無 ●医療連携室の記載 ・予約の取りやすさ ・各種サービスの有無 ・担当者の氏名 ●手術以外の治療の充実度 ・各病院のホームページ ・全国DPC(診療群分類包括評価) (文/出村真理子) ※『手術数でわかる いい病院2021』より
いい病院2021病気病院
dot. 2021/05/16 10:00
ニンジンジュース出し続け、夫の叫びで目が覚める…善意だから歯止め聞かない「寄り添いハラスメント」
ニンジンジュース出し続け、夫の叫びで目が覚める…善意だから歯止め聞かない「寄り添いハラスメント」
谷島さん(左奥)が大阪市内にひらいた社会実験カフェバー「カラクリLab.(ラボ)」。がんをカジュアルに語れる場所として人気だが、現在はコロナ禍で休業中(写真:谷島雄一郎さん提供) AERA 2021年4月12日号より 「スキルス胃がんの患者会を作りたい」という故・轟哲也さん(左)の気持ちに寄り添い、妻の浩美さんは尽力。哲也さんの遺志を継ぎ、がんについて正しく知る大切さを伝えている(写真:本人提供)  身近な人ががんなどの病気になった場合、助けになりたいと思うのはごく自然な感情だ。だが、善意から発せられた「両親より先に死ぬのは親不孝」「弱気になってはダメ」「これで治る」という言動が、相手を傷つけることもある。AERA 2021年4月12日号の記事を紹介する。 *  *  * 「寄り添う」とはどんな意味ですかと聞かれたら、多くの人が「困っている人を支えること」、あるいは「体をぴたりとそばに寄せること」と答えるはずだ。いずれにしても、善意にあふれ、繊細で、やさしい印象が強い。しかし、大阪ガス勤務でがん経験者の谷島雄一郎さん(43)は、こう語る。 「『寄り添う』の延長線上にある励ましや共感、忠告は、相手が善意のつもりであっても、がん経験者や家族が傷つけられることがあります。つまり、寄り添われる側から見れば、時に諸刃の剣にもなりかねない、正解がなくて、悩ましい言葉なんです」  谷島さんががんと診断を受けたのは、34歳のとき。長女の誕生に際し、生命保険を手厚くしようと受けた健康診断で発覚し、10万人に1~2人程度の希少がんであるGIST(消化管間質腫瘍)と診断された。  長女誕生の4カ月後には肺に転移。翌年1月に食道を全摘し、肺も一部切除したが、約1年後に再発した。以降、谷島さんは計6回の手術を経験。完治の望めない現状だから、年3、4回の定期検診の前後は、特に神経が過敏になる。そんな時は身近な人であれ、見ず知らずの他人であれ、善意のつもりで発せられた言葉に傷つくことも少なくない。  約7年前のこと。谷島さんはがんのイベントに参加した際、面識のない年配の女性から「私の夫もがんになりましたが、克服できました。ご両親より早く死ぬのは本当に親不孝だから、頑張ってください」と話しかけられた。  他人から言われるまでもなく、幼い娘や妻を遺し、両親より先に旅立つ可能性は、もっとも直視したくないものだった。彼はざわつく気持ちを抑えて「頑張ります」と答えた。 ■「頑張ります」「ありがとう」無難に対応するしかない  大抵の場合はそこで話は収まるのだが、その女性は眉間に小さなしわを寄せてこう続けた。 「私には20代の一人息子がいて、その存在は本当にかけがえない。そのせいか、谷島さんのご両親のご心配もすごくわかる気がして、だからがんに絶対に負けないでほしいんです」  谷島さんはその執拗さにカチンときて、つい反論してしまったという。 「お気持ちはうれしいんですけど、両親より先に死ぬかどうかは、僕がいくら頑張っても、どうしようもないことですよね?」  努めて穏やかな口調でそう伝えると、やっと相手も気づいたらしく、バツが悪そうな表情になって黙り込んだ。谷島さんはこう振り返る。 「善意の発言だとは思いますが、そう言われた僕がどう感じるのかまでは想像できてないんです」  こうした経験は他にもある。たとえば、「がんは治る時代だから弱気になっちゃダメ」という言葉。そんなことは知っている。だが、自分には当てはまらないから、一時的な気休めは逆につらくなる。  友人知人から送られてくる有名人のがん克服記事もそうだ。病状には個人差がある。それなのに、部位もステージも違う人の記事に添えられた「救いになると思って」「支えになれば」という言葉に違和感を覚える。 「『自分はいいことをしてあげている』という陶酔感のようなものを感じることもあり、複雑な気持ちにさせられましたね」(谷島さん) 「大丈夫だよ、私なんて……」という発言もそうだ。がんを告白すると、自分の病気について語り始める人は少なくない。だが、悩みやつらさはその人固有のもので、他人の不幸話を聞いても心は軽くならない。  谷島さんは2015年から、がん経験を新しい価値に変える「ダカラコソクリエイト」というプロジェクトを立ち上げ、がん経験者やさまざまな分野の協力者と共に活動している。そのなかでも「善意の言葉とわかっていても、傷つくことがある」「善意の押し付けがつらい」という話題になることがあった。  19年に谷島さんが大阪市内に開いた不定期営業の「がんについて語らなくても、隠さなくてもいい」カフェバーでも、この話になった。善意なのであからさまには反論しづらい。だから「頑張ります」「ありがとうございます」と答えて、相手の感情を損ねずに無難に対応するしかない、というのが経験者の感想だった。 ■相手の心に土足で踏み込む 自己満足だと気が付いた  そこで谷島さんは、こうした周囲の言動を「寄り添いハラスメント」と命名し、がんの啓発活動を続けるグリーンルーペプロジェクト主催のウェブセミナーで今年2月に発表した。 「寄り添うことは肯定的な印象が強く、ハラスメント的な側面ががん経験者以外にはなかなか伝わりづらい。言葉を作ることで社会に広めていければと思いました」(谷島さん)  身近にがんなどの病気の人がいた場合、自分の気持ちを押し付けず、いざというときに話しかけやすい雰囲気を作り、相手が不安に思う点を取り除いてあげるだけで寄り添いにつながると、谷島さんは語る。 「入院中の僕は、職場や家庭を失うかもしれないことが、最大のストレスでした。それに対して妻は『何があっても支えるから』、信頼する上司は『お金のことも含めて何でも相談しろ』と言葉をかけてくれました。それですごく救われました」  がん研究会有明病院腫瘍精神科部長の清水研(けん)医師(49)は、このセミナーに出席し、「寄り添いハラスメント」という言葉を広めていく意義を感じたという。 「そもそも他人に寄り添うことは、とても難しいこと。善意であるために歯止めが利きにくく、時には相手を傷つけてしまうことさえあります。それらの注意点を社会で共有する上で、訴求力のある言葉だと思います」  精神科医としてがん患者や家族を支える清水医師もまた、かつては「患者に寄り添うには、本人の気持ちを聞き出すことが必要」と思い込み、相手の心に土足で踏み込んでしまったという。 「患者さんのために試行錯誤してきたつもりでしたが、実際には自分が役に立てていないことを認めたくなかったのではないか、ただの自己満足ではないかと気づいたんです」  現在は、患者に何かを提案する際は常に、「このことは本当に患者さんの役に立つのか、自己満足ではないか?」と自問自答を繰り返す。 「相手の気持ちがわからない間はもどかしいですが、『あなたを気にかけているし、手伝えることがあれば何でも言ってほしい』と伝えて、見守るほうが無難です」(清水医師)  患者にとってもっとも身近な存在である家族も、「寄り添いハラスメント」とは無縁ではない。前出のグリーンルーペプロジェクト発起人代表である轟(とどろき)浩美さん(58)は、自身の経験をこう振り返る。 「今思うと、私も亡くなった夫に対してハラスメントをしていたかもしれません」 ■ニンジンジュースを出し続け 夫の叫びで目が覚める  轟さんは16年、スキルス胃がんで夫の哲也さんを54歳で亡くしている。主治医から「余命は月単位」と言われたのは13年12月だった。 「私だけは夫の命をけっして諦めない。どんなことがあっても彼を助けようと思いました」(轟さん)  自分の料理や健康管理に原因があったのではないか、そんな自責感情にも苦しめられた。その失敗を取り返そうと、轟さんは告知後の半年間で、“がんに効く”というキノコや海藻類、無農薬のニンジンジュースなど10以上の民間療法を手当たり次第に試した。 「本を乱読して探すんですが、周囲からも善意で『〇〇ががんに効くらしい』という情報が寄せられました。私の情報と重複するものがあると、『やっぱり○○はいいんだ!』と思い込んだりして。玉石混交の情報にどんどん溺れていきました」(同)  夫は妻がすすめるものを、黙々と食べ続けた。だが、胃がんの症状が出る中、ニンジンジュースを毎日2、3杯飲み続けることは、体の負担でしかなかった。抗がん剤治療の副作用で口内炎だらけになり、痛みで口を開けられないこともあった。それでも轟さんは、毎日何本ものニンジンをミキサーにかけ続けた。痩せて体力が落ちた夫はある夜、ニンジンジュースを作る轟さんに向かってこう叫んだ。 「いい加減にしてくれ! 君は誰のためにやっているんだ。僕のことなんて見てないじゃないか。お願いだから病気を、治療を、科学を理解してくれ」  轟さんは驚きのあまりに自宅を飛び出し、街を一晩中さまよった。夫に寄り添っているつもりが、寄り添ってくれていたのは夫のほうだった。彼は「妻に後悔が残らないように」と無理をしていたのだ。自分の愚かさをただ噛みしめるしかなかった。 「夫を失いたくないという一心で頑張っていたつもりでしたけど、実際には私は自分がやりたいことを次々と試していただけだったんです」  轟さんは夫が望まない民間療法はやめ、今度こそ本当に彼に寄り添おうと決心した。スキルス胃がんの患者会設立に向けて動き始めた夫に協力し、14年10月に「希望の会」を発足。その後はNPO法人となり、夫の他界後は彼女が理事長を引き継いだ。夫は亡くなる20日前まで講演活動を続けたという。「彼は社会に爪痕を残そうとしていました。彼が命をかけた活動を共に進める日々は、まさに二人三脚でした。その人の考えを尊重し、信じて、見守ること。転びそうになったらさっと支える。それが本当の意味で、寄り添うことだと学びました」  困っている相手がいたら、助けてあげたい、力になりたいと思うのは自然な感情だ。だが、それを相手が望んでいない場合は、ストレスを与えることになる。前出の谷島さんは、病気に向き合う人に接する際の心構えを、次のように話す。 「自分がしたいことではなく、相手のストレスを取り除き、望むことの手助けをする。がんだけでなく、すべての病気や人間関係において、言えることではないでしょうか」(谷島さん) (ルポライター・荒川龍) ※AERA 2021年4月12日号
AERA 2021/04/10 08:00
マライア・キャリー、実姉に続き実兄にも名誉毀損で告訴される
マライア・キャリー、実姉に続き実兄にも名誉毀損で告訴される
マライア・キャリー、実姉に続き実兄にも名誉毀損で告訴される  先日実姉のアリソンから訴訟を起こされたばかりのマライア・キャリーが、今度は実兄のモーガンからも訴えられたことが明らかになった。  モーガンは、マライアが2020年に出版した回想録『The Meaning of Mariah Carey』の内容に名誉を傷つけられ、意図的に多大な精神的苦痛を与えられたとして、2021年3月3日に米ニューヨーク州最高裁判所に提訴した。訴状によると、彼はマライアのほかにも出版社のHenry Holt & Co.と傘下のAndy Cohen Books、そして共著者であるミカエラ・アンジェラ・デイヴィスも告訴している。  現在ハワイ在住のモーガンは、マライアの自伝で自身が“暴力的な男”として不当に描かれていると述べている。『The Meaning of Mariah Carey』で彼女は兄について、「守ってくれるような兄の思い出は少なかった」だけでなく、「むしろ彼から自分の身を守らなければと感じることの方が多く、時には母を彼から守ったりしたこともあった」と綴っている。また、「モーガンは長年にわたり暴力的で、怪しい人物や状況に関わったりしていた。金のためだったら何をするか分かったものではなかった」とも書いている。  モーガンは、自身が“長年にわたり暴力的”だった事実はなく、犯罪歴もないことを強調している。また、同著で自身が“施設に入れられていた”と暴露している内容について、子どもの頃に小児精神科病院であるSagamore Children's Psychiatric Centerに短期間入院していたのはプライベートな問題であると反論している。  また、マライアは駆け出しの頃に、初めてプロによるデモ・テープを制作するために兄から5000ドル(約54万円)を借りたことを認めているが、成功してから返済しただけでなく“その5000倍”もの金額を支払っていると綴っている。これに関してもモーガンは、まるで妹から金を巻き上げていたかのような表現であるとして異論を唱えている。
billboardnews 2021/03/05 00:00
「東大病院がコロナ拠点病院に手を挙げないのか」“病床崩壊”が止まらない
亀井洋志 亀井洋志
「東大病院がコロナ拠点病院に手を挙げないのか」“病床崩壊”が止まらない
外出自粛を訴える小池百合子都知事 (c)朝日新聞社 医療支援にむかう自衛隊所属の看護師ら (c)朝日新聞社  新型コロナウイルスの感染爆発による医療崩壊が差し迫っている。その渦中、東京都では、都立広尾病院など3病院が“コロナ専門病院”として始動する。他の都立・公社病院でも通常医療を縮小し、病床を確保する。崩壊は止まるのか。 *  *  *  ある都立病院の内科医が、院内の実情を語ってくれた。 「コロナ治療にあたる医師スタッフは、呼吸器や循環器、消化器など集中治療ができる診療科が中心となり、一般外科などは応援として補われる予定です。看護師も多く必要となるため、一般病床の一部を閉鎖してあてがう形になります」  通常の診療は減らし、新規の入院は制限していくことになるという。 「緊急性のある疾患の治療や入院が必要な患者さんは他の病院に依頼することになります。一方、緊急を要しない治療であれば、患者さんには、治療再開を待っていただくか、他院を紹介することになると思います」  だが、大都市を中心に感染者の爆発的な増加は収まりそうになく、病床の逼迫に拍車がかかる。都がコロナ患者向けに用意したベッド数は4千床だが、1月15日時点で入院患者数は3020人。およそ8割が埋まっている状況にある。14日に開かれた、都内の病床数などの警戒レベルを判断するモニタリング会議では、専門家から、医療提供体制が破綻(はたん)の危機にあるとの見解が出た。  小池百合子知事は15日に記者会見を開き、都立・公社14病院をコロナ拠点病院とし、現在の計1100床から計1700床に増やすと発表。  都立広尾病院、公社豊島病院、公社荏原病院の3医療機関は実質的に「コロナ専門病院」とし、広尾はコロナ患者以外の新規外来や入院の受け入れを休止。豊島と荏原は産婦人科と精神科の救急以外はすべての入院や診療を取りやめる。  他の都立・公社病院でも通常の病床を一部閉鎖し、コロナ病床に切り替えて運用していく。これで病床の逼迫(ひっぱく)は食い止められるのか──。前出の内科医は厳しい見方だ。 「今回のコロナ専用ベッドの増床は焼け石に水になりかねません。新たな体制で運用を開始した序盤ですべてのベッドが埋まってしまい、その後はまた重症の患者さんを含め、選別して受け入れる状況に戻ってしまうと思います。入院してもすぐに退院できる患者さんも少なくなっているのです」  搬送した患者の受け入れ先がなかなか決まらない事案も増えている。現状、この内科医の病院でも救急患者を断らざるを得ないことがあったと、苦しい胸中を明かす。そのうえで、こう訴える。 「私たち一人ひとりの医療従事者は、与えられた医療資源と自分の体力が続く限りの働きしかできません。現状では、完全にそのキャパシティーを超えています」  現在、24時間救急体制を行う急性期病院が全国に4255カ所ある。このうち、新型コロナを受け入れている割合は、公立病院が約7割、公的病院が約8割だが、民間病院は約2割にとどまる。このため、厚生労働省は感染症法を改正し、医療機関への患者の受け入れ協力を「要請」から「勧告」に強めるという。  民間病院でコロナ患者の受け入れが進まないのは、中小規模の病院が多いことも理由の一つだ。第1波でコロナ専用病床を開設しながら、後に閉鎖せざるを得なくなった都内の民間病院がある。その院長が匿名を条件に取材に応じてくれた。 「通常病床を閉鎖して、一つのエリアを完全にコロナ病床だけにする工事に1カ月かかりました。さらに専従の職員に感染症のトレーニングをするのに1カ月要しました。そうしてコロナ病床が開設できたころには第1波が収束に向かっており、患者さんがあまり来ない状態が続いたのです」  コロナ病床を確保したため一般病床が減り、通常治療を制限。院内感染も発生し、救急診療や新規患者の受け入れが一時停止に追い込まれた。経営は悪化し、コロナ病床をやめて救急病床に戻さざるを得なくなった。 「中堅の民間病院ではコロナと、心筋梗塞や脳卒中などの救急患者の両方を診るのは難しかった。地域医療への貢献という意味では、発熱があるばかりに診てもらえない救急患者を積極的に受け入れていく病院であるべきだとの考えに至りました」  コロナを重点的に診る病院と、その他の疾患の救急患者を引き受ける病院との役割分担が必要だと訴える。 「心疾患や脳卒中の人が救急医療を受けられないような状況こそ、最も回避すべき医療崩壊です」 ■重症者ベッドが欧米より少ない  一方、コロナ患者を重点的に受け入れていく都立・公社病院だが、気になるのは重症患者用のベッド数だ。広尾は12床、豊島と荏原が5床ずつ。最も多い都立多摩総合医療センターでも21床だ。都の重症者数は15日現在133人で、今後も増加する可能性があることから、十分なベッド数とはいえないだろう。  医療制度研究会副理事長の本田宏医師はこう指摘する。 「感染症の専門医も、集中治療の専門医も日本は非常に少ないのです。また、重症者用のICU(集中治療用)ベッドも少ない。ですから、欧米と比べて患者数がずっと少なくても、すぐに医療が逼迫するのです」  本田医師によれば、人口10万人あたりのICUベッド数は、米国34.7床、ドイツ29.2床、韓国10.6床に対し、日本は7.3床しかない。重症患者に使用される体外式膜型人工肺(ECMО)は専門性が高く、1人の重症患者に何人もの医療スタッフが必要になる。 「厚労省はこの間、診療報酬を低く抑えて民間病院の経営を圧迫し、その一方で公立病院を減らそうとしています。そのツケがいま国民に回っているのです」(本田医師)  医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師はこう語る。 「都立・公社病院のコロナ拠点病院化は、非常に大きな一歩です。しかし、医師数が少ないので、重症者用のベッドがつくれないのです。いま機能していない戦艦大和があります。それは、東京大学医学部付属病院です」  今回、重点病院になった3病院の医師数は計417人だが、東大病院は約1300人もいる。 「なぜ、東大病院がコロナ拠点病院に手を挙げないのか不思議です。東大病院は文部科学省の管轄ですから、厚労省も都知事も要請できない。いますぐにでも総理がやるべきことです」(上医師)  菅義偉首相は新型コロナとの闘いを「国難」と呼んだのだから、本腰を入れたらどうか。(本誌・亀井洋志) ※週刊朝日  2021年1月29日号
医療新型コロナウイルス病院
週刊朝日 2021/01/20 11:32
コロナで疲弊する看護師の現実「世間はGo To楽しんでいるのに」
コロナで疲弊する看護師の現実「世間はGo To楽しんでいるのに」
※写真はイメージです (GettyImages) 聖路加国際病院の医療者バーンアウト率 (週刊朝日2020年12月11日号より)  コロナ禍で看護師の「燃え尽き症候群」が懸念されている。極度のストレスや疲労などからくる徒労感や無力感で、仕事への意欲を失うケースもある。看護師不足が叫ばれるなか、さらなる離職は医療崩壊にもつながりかねない。患者の命を救うためにも、まずは看護師を守らなければならない。  コロナの最前線で働くのは、ICUの看護師だけではない。3月から発熱外来を担当している看護師のTさん(30代)も、常に感染リスクと闘いながら患者と向き合っている。Tさんの医療機関では、一般外来に来た患者にまず看護師が問診し、熱や咳(せき)などの症状があった場合、発熱外来を一度、受診してもらうことになっている。  発熱外来は救急外来の一角に作られていて、汚染エリア(レッドゾーン)とグリーンゾーンにわかれている。防護具を着ているときは、レッドゾーンから一歩も出られない。狭い閉鎖空間で、発熱や咳がある“コロナ疑い”の人たちを問診し、のどのぬぐい液を採取してPCR検査にまわす。  陽性かもしれないと、不安を抱える受診者。なかには違う病気の可能性が高いが、熱などの症状があるため発熱外来に来た人もいる。「俺はコロナじゃない!」と怒りだす人に対して、検査の必要性を説き、不安を和らげるのも仕事だ。  患者対応以外にも苦慮することがあった。  Tさんの職場では発熱外来を受け持つ医師は、持ち回り制のため、呼吸器内科など内科系の医師だけでなく、耳鼻科や眼科などの医師も担当している。 「どの診療科の医師でも対応できるよう診察マニュアルはありましたが、読んでいない医師が多かったですね。ある診療科の医師は、呼吸器症状がある高齢の陽性患者さんに気管挿管するかしないかで悩み、呼吸器内科の医師に内線で相談していました」  防護具の着脱もトレーニングは受けているものの着慣れていないので、汚染された部分にうっかり触ってしまうことも。 「『そうやって脱いじゃダメです』とか、私たちが教えていました」  こうしたコロナ禍での新たな業務が、想像以上に看護師の負担を重くし、バーンアウトのリスクを高めている。  健康・医療心理学を専門とする大阪大学人間科学研究科の平井啓准教授は、「もともと看護師や介護福祉士などの職業は、バーンアウトしやすい」とした上で、コロナ禍では特に起こりやすい要素があると指摘する。  一つは、通常より業務量が増えたことだ。先にも触れたが、汚染された器具の消毒や感染者の排せつ物・吐物の処理、コロナ病床の廊下やトイレの掃除をするのは看護師だ。防護具を着た状態でしなければならず、それだけ負担が増える。  平井准教授は、さらにそこに経験不足が追い打ちをかけているという。 「ベテランの看護師さんなら技術も知識もあるので柔軟でこまやかな対応もできますが、まだ経験の浅い看護師さんだと、看護業務だけで精いっぱい。たった一人で感染患者に対応しなければならないとなると、プレッシャーも負担感も相当に大きいと考えられます」  もう一つ、金銭面の問題も挙げられる。感染のリスクを抱えながら、感染者の命を守るという過酷な仕事でありながら、支払われている対価は十分とはいえない。日本医療労働組合連合会は11月25日に記者会見し、加盟する医療機関の44.3%で、年末一時金(冬のボーナス)が昨年より引き下げられるとの調査結果を明らかにした。 「(医療者は)この9カ月間、ずっと厳しい中で働いている。夏に続いて今回も一時金が引き下げられる。このような状況が続くと、責任感や使命感で働いている医療や介護従事者はこれ以上もたない」(森田進書記長)  別の意味で「落ち込むことがある」と話すのが、先のTさんと同じ職場に勤めるKさん(30代)。 「看護師としてもっとも大事にしているのが、患者さんに共感して思いをくみ取ること。手を取って話を聞いてあげたいんですけれど、防護具を着ているので見えているのは目だけ。受診者と距離を置かなければいけないので、自分のやりたい看護ができません」  しかも、検査で陽性になれば、自宅に帰ることもできず、そのまま入院となり、病気が悪化すれば人工呼吸器が必要になる。そのまま最期を迎える人もいる。家族も患者に会えないままだ。 「『ちゃんとご飯は食べていますよ』と話していたおばあちゃんが、次の日には人工呼吸器が必要になり、亡くなってしまう。この病気じゃなかったら家族に会えていたでしょうし、もっといろいろなことができたと思う。無力感しかありません」  こうした看護師らのメンタルを支える取り組みを、4月から実施しているのが、東京医科歯科大学病院(東京都文京区)だ。  精神科や緩和ケア科、看護部、保健管理センターの医師や看護師からなるメンタルヘルスケアチームは、まず病院で仕事をするすべての職員、スタッフ約600人に面談を実施。その後も心身に不調を訴えるスタッフに対し、精神科医らがサポートを行っている。チームをまとめる精神科准教授の杉原玄一医師は、 「(最初に感染拡大した)あの時期は、使命感や責任感がなければ逃げ出したい環境。そこに立ち向かっていったスタッフは、強いストレスにさらされていました。一方で、この状況をみんなで乗り越えようという団結力のようなものがあったように思います」  逆に、感染者数が落ち着いてきた夏ごろは、最初のころのような緊張感がなくなり、気力が湧かないような状態に変わってきたという。第3波で一度緩めた緊張の糸をもう一度、締め直さなければならない。「そうした気持ちの立て直しをできるかどうかが鍵」だと杉原さんは言う。  全国で感染者数が過去最多を更新し続け、中等症や重症の患者も増えている。厚生労働省のまとめでは、病床数の逼迫(ひっぱく)の程度を示す「病床の使用率」は、11月18日現在、全国の14都道府県で20%を超えた。ただ、病床数自体は余裕があっても使えないという病院もある。前出の看護師のKさんはこう話す。 「コロナ病床が逼迫しているといいますが、うちの場合はコロナの影響で患者さんの受診控えが続いていて、病床自体は空きがあるんです。でもコロナに感染した患者さんを受け持つ、看護師らスタッフが不足しているからそこを使えないんです」  コロナ専用病床では中等症、重症問わず通常の病床よりも多く看護師が必要になる。コロナ以外の診療も続けつつ、感染患者も診なければならない。医療機関が単純にコロナ病床を増やせないのは、こうした事情もあるという。  日本看護協会は、第3波に向けた対策の一つとして、近く看護職の相談窓口を設ける予定だ。4月20日からの約1カ月間も同様の相談窓口を設けており、800件を超える相談が寄せられた。うちメンタルヘルスの相談は70件弱で、「給与やボーナスが減額された」「誹謗(ひぼう)中傷がいまだになくならない」「世間がGo Toで楽しんでいるのに自分たちは旅行や会食さえできない」といった声があったという。協会の福井トシ子会長は、次のようなメッセージを出した。 「日本の医療現場は、看護職の献身的な努力と使命感で持ちこたえています。医療が崩壊すれば救うことのできる命も助からなくなります。看護職をはじめとする医療従事者を物心両面から支えてください」  コロナの収束の先行きがまったく見えない中、「最後の砦(とりで)」となる看護師を守るための方策は必要だ。看護師のKさんの言葉を最後に記す。 「防護具を着ていると、『そんな格好で、よくがんばっているね』とか、『無理しないでね』とか言われることがあります。そういう言葉に励まされて、今日もがんばろうって思います」 (本誌・山内リカ) ※週刊朝日  2020年12月11日号より抜粋
新型コロナウイルス
週刊朝日 2020/12/06 08:02
統合失調症 幻覚や妄想などの「急性期」でも通院治療のケースも
統合失調症 幻覚や妄想などの「急性期」でも通院治療のケースも
京都大学病院 精神科神経科教授 村井俊哉医師 統合失調症データ(週刊朝日2020年11月20日号より)  およそ100人に1人がかかり、精神科の病気の中でも頻度が高い「統合失調症」。幻覚や妄想などの症状が強く現れる急性期は、薬物療法に重点をおいた治療になる。急性期を乗り越え、次のステップにつなげることが大切だ。 *  *  *  統合失調症は長期にわたって治療に取り組む必要があるが、十分な回復が期待できる。治療の両輪となるのが「薬物療法」と、カウンセリングやリハビリテーションなどの「心理社会的療法」だ。症状や経過に合わせ、両者の比重を変えながら組み合わせていく。  幻覚や妄想などの激しい陽性症状が現れる「急性期」は、薬物療法に重点をおいた治療がおこなわれる。京都大学病院精神科神経科教授の村井俊哉医師はこう話す。 「患者さんは幻覚も妄想もすべて現実に起きていることだと思い込み、これまでに体験したことのないような恐怖を感じています。幻聴に『死ね』と命じられて、自殺を図ろうとしてしまうことさえあります。幻覚や妄想は、薬で抑えることが可能です。つらく危険な状態から早く脱するために、できるだけ早く治療を始める必要があります」  主に使われるのは「抗精神病薬」だ。脳の中で情報を伝達している神経伝達物質の一つ、ドパミンの活動を調節することで、幻覚や妄想を改善する。近年は陽性症状だけでなく陰性症状も改善するなど、さまざまなタイプの抗精神病薬が使えるようになった。  抗精神病薬は効果が高く、幻覚や妄想を抑えるには欠かせない薬だが、からだの震えや筋肉のこわばり、口のもつれ、からだがそわそわして落ち着かないといった「錐体外路症状」と呼ばれる副作用が出ることもある。  同じ薬でも効き方や副作用の出方は人によってさまざまなので、多くの薬の中から一人ひとりの状態に合った種類と量を細かく調整していく。 「つまり錐体外路症状のような副作用を起こさず、一方で幻覚や妄想といった症状を抑えることができるような、ちょうどよい薬の量を見極めることになります」(村井医師)  多くの場合、薬を服用後1~2週間ほどで幻覚や妄想は弱まり、次第に落ち着きを取り戻していくという。  また、治療を成功に導くには「休養」も欠かせないと村井医師は言う。 「患者さんは幻覚や妄想で疲弊し、音や光などの刺激に敏感になって十分な睡眠を取れていません。病気が重い時期に不眠や過労でさらに無理がかかれば、症状の悪化を招いて治りにくくなってしまいます。『今は休養の時期』と割り切り、必要に応じて睡眠薬や抗不安薬なども使いながら、静かな環境でゆっくり休むことが大切です」 ■入院か外来か 選択も重要になる  症状が強く現れる急性期はとくに、入院か外来か「治療の場」の選択も重要だ。村井医師は言う。 「急性期だからといって必ずしも入院が必要となるわけではありません。近年は薬物療法の進歩などで症状をコントロールしやすくなり、以前に比べると通院で治療するケースは増えています」  一方、入院は仕事や家事などふだんの生活から離れることになるが、そのぶんしっかり休養をとることができ、治療のプラスになる場合もある。医療者側も、病状をつぶさに把握でき、薬の種類や量を調整しやすい。  とくに「症状が重く、日常生活が維持できない」「服薬や休養など治療に必要な最低限の約束を守ることが難しい」「本人が入院を希望している」「支える家族がそばにいない」という場合は、入院を選択したほうが、安心して療養に専念できる。  難しいのは、入院が必要なのに本人の同意が得られないケースだ。統合失調症では病気が始まってしばらくは本人に病気だという自覚がほとんどなく、幻覚や妄想が出ていても治療に応じないことが多い。しかたなく家族が何とか病院へ連れていき、医師の判断で閉鎖病棟や保護室に入院になることもある。精神科の入院は、閉じ込められる、自由を奪われるというイメージが強く、それも必要な治療にたどり着けない一因となっている。村井医師はこう説明する。 「閉鎖病棟は病状が不安定なときなどに入院する病棟で、出入りが制限されています。保護室は自殺のリスクがあるなど、いっそうの安全確保が必要な人のための病室で、出入り制限だけでなくきめ細かく観察できるような態勢がとられています。一時的に患者さんを危険から守るための場所で、治療で陽性症状が落ち着けば、一般病棟に移ることができます」 ■急性期の終わりが退院の目安  急性期の期間は数週から数カ月。適切な治療を受けることで幻覚や妄想といった激しい陽性症状はおさまり、入院治療をしている人は、急性期の終わりが退院の目安になる。村井医師は言う。 「その後の回復の経過には個人差がありますが、このころになると、薬がどのくらい効いているか判断できるようになり、順調に職場復帰できそうだとか、少し長引きそうといったある程度の見通しがつくようになります。病気になったとたんにあわてて大学や会社を辞めてしまいがちですが、病気が始まったときは、まだ進路を変えるような判断をする段階ではありません」  また若い世代がかかりやすい病気だけに、「この先、どんどん悪くなっていくのでは」と心配する人も少なくない。 「統合失調症は進行性の病気ではありません。残念ながら徐々に悪くなってしまう方がいらっしゃるのは事実ですが、最も症状が重いのは最初の数年間で、その後は完治とは言えないまでも良くなっていくことが多いのです。また患者さん自身も、病気と上手に付き合っていけるようになります。治すべきときはしっかり薬を飲み、必要に応じて入院もして急性期を乗り越え、次のステップにつなげることが大事です」(同) (ライター・熊谷わこ) ※週刊朝日  2020年11月20日号
週刊朝日 2020/11/16 19:00
正しい医療情報を発信することで救える命がある……医師の使命とは
正しい医療情報を発信することで救える命がある……医師の使命とは
大塚篤司医師/1976年千葉県生まれ。2003年信州大学医学部卒業、12年チューリヒ大学病院客員研究員を経て17年から京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医、がん治療認定医(写真/倉田貴志)  アトピー性皮膚炎や皮膚がんの一種であるメラノーマが専門の、京都大学医学部特定准教授の大塚篤司皮膚科医。大塚先生は、SNSや書籍などで医療情報の発信もしている。現在発売中の『医学部に入る2021』では、大塚医師に取材をし、医師になった経緯や医師だからこそ言葉を大切にする理由を聞いた。 *  *  * ■小児ぜんそくになり医師が身近に、幼少期から夢は「お医者さん」  2歳で小児ぜんそくになり、頻繁に病院通いしていた幼少期から「医師」がとても身近な存在だったという。親戚や家族にも医師はいない環境ながら、物心がついた時には自然と将来の夢は「お医者さん」。  その後、小学校高学年には「科学者」に、中高生になると本が好きになり、夢は「作家」へと変化した。成績優秀な学生だった大塚医師だったが高校時代に数学でつまずき、学校をさぼって喫茶店で本を読む日もあった。 「高校数学で虚数の概念が受け入れられず、拒絶反応が出てしまって。成績が落ちると、勉強へのモチベーションも下がり、学校をさぼって昼間から喫茶店でシナモントーストとアップルティーを頼んで、読書していたこともありましたね」    高3のとき、そんな大塚医師に転機が訪れた。父が病気で入院し、初恋の人も病に倒れたのだ。また「病院」や「医師」が身近な存在となり、「医師になりたい」という幼少期の夢が再燃した。 「医学部を目指して高3からは一転、猛勉強をしました。でも結局、現役時代はセンター試験800点中300点という結果に終わりました」    浪人し、苦手だった数学の克服に成功した。決め手になったのは、受験指導でも有名な精神科医の和田秀樹氏の勉強法を取り入れたこと。 「和田先生の勉強法は、同じ問題パターンを何度も解いて丸ごと覚えてしまう丸暗記法。1浪目は予備校でも英単語5千語と数学の基本問題を暗記させられてテンプレートを覚えたので、センター試験も800点中680点まで得点が伸びました」    1浪目で受かると思われた医学部の後期試験の面接で、テーマだった「安楽死」について面接官と30分も熱く議論をしたところ失敗。結局、2浪をして、最終的にセンター試験800点中740点をとり、信州大学医学部に合格した。 「やはり、志望校に特化した勉強をするのが一番効率的です。僕の場合はベーシックな内容を幅広く確実に押さえることが得意だったので、センター試験の配点が高い医学部を受験し合格しました」 ■大学で基礎研究にはまり、憧れの先生のいる皮膚科医の道へ    高校時代の失敗を教訓に、大学では1年目からコツコツと真面目に勉強した。専門課程の講義では一度も赤点をとらず、すべて一発合格だった。    医学部の3~5年では基礎研究にはまり、生化学教室でおこなわれていたがんの基礎研究には寝る間を惜しんで参加した。そして、この時の経験が「皮膚科医」への道につながっていく。  当時の「憧れの先生」は、皮膚科領域の基礎研究で多くの先進的な論文を発表していた慶應義塾大学医学部皮膚科学教授の天谷雅行医師だ。 「憧れの先生のいる診療科はひかれますし、モチベーションも高まりますよね」    大塚医師が医学部を卒業した2003年は、臨床研修でローテート(研修医が病院の各科を順に回って研修する)がスタートしておらず、医学部時代に専門科を決めなければならなかった時代だ。 「臨床で患者さんを診療でき、基礎研究もおこなえ、がんも診られるという条件で絞っていくと、選べる診療科はそんなに多くなく……。消化器内科なども考えましたが、臨床が忙しかったり急変もあったりして、研究にあまり時間を割くことができないだろうと考えました。そこで最終的に、皮膚科に決めました」    当時、国内ではまだ、皮膚科領域のがん研究はそれほど進んでいなかった。卒業後は、基礎研究ができて、皮膚免疫の研究にも強かった京都大学皮膚科学教室で研修することを決めた。 ■正しい医療情報を伝えるため、多忙な医師業の傍ら医療情報を発信    大塚医師は現在、京都大学医学部特定准教授であるほか、京都大学病院皮膚科の病棟医長で同病院のがんセンターメラノーマユニットのリーダーでもある。また腫瘍免疫、特にメラノーマに対するPD -1抗体の治療効果などの研究も担当する。    病院での一日の仕事は、基本的に8時から20時までだが、曜日によって異なる多くの業務をこなす。例えば月曜日の午前中は初診の外来、午後は病棟医長またはユニットリーダーの立場で17時まで会議をし、夕方からは病棟カンファレンス。その後は20時までデスクワーク、といった具合だ。  唯一、自分のことができる金曜日でも、教科書の執筆や大学院生の研究論文のチェック、学会のケースレポートの添削、研究費の報告書や申請書などの書類仕事をこなす。夕方からは、メラノーマなどの勉強会に座長として参加もする。 「アトピーとメラノーマの二つの学会に所属しているので、土日はほぼ、どちらかの学会に参加します。コロナ禍の今はウェブ学会になりましたが、以前は毎週のように全国を飛び回っていました」  多忙な医師業の傍ら、書籍の執筆やコラムニストとしてニュースサイトでの連載、SNSで医療情報の発信もしている。医師仲間で立ち上げた「SNS医療のカタチ」ではYouTubeでも配信している。 「医療情報を発信するようになったきっかけは、ニセ医療情報に困っている人や、アトピーの患者さんで病院に来ない人に正しい医療情報を伝えたかったからです。そうした患者さんの医療への不信の背景にあるのは、医療者とのコミュニケーションエラー。それをどうにか解消したかった」    医療情報を発信してみて感じるのは、医療デマを信じてしまっている人を正しい医療に導くことの難しさだ。特にテレビの影響力は大きく、多くの人がその情報を真実と受け取りやすいという。  病院に来て正しい治療をしていれば、悪化しないで済んだ疾患で苦しむ患者さんたちを目の当たりにしながら、「医療リテラシー」を高めてくれることを願い、発信し続けている。 「医師が医療情報を発信することで救える命があると思っています。そもそも病院に来ない患者さんを、診察室で待っていても仕方がないですから」 ■患者に寄り添う“やさしい医療”、人間にしかできない医療とは    今後、求められる医師とはどんな医師なのか。大塚医師はまず、医師の基本を問い正す。 「医師は専門職です。だからこそ専門的なトレーニングをしっかりと受け、医学的知識があるからこそ患者さんの体にメスを入れてもいいという資格を与えられています。まずはきちんと勉強していくこと、そこから逃げないことが大事です」    そして、患者さんを治療する際に、「どんな言葉をかければつらくないか」「治療に前向きになるか」「傷つかないか」を常に考え、患者さんに寄り添う“やさしい医療”を提案する。 「これは、日ごろのコミュニケーションの中で磨かれるもの。それが医師になってから役立ちます」   ■エビデンスとナラティブの両方を勉強し、医師は日々精進  エビデンスは重要だが、患者さんと話すときは、冷たくなりすぎないようにナラティブ(物語と対話に基づく医療)の視点で接するようにしているという。大事なのは「バランス」。 「これからの医師はエビデンスとナラティブの両方を勉強し、日々精進していくべきだと思います」    AIの登場で、今後の医療現場は大きく変わる可能性がある。いま医学部に入りたいと思っている人たちの10年後や20年後も、いまと同じような医療体系になるのかは「正直わからない」と大塚医師は話す。 「医師の役割はもちろん、診断と治療。そこがあえて人間である必要とは何か。これから医師を目指す人には、ぜひ考えてみてほしいと思います」
病院
dot. 2020/11/03 17:00
スペイン風邪と闘った文豪 芥川龍之介は再感染、与謝野晶子は家族に
スペイン風邪と闘った文豪 芥川龍之介は再感染、与謝野晶子は家族に
辞世の句まで詠み、死をも覚悟した芥川龍之介 (c)朝日新聞社 娘の運動会や女中の観劇まで徹底的に3密を回避した志賀直哉 (c)朝日新聞社 子供が次々感染した与謝野晶子は政府の対策を批判 (c)朝日新聞社  全国で緊急事態宣言が解除された。とはいえ、5月30日段階で新型コロナウイルスによる死者数は約900人を数え、第2波への警戒は怠れない。約100年前にパンデミックを起こしたスペイン風邪では、都合3回の感染拡大があり、国内でおよそ40万人が命を落とした。スペイン風邪と闘った文豪たちの姿から、我々は今、何を学べるか? 「僕は今スペイン風邪で寝ています。うつるといけないから来ちゃだめです。熱があって咳が出てはなはだ苦しい」  1918(大正7)年11月2日、芥川龍之介は友人への手紙にこう記し、末尾に「胸中の凩(こがらし)咳となりにけり」という俳句を添えた。呼吸のたびにヒューヒューと音がする自身の病状をこがらしに喩えた一句である。  その翌日には作家仲間への手紙で「スペイン風邪で寝ています。熱が高くってはなはだ弱った。病中髣髴として夢あり。退屈だから句にしてお目にかけます」と書き、末尾に、「凩や大葬ひの町を練る」と、死者の増加を伝える句を記し、「まだ全快に至らずこれも寝ていて書くのです。頓首」と続けた。  芥川の病状はかなり重かったようで、「見かへるや麓の村は菊日和」という辞世の句まで書いている。回復後の11月24日に、漱石の長女と結婚した作家・松岡譲の肺炎入院見舞いとして「僕もインフルエンザのぶり返しでひどく衰弱していた。辞世の句も作った」「御互に今度はと命拾いをしたほうだろうと思う」と書いた手紙を送っている。  新型コロナウイルス同様、スペイン風邪にも「再感染」があったようだ。回復したはずの芥川が再び感染したのは翌年2月。田端の実家に戻り、療養した。半月ほど実家で過ごし、ようやく床を上げ、鎌倉の家に帰宅したのが3月3日。12日に友人に書いた手紙の末文で「目下インフルエンザの予後ではなはだ心細い生き方をしています」と記し、「思へ君庵の梅花を病む我を」との句を書いた。  芥川が2度目の感染から回復した直後に、実父・新原敏三がスペイン風邪で入院してしまった。芥川は病院に寝泊まりして看病したが、実父は3日後に死去。亡くなる前の晩には、芥川の手を取り、自分が所帯を持ったころの話を語り出し、涙を流したという。  世界で5億人の感染者を生み出したスペイン風邪では、数千万人が亡くなったとされる。日本で最初の流行があったのは大正7年8月。3回の感染拡大の波を経て、約40万人が亡くなった。芥川だけでなく、多くの文豪が感染した。  芥川とともに東大同人誌「新思潮」のメンバーだった久米正雄も、スペイン風邪で生死の境をさまよった一人。大正8年2月1日に自作の戯曲が上演されていた大阪から帰京すると、翌日には風邪を自覚。5日に予定されていた知人の結婚式を欠席すると、診察した友人の医師は、自らの手には負えないとノーベル医学賞候補にもなった東大病院の名医・呉建に助けを請うたほどだった。そのおかげもあって回復した。  もう一人の「新思潮」メンバーだった菊池寛もこの時期、危うくスペイン風邪になりかけた。菊池は2度目のスペイン風邪から回復した芥川と大正8年5月4日、長崎旅行に出発した。車中で菊池は頭痛を感じて岡山駅で途中下車。もしものときは故郷の高松に渡り、養生するつもりだった。その気持ちを察したのか、芥川は下車する菊池に「君は讃岐で生れたのだから、讃岐へ死にに帰るというわけになるのじゃないかなあ」と言ったという。  芥川に不吉なことを言われた菊池は駅前の安宿に宿泊。菊池はのちにこの旅について、「流行性感冒以来、病気に就いては極端に憶病になっている。このまま、長崎へ行って病みついたりしては事だと思ったので、芥川に一足先へ行って貰って、自分は岡山で一旦下車することにした」(「長崎への旅」)と書いている。菊池がスペイン風邪を疑ったのは、旅の前日に病後の久米正雄に会ったことも関係していた可能性がある。  それでも旅を続けるのが菊池の菊池たるゆえんである。頭痛を抱えたまま、翌日からは尾道、下関などを経由して5月7日、芥川から2日遅れで長崎に着いた。恐れていた感冒ではなかったようだ。  長崎滞在中の芥川は、歌人の斎藤茂吉と面会している。茂吉は大正6年末から長崎医学専門学校教授に任じられ、併せて県立長崎病院精神科部長として赴任していた。まるでスペイン風邪が芥川の後を追いかけるように、茂吉のいる長崎でもこの年の暮れ、スペイン風邪が猛威を振るった。医師として、歌人として、茂吉は長崎を襲ったスペイン風邪をこう詠んでいる。 「寒き雨 まれまれに降りはやりかぜ 衰へぬ長崎の年暮れむとす」  その茂吉が感染したのは大正9年1月だった。6日に東京から訪れた義弟とホテルで食事をして帰宅した後、急激に発熱して寝込んでしまった。ウイルスは茂吉の肺を襲い、肺炎を併発。一時は生死の境をさまよい、命も危ぶまれた。妻と子にも感染した。茂吉が床上げしたのは2月15日、勤務を再開したのはその10日後だった。茂吉の勤務した長崎医学専門学校では、同僚の教授と校長がスペイン風邪で命を落としていた。今でいう「クラスター」だろう。このとき茂吉が詠んだ歌が、「はやりかぜ 一年(ひととせ)おそれ過ぎ来しが 吾は臥(こや)りて 現(うつつ)ともなし」だ。茂吉の予後は悪く、6月には喀血し、しばらく温泉を転々として療養する一年となった。  死を招きうるウイルスを警戒したのは昔も今も一緒だ。多くの文豪は過剰なまでにスペイン風邪を恐れた。川端康成はこの時期、感染が広がりつつある東京を避け、伊豆を訪れている。一高生だった大正7年秋、19歳の川端は、スペイン風邪を警戒して伊豆・修善寺から湯ケ島を旅した。この旅で出会った旅芸人一座との思い出を描いたのが後の名作「伊豆の踊子」である。  当時、千葉県・我孫子に住んでいた志賀直哉は大正8年発表の短編「流行感冒」で、徹底したスペイン風邪対策をとった様子を「事実をありのままに」(あとがき)描いている。「流行感冒」の主人公は、感冒を恐れ、医師が勧めるのに娘を運動会に行かせない、女中を街に出すときにも店での無駄話や芝居見物を禁じる。近くの工場で300人規模のクラスターが発生するなか、女中は禁を破って芝居見物に出かけ……という物語。  実の娘を病気で失っていた志賀は「子供のために病的に病気を恐れていた」と書いているとおり、今で言う「3密」を排した。  志賀の「3密回避策」は新型ウイルス感染拡大中の現在にも通用する感染拡大防止策だが、歌人の与謝野晶子の主張も今に通じるものを感じる。大正7年、与謝野の10人の子の1人が小学校でスペイン風邪に感染したのをきっかけに、与謝野家は家族が次々と感染してしまったのだ。与謝野はこの体験を「感冒の床から」と題して「横浜貿易新報」(現・神奈川新聞)に論評記事を書いた。 「政府はなぜいち早くこの危険を防止するために、大呉服店、学校、興行物、大工場、大展覧会等、多くの人間の密集する場所の一時的休業を命じなかったのでしょうか」  今も昔も国は十分な対策を打てなかったようだ。  新型コロナウイルスで大切な人を失わないために、先人の失敗から学ぶことはたしかにある。スペイン風邪は収束まで2年以上かかり、第2波では高い死亡率となった。新型コロナウイルスの流行が長期化する恐れは多くの専門家が指摘している。油断は禁物だ。(本誌・鈴木裕也) ※週刊朝日  2020年6月12日号
週刊朝日 2020/06/09 09:00
「検査キットの普及と抗ウイルス薬の処方を早く」 1200人医師アンケート【西日本編】
「検査キットの普及と抗ウイルス薬の処方を早く」 1200人医師アンケート【西日本編】
テントの中で防護服を着て患者を診察する医師/兵庫県(c)朝日新聞社 「ドライブスルー式検査」のデモンストレーションで使われたPCR検査のキット(c)朝日新聞社  病院やクリニックなどの医師が、新型コロナウイルスについてどんな考えを持っているのか。医師専用のサイトを運営するメドピア社の協力で実施した緊急アンケート。1200人超の回答が集まったなかから、反響が大きかった、「今後政府に対してどのような対策を期待しますか」の質問に対する回答を追加で紹介する。2回目の今回は西日本編。  アンケートは、政府が最初の緊急事態宣言を出した4月7日以前に実施。 なお、すでに誌面で紹介している回答や、 「医療崩壊が起きる(もしくは起きている)」 「早期の緊急事態宣言を」「ロックダウンすべき」「強制的な外出禁止」 「マスクなどの医療資源を現場に」 「重症度に応じた収容施設の確保など」 「ワクチン、薬の早期開発」  といった全体的に多かった回答と同内容のものなどについては省略している。 * * * 【西日本編】 ◇関西・北陸 ▽滋賀 ■整形外科/50 首相・議員などの利権・エゴなどをやめて、専門家の分析を尊重し、素早い情報提供・正しい政策を ▽京都 ■精神科/40 一貫した対応、現状分析も大事ですが、予測も大事 ■小児科/30 感染症をみる病院を集中させる。病院で勤務する医療者を給与面や待遇で優遇する ▽大阪 ■一般内科/60 人的にも、物資や設備的にも、行き当たりばったりの負担を強いないでいただきたい ■心療内科/60 回復したらもうそのシーズンは感染しないのか知りたい ■アレルギー科/60ほか インフルエンザのようにコロナに感染しているかわかる迅速診断キットがあれば、薬局で販売し、自分で検査をすればよいと思う。陽性なら保健所に連絡する。病院や診療所に検査のために患者が殺到しないようにしてほしい ■一般内科/50 気にせず明確な方針を確固として貫いてほしい ■循環器内科/50 医療機関の必要物質の援助。収入の補償 ■小児科/40 コロナ感染者の線引きをはっきりしてほしい。間違っても、検査をやりたい放題という状況は作らないでほしい ■眼科/40 とにかくPCR検査して感染状況をわかるようにしていただきたいです ■代謝・内分泌科/30 コロナ肺炎を診察する病院をしぼり、そこに医療関係者を派遣する ▽兵庫 ■泌尿器科/60 あまり経済ばかり気にしすぎると対策が手遅れになる ■循環器内科/50 政府というより政府が頼りにしている専門者たちへ。医療崩壊させないために爆発的な患者数の増加を抑えようと目標を設定し、多くの人が順守して他国に比べて非常に緩やかなカーブになっているにもかかわらず、貴重な時間を無駄にして対策を十分に取らず、挙句に医療崩壊などと簡単に音を上げるようでは、国民も医療者もついていけない ■代謝・内分泌科/50 医療機関ごとの役割分担を、指導力を発揮して進めてほしい ■小児科/50 もっと国民(特に若者)が危機感を持つような強いメッセージを発してほしい。最前線で治療にあたる医療機関に十分な医療物資が届くようにしてほしい。無症状感染者および軽症者のための経過観察場所として、公的施設の提供や自衛隊病院の活用を。応援医師が動きやすい環境等の整備 ■脳神経外科/40 手術室、カテーテル室、救急外来の資材確保など、優先順位を決めて現場の安全保護に努めてほしい。好きなことを言いっぱなしのマスコミのコメンテーターを規制してほしい。余計な一言が患者を惑わせ、診療時間の延長に繋がる ■家庭医療/40 医学的には軽症者の自宅待機と休養できる環境づくり。経済的に問題が出ると自殺率の上昇などにつながる恐れがあるので、消費税率5%以下に減税し、国民1人当たり10万円以上の現金給付。消費税や所得税の予定納税の停止、社会保険料減免、家賃・水光熱費の減免とそこへの援助など。大胆に政策を行う必要がある ▽奈良 ■一般内科/50 医療側の意見を真摯に聞いてほしい ■腎臓内科/40 感染症の専門医と相談して、統一した感染対策案を全国の病院に通達してほしい ■整形外科/40 政府は緊急対策チームを作り、国家を上げて取り組むべき。海外の有識者を招いてもいいのではないか ▽和歌山 ■一般内科/50ほか 前線で働いている医療従事者が疲弊しないよう、感染しないよう対策を ▽富山 ■一般内科/50 緊急事態として対応。経済のことを考えている場合ではない ■一般内科/50ほか 早期の抗ウイルス薬の処方許可 ■一般内科/20 医療側の疲弊がすごいので、補償など求める ▽石川 ■一般外科/50 感染診療対応のチームにリーダーシップを期待 ■脳神経外科/50 コロナ専門病院を作れ ■腎臓内科/50 実際にパンデミックになったときの対応を考えていてほしい ■整形外科/50 ガイドラインをはっきりしてほしい ■一般内科/40 検査数はいたずらに増やさず現状維持でいい。増やしたら間違いなく医療崩壊する ■一般内科/30 医師、看護師の増加政策 ■消化器内科/20 健康な一般市民にマスクは必要ない ▽福井 ■老年内科/60ほか 安倍首相の政策には期待できない ■循環器内科/50 国民の命を守る政策 ■リウマチ科/50 患者激減のため、給与の補償 ■整形外科/50 医療スタッフの増援。病院とクリニックの役割・機能分担 ■リハビリ科/40 医師スタッフの少ない地方の病院は、一人でも欠けたら業務が立ち行かなくなる。患者はコロナだけではない ◇中国・四国 ▽鳥取 ■代謝・内分泌科/70 感染多発地区の閉鎖です ■神経内科/40ほか 医療従事者への危険手当を多くする ▽島根 ■消化器内科/50 指示系統を一つにする。マスコミに躍らされない ■精神科/30 医療現場の負担軽減 ▽岡山 ■精神科/50 人工呼吸器の増産の指示、および購入のための医療機関への補助。人件費の充実で人手不足を補う ■アレルギー科/40 休校の延長 ■一般内科/40 速やかな現金給付や、コロナに関係している薬を開発している企業への支援 ■神経内科/40 制約の多いなか、いろいろ頑張っているのは分かる。ただそれが知られていないので、もっと周知を。手続きの煩雑さで制度利用を断念する人が多い。簡略化できるものはしてほしい ■神経内科/30 困っている現場を正確に把握し、迅速に支援をしてほしい ▽広島 ■一般内科/60 今のままでいい ■リウマチ科/60 電話診療の拡充 ■一般内科/60 経済の影響を考えているのかもしれないが、早期から感染対策の専門チームを編成し、専門家の意見に耳を傾けてほしかった。後手後手になった感は否めない ■一般外科/50 早くアビガン処方の解禁と検査キットの普及 ■消化器内科/50 院内感染は病院の責任だけではないことを国民に周知してもらう ■泌尿器科/50 今回のウイルス感染は想定外の出来事。その対応に関して医療訴訟を促すような行動や判断を法曹界に慎むように依頼していただきたい ▽愛媛 ■眼科/50 マスク、消毒しか身を守る術がない。すばやく増産してほしい。医療現場での人工呼吸器、防護服など、諸外国をみれば不足することは目に見えており、対応が遅い ■放射線科/50 コロナ肺炎の画像の提供 ▽高知 ■一般外科/60ほか 最近は院内感染が多くなっており、医療崩壊につながりかねない。職員からの持ち込み発生もあり、症状がなくてもPCR検査をすべき。政府は都市封鎖の決断時期が重要 ■麻酔科/60 もはや手遅れ ■一般内科/60 権限と責任を持たせた機関に指示系統を一本化してほしい ◇九州 ▽福岡 ■一般内科/70 早急に入院ベッドと人工呼吸器などそろえた野戦病院みたいな設備を多数作る ■循環器内科/60 若者の感染予防行動が不十分なので、三つの密を避けるようもっと啓発活動を強化してほしい ■一般外科/60 自粛に伴う経済活動を縮小する間の補償制度の確立 ■一般内科/50 治療薬治験の短縮、あるいはなし。社会保障の組み入れ。新型インフルエンザのときと同様、過度な受診を控えてもらうよう周知する。すべてが治療の対象になるわけではない ■眼科/50ほか 医療機関からPCR検査の依頼があれば、選別せず全例施行してほしい。マスクや消毒液を政府が買い占めて備蓄しないでほしい ■一般内科/50 抗体検査とアビガンの使用許可 ■皮膚科/40 医療崩壊は間違いなく起きる。どうやってその被害を抑えたらいいか考えた方がいい。最悪、海外のように治療対象の優先順位をつける必要が生じるのではないかと危惧しています ▽佐賀 ■小児科/40 これまでの日本政府の方針が良かったとは思わないが、過去を指摘しても仕方がない。最善を尽くしてほしい ▽長崎 ■小児科/40 医療者が感染した際の補償をお願いしたい ▽熊本 ■精神科/50 ネットでできることを増やす。パニックを避けることが重要。食料を中心とした生活必需品の生産や流通を、他者との交流をできるだけ避けられる方法で確立することができれば ■消化器内科/30 精いっぱい行っている。特に期待するものはない ▽大分 ■麻酔科/40ほか 診療に従事する医療従事者の安全確保と、報酬の増額をお願いしたい。少しでも早くワクチンが開発されるよう支援してほしい ▽宮崎 ■脳神経外科/60 日本らしいやり方でいいと思います ■老年内科/40 医療機関の役割分担をする必要に応じて、損な役割を受けた医療機関に財政支援する ▽鹿児島 ■一般内科/50 素早い的確な情報発信 ■呼吸器内科/50 穏やかな集団免疫 ▽沖縄 ■小児科/30 今回の騒動に伴う財政困窮者への早急な現金の配布。家賃や公共使用の免除 (本誌・山内リカ) ※週刊朝日オンライン限定記事
週刊朝日 2020/05/03 10:30
コロナ「巣ごもり」スマホ漬けが脳を壊す! 依存症のリスク
永井貴子 永井貴子
コロナ「巣ごもり」スマホ漬けが脳を壊す! 依存症のリスク
スマホ漬けの子ども ※写真はイメージです (c)朝日新聞社 スマホ依存度チェックリスト (週刊朝日2020年5月1日号より)  新型コロナウイルス対応の緊急事態宣言が発せられて2週間。学校は休校、店や施設も休業に入り、外出もままならない。子どもも大人もそしてお年寄りさえも、スマホやネット漬けという家庭も少なくないだろう。だが、スマホは、依存症や認知症を引き起こす「最凶の依存物」なのだ。 *  *  * 「ママ、充電が切れたぁ」  オンラインゲームに没頭していた7歳の娘が、バッテリーの切れたゲーム機を片手に、ドスンと背中に飛びついてきた。  新型コロナウイルス対応の安倍晋三首相の緊急事態宣言を受け、小学校5年生と1年生の娘が通う地元の公立小学校は、1カ月半以上休みが続いている。塾も習い事も休止が続く。  和枝さんは自宅でテレワークをしているが、10分おきに子ども2人が話しかけてくる状態では、集中できずいらだちが募る。 「スマホでYouTubeの動画や、オンラインでのゲームやアニメ番組もすべて解禁です。見放題にさせて、静かにしてもらっています」  子どもに怒鳴るよりマシ、と割り切った。  この小さな「魔法の箱」。大人にとっても、これほど便利なものはない。  先日、こんな場面に出くわしたことがある。  祖母と思しき初老の女性が、自転車の幼児座席に乗った3歳ほどの男の子にスマホを黙って渡した。  なんの気なしに眺めていると、女性はひとりで郵便局に入り、ATMの列に並んだ。  男の子は、スマホ画面に熱中しておとなしく幼児座席に座っている。だが自転車の30センチ先を、トラックがビュンビュン通りすぎてゆく。慌てて郵便局の職員に声をかけたが、スマホを子守代わりに赤ちゃんや子どもに与えるのは、いまや見慣れた光景だ。  新型コロナの感染拡大を受けて、学校や塾もスマホやタブレットを使ったオンライン学習を強化している。親はもちろん祖父母世代も、「これからはITとプログラミングの時代だから、IT機器には慣れたほうがいいでしょう」と、警戒感もないまま幼児や子どもに与えているのが現状だ。  だが、久里浜医療センターで精神科医長を務め、『スマホ依存から脳を守る』の著者、中山秀紀医師はこう警鐘を鳴らす。 「とんでもない。スマホは、『最凶』の依存物です。スマホやオンラインゲームへののめり込みを、『依存』という病気であると意識せずに生活を送る人がどれほど多いことか。徐々に身体や精神をむしばむ、スマホやゲームがどれだけ危険か知ってほしい」  同センターは、アルコールなどの依存症治療を手掛けてきた。2011年からは、「ネット依存」外来を新設した。小学校5、6年生から中学・高校生が受診者の7割を占め、2カ月先まで予約はいっぱいだという。  依存症になるほどネット漬けの生活を送る子どもたち。「特殊な環境で育った、特殊な子ども」で、わが家には関係ないと感じる人も多いだろう。 「そうでもありません。小学校にあがるくらいの時期から、ゲーム機や親のパソコンを使い、中学生前後で、自分用のスマホを与えられるといった、ごく普通の環境です」(中山医師)  子どもらが依存に陥るのは、「学校で友達とうまくいかない」「部活をやめて時間が余った」など、ちょっとしたきっかけだ。  教室の友達とはうまく話せなくても、オンラインゲームやSNSのサイト内ならば、話しベタが目立たずコミュニケーションできる。  そして、夏休みをきっかけにさらなる依存に陥る。  不特定多数とのオンラインゲームに、朝方まで没頭。昼すぎに起きる生活が続くと、2学期が始まっても朝起きられず、学校に通えなくなる。  典型的なパターンだ。そもそも依存症とは何か。 「まず『やる』『やらない』の制御が困難になる。さらに、学校や会社に行けず、社会生活に深刻な支障をきたすほど執着する状態を指します」(同)  アルコールやギャンブル、ゲームやネットなど依存性のあるものの共通点は、「手軽に快楽を得られる」という点だ。仕事で疲れていても、ビールの缶は簡単に開き、たばこの火は2、3秒でつけられる。  学校から帰宅した子どもは、トン、トンと指で数回タブレットの画面に触れるだけでYouTubeの動画を再生しゲームを始められる。現実の世界で「天下統一」は無理でも、シミュレーションゲームならば王様になることもできる。  やっかいなのは、スマホやタブレットが、子どもにとっては「便利で飽きず」、親や祖父母にも「コスパに優れた」道具である点だ。  遊園地に遊びに行っても、室内でパズルに熱中しても、ある程度、遊べば子どもは飽きてしまう。親は、お金を出して新しいレジャー先か新しい玩具を探す必要がある。しかし、ネット環境があれば、子どもが食いつく動画は無限に出てくるし、新しいゲームが次々に開発される。小型で持ち運びも苦にならず、電車でもレストランでも場所を選ばず、子どもを静かにさせてくれる。まさに「魔法の箱」だ。  親の側でも、子どもに持たせるべきか否かのハードルは確実に下がった。  おまけに東京都をはじめ全国の自治体でも、「防災の観点から」という理由で、公立の小中高校へのスマホや携帯電話の持ち込みを認める方向に動きつつある。  子どもにスマホを与える大義名分は増え、逆に禁止をする理由は、「子どもには早い」「目が悪くなる」というあいまいな理由ぐらいしか思いつかない。  19年度の内閣府の調査によれば、小学生の動画やゲームを含むネット利用率は86.3%にもおよぶ。  小学2年生と5歳の子どもを育てる母親もこうため息をつく。 「娘たちがYouTubeやLINEのスタンプ機能をおもしろがってずっとスマホを持っている。取り上げると怒りだして、手がつけられない」  依存物に熱中しすぎると、次に待ち受けるのは、「不快」を伴う離脱症状だ。中山医師が続ける。 「スマホなどを使えず快楽が得られない時間が続くと、イライラなどの不快感に襲われます。人間は快楽を我慢することはできても、不快感に耐え続けるのは難しい」  不快感を解消するため依存物をまた手に入れようとするのだ。  世界保健機関(WHO)は、「ゲーム障害」をギャンブル障害やアルコール依存症などと類似の疾病と位置づけた。18年、厚生労働省の研究班は、ネット依存の疑いのある中高生は5年で約40万人増えて、93万人にのぼるとの推計を発表している。  中山医師によれば、親にスマホやオンラインゲームを取り上げられた子どもが、家具を壊したり家族を殴るなど、暴力行為に走るケースも少なくない。  依存状態から脱却するためには、スマホから物理的に離れ、使わない時間をつくる必要がある。久里浜医療センターでは、スマホやオンラインゲームからどうしても離れられない人のために、入院による心理療法や治療キャンプも行っている。  一方、60~80代の高齢者も緊急事態宣言後、ほとんど外出できず、スマホなどでSNSと向き合う時間が増えているという。だが、落とし穴がある。 「高齢者の場合、依存するほど使い続ける人はあまり多くありません。問題になるのは、スマホやタブレットを使うことによって引き起こされる脳過労です」  そう警鐘を鳴らすのは、おくむらメモリークリニック院長の奥村歩医師だ。  脳外科医として、認知症やうつ病に関する「もの忘れ外来」で多くの高齢者を診察してきた。 「物忘れがひどい。何もやる気がしない」  奥村医師の「もの忘れ外来」を訪れ、こう訴える高齢者は少なくない。だがMRIで脳の状態を見ても、記憶や学習をつかさどる海馬の萎縮は見られない。 「たいていは、スマホやネットを使いすぎて、脳が過労を起こしている状態です」(奥村医師)  つい最近までネットともスマホとも、さほど縁のない生活であった高齢者が、定年退職をきっかけにスマホにはまるケースもある。  高学歴のインテリ層ほど年齢を重ねても勉強熱心だ。「社会とつながっていなければ」という強迫観念も強く、ネットにのめり込む傾向がある。  また最近は、共働きの家庭の孫を預かる祖父母が増えてきた。孫と触れあう時間が増えてうれしい一方で、奥村医師にこう打ち明けるお年寄りも増えた。 「スマホやネットを使えないと、孫に『おじいちゃんやおばあちゃんて、何もわからないんだね』と言われてしまう。孫と会話が弾むようになりたい、との焦りもあり、携帯をスマホに買い替えました」  加えて、お年寄り自身も家族も、デジタル機器で脳に刺激を与えたほうが、脳のトレーニングや認知症防止にもよいだろうと、熱心にスマホを使う。  しかし奥村医師は、脳を使うことが、必ずしもいいわけではないと言う。 「疲れているときにデジタル機器を使ったり、脳トレをやりすぎたりすると、記憶や、感情のコントロールをつかさどる脳の前頭葉部分が疲労を起こしてしまう。刺激どころか、逆効果です」  脳の疲れが進むと、うつ病を発症し、本当の認知症に進行する可能性もある。  奥村医師は、子どもも大人もスマホを遠ざける時間をつくり、なるべくアナログの生活を意識することを勧める。触覚、味覚、嗅覚といった五感を使うほうが、むしろ脳への刺激は強い。  新型コロナの影響で、不要不急の移動や外出の自粛が強く要請されるなか、自宅に閉じこもる生活が続く。  それでも、五感を使った生活を心がけることはできる。SNSに日々の生活を記録する代わりに、紙とペンを使って絵日記に挑戦してもいい。学校の課題も、ネットのサイトで調べて終わるより、自宅にある百科事典や図鑑をめくろう。本を棚から取り出し、ペンを持ち、文字や絵を描く。すべての作業は五感を刺激し、脳を使う。  人の少ない早朝に、スマホを自宅に置き、地図を片手の散歩もいい。状況がよくなったら公園や川べりに足を運び、花や新緑の香りに包まれてはどうだろうか。(本誌・永井貴子) ※週刊朝日  2020年5月1日号
週刊朝日 2020/04/24 11:30
精神疾患は身近な病気なのに、医療が届きづらい? 「正しい情報がほしいけど」
大石賢吾 大石賢吾
精神疾患は身近な病気なのに、医療が届きづらい? 「正しい情報がほしいけど」
大石賢吾(おおいし・けんご)/1982年生まれ。長崎県出身。医師・医学博士。カリフォルニア大学分子生物学卒業・千葉大学医学部卒業を経て、現在千葉大学精神神経科特任助教・同大学病院産業医。学会の委員会等で活躍する一方、地域のクリニックでも診療に従事。患者が抱える問題によって家族も困っているケースを多く経験。とくに注目度の高い「認知症」「発達障害」を中心に、相談に答える形でコラムを執筆中。趣味はラグビー。Twitterは@OishiKengo ※写真はイメージです(写真/Getty Images)  精神疾患は、日本の5疾病の一つであり、患者数は平成29年で419万人と増加の一途にあります。しかし、とても身近な疾病である一方で、必要な人に医療が届いているかと問われると必ずしもそうではないようです。千葉大学病院精神神経科特任助教の大石賢吾医師が相談に回答する形で連載してきた本コラム。これまでの連載を振り返りつつ、その理由について考えます。 *  *  *  コラムを読んでくださっている皆さま、大石賢吾です。実は、仕事の都合から、今回でいったん休載させていただくことになり、ご報告も兼ねて番外編的なコラムの機会をいただきました。せっかくなので、今回はこれまでの連載を経て、当コラムを通してお伝えしたかったことを振り返りたいと思います。  医療が届かず苦しんでいる人たちへ必要な医療が届いてほしい。約1年前、その思いで連載を受け、恐縮ながらもこれまで、「認知症」や「発達障害」に関連したご相談にお答えする形で進めてきました。皆さまからは、共感やもう一歩先の相談、答えきれていない部分への意見など、たくさんの反応をいただきありがたく思っています。  精神疾患は、日本の5疾病の一つであり、患者数は平成29年で419万人と増加の一途にあります(厚生労働省HP:みんなのメンタルヘルスから)。また、精神疾患では、症状が患者の行動に反映されることが少なくありません。それゆえ、周囲に影響を与える機会も生じやすく、肌感覚でも他疾病と比べて覚知されやすい一面があるのかもしれません。  しかし、とても身近な疾病である一方で、必要な人に医療が届いているかと問われると必ずしもそうでないように思います。皆さまからの意見を拝見していると、「悩みに対して正しい情報がほしいけど、どうしてよいかわからないから二の足を踏んでしまう」というお悩みが多いように感じていました。  精神疾患が多元的で事例性が高い第10回(2019年8月15日配信参照)ということだけでなく、インターネットを介して多様な目的に基づく情報が無限に広がる現代社会では、正しい情報だけを収集するということは、とても難しい課題です。  私たちが提供する精神科医療では、大まかに一般外来をみても「異常の覚知、(周囲からであれば)受診同意の取得、受診、精査、診断、説明、ゴール設定、治療同意の取得、治療、評価、調整、再評価、終診」といった多くの過程があります。もちろん、疾患によっても異なりますし、入院や入所、在宅あるいは活動環境の調整などが必要なケースでは、より複雑になるでしょう。  それぞれの過程において必要な情報を集め、複数の選択肢の中からその都度決断をしていく。精査、診断、治療の提案を除いても、ご自身や支援者だけで行うのは非常に困難ですし、正解がみえない中で情報を求め続けるご心労ははかりしれません。  また、早期介入が望まれる場合、二の足を踏むことで状態が悪化してしまう可能性も否定できません。もしかすると、ご自身または大切な人のことで悩み続けることで限界を超え、新たな問題が生じてしまうおそれもあります。  精神科医療に限ったことではありませんが、患者と家族に寄り添い、問題をしっかり把握、評価したうえで、適切な診断、治療の要否などを説明・協議すること。また、場合に応じて必要な情報(源)を提供することは、われわれ医療者が担うべきところだと思います。  医療が全てを解決できるわけではないかもしれませんが、悩みを聞き、解決へ向け何らかの助言が得られるかもしれません。信頼を寄せる医師であれば、精神科でなくともよいと思います。改めて、当コラムが、医療が届かず社会で苦しまれている人の目にとまり、一人でも多くの方に、必要な医療が届くきっかけになればと願っています。 (精神科の外来に不安を感じる人もいらっしゃると思います。実際、医療で受けた提案は、ご自身または支援者としっかりと検討することが重要です。精神科外来については、第5回でも取り上げていますのでご参照ください)  また、願わくばもう一つ。精神疾患における誤解についてです。誤った知識は、当該の事柄だけでなく、それに関わるものについても誤解を生み出してしまうおそれがあります。そしてその誤解は、患者さんにとって不当な評価をもたらすきっかけになってしまうかもしれません。  これは、ご自身であっても、周りで支援しようとしてくださっている人でも、(自戒の念として)医療者であっても当てはまります。誤った知識だけが誤解を生む原因ではないと思いますが、第6回(2019年6月6日配信)で取り上げた自己診断であったり、単に周囲と比べて目立つものがあるだけで精神疾患と疑ってしまったりと、誤解に基づく不当な評価が苦痛の一因となっているケースも経験します。  ご本人がご自身の一番の理解者であるために、患者さんのことを思い支援する人が本当の支援者であるために、(しつこいですが自戒の念として)医療者が信頼される良き医療者であるために、得た情報の検証と学び続けることが重要なのだと思います。  医療とつながるということは、診断や治療を受けるというだけでなく、専門的な情報の窓口にかかるということでもあります。先述のとおり、医療で受けた提案であっても納得するまでしっかりと検討する必要はありますが、この点につきましても、当コラムがきっかけの一つとなれば光栄に思います。  本来は、ある程度の回を通して、「誤解」ではなく「偏見(stigma)」について皆さんと考えてみたいと思っていました。(正確ではないかもしれませんが)私にとって「偏見」は、精神医学の歴史や社会的背景なども含む大きなテーマであったため、あえて「誤解」という選句にとどめました。  改めて、最後になりましたが、「医療が届かず社会で悩んでいる人へ」  当コラムを担当させていただいてから早1年。当コラムは、必要な医療が届かず地域社会の中で苦しんでいる人へ、どうにか医療を届けられないかと思って始めました。  医学的・医療的な内容はあえて控えるようにしていたため、深みのないものばかりだったと思いますが、これまでご愛顧、またご意見をくださり、読者の皆さまには心から感謝しています。  新年度からは、行政官としてよりよい医療提供の実現へ向け尽力させていただく方針で準備を進めています。そのため、職責相反の観点からいったん休載とさせていただくことになりました。  今後環境は変わりますが、引き続き微力ながら、これまで学び、育てていただいた経験を、社会のためにできる限り還元していけるよう努めたいと思っています。当連載が、皆さまの一部であっても、お悩みに向き合う何らかのきっかけになれましたら心からうれしく思います。
病気病院
dot. 2020/02/20 07:00
なぜフランス人は「ひきこもり」を誇れるのか? 日本人医師に聞いた
なぜフランス人は「ひきこもり」を誇れるのか? 日本人医師に聞いた
古橋忠晃さん(撮影/金城珠代) 古橋さん(右から3人目)とストラスブール大学病院セクターの訪問医療チーム(本人提供)  8050問題が注目を集め、事件の背景として報じられることもある日本のひきこもり問題。同じひきこもりでもフランスでひきこもっている人たちは、メディアに登場したり、講演会で将来の夢を語ったりすることが多いという。その違いは何なのか。3年前に現地でやひきこもり専門窓口を立ち上げ、現地の医療チームと訪問診療にも関わっている日本人の精神科医、名古屋大学学生支援センターの古橋忠晃さん(47)に聞いた。 *  *  *  日本では、ひきこもりという言葉に、暗いイメージが付きまといます。親を亡くした後の生活をどうするかという8050問題もあり、明るい未来を描いている人のほうがまれでしょう。国内には100万人以上いるとされ、その規模の大きさからも医療機関や福祉施設が関わって社会復帰を促す「支援」が必要だとされています。しかし、ひきこもりの人たちのなかには手を差し伸べる人に対して「支援臭がする」と嫌う人もいるくらいです。そこがかみ合わないことが、日本のひきこもり問題の大きな課題です。  しかし、フランスではひきこもりに日本のような暗いイメージはありません。講演会や市民講座に呼ばれて話していると、本人がフロアから発言することもあります。ある男性は「5年ぐらいひきこもって、家でゲームをしています。いつかは教師になりたいのですが、いつ社会に出るのが一番望ましいか考えています」と話しました。メディアで「Je suis Hikikomori.(私はひきこもりです)」と語る人もいます。  日本ではひきこもり最中の人が講演会に来ることはあまりないですし、マスコミに出ることもありません。  一方、フランスでは家族が将来を心配することはありますが、本人の生き方として肯定的にとらえ、そこから何かポジティブなものを見いだそうと考える傾向があります。その違いに、当初はすごく衝撃を受けました。 ■面会を拒絶されることがない  フランスの訪問診療では日本のように拒絶されたり、会うのに苦労することは全くありません。渡仏のたびに毎週会って1時間ほど話す現地のひきこもりは10人以上いますが、初対面のときからすんなりと受け入れてくれました。国や地域によって、家族制度や個人主義的な考え方がどの程度強いのかが違い、その影響もあります。  さらに、私が外国人であることも拒絶されない理由の一つだと考えられます。ひきこもりというのは内にこもるイメージがありますが、私は「社会の外」という感覚があるのではと考えています。つまり、私のような外国人は「自分と同じ外の人間」として受け入れられるわけです。35年間、通院も訪問診療も拒否したある男性も、インターホンごしに「私は日本から来た専門家です。もしよかったら会えませんか」と言うと、「どうぞ」とドアを開けてくれました。  精神病で妄想があるなら「自分は病気じゃない、会いたくない」と拒否されるでしょうけれど、ポジティブな概念であるひきこもりの専門家が来たとなると大歓迎。お茶やケーキを出してくれる人までいます。  ひきこもりは空間的な問題と思われがちですが、社会的なつながりがないという意味なので、匿名の状態ならコンビニでジュースを買ったり、外出したりでき、「外こもり」と呼ばれるように旅行に行ける人もいます。それはどの国でも変わりません。今、フランスのひきこもりに人気なサービスは、ウーバーイーツです。24時間営業で、食料品や日用品を買って運んでくれサービスもあるので便利なんですよね。  ひきこもりになる背景も違います。日本ではいじめや不登校、仕事の失敗などがきっかけになっていることが多く、フランスでは移民や失業問題がとても多いです。社会に統合できないことがひきこもりにつながりやすく、圧倒的に低所得者、貧困層の家庭で起きることが多いです。私が訪問を続けている方たちも、フランスと聞いてイメージされるような町並みとはかけ離れたエレベーターのない寂れた公団住宅に住み、インターネットやゲームに張り付いていることがほとんどです。中流以上の家庭であることが多い日本の状況とは違いますね。  年齢層も日本より上です。それは、フランスでも研究されてきた不登校問題と高齢者の「ディオゲネス症候群」(日本でいう「ゴミ屋敷」問題)の間の世代に起きる問題として、日本から新たな概念がもたらされ、広がったことが理由の一つでしょう。既にひきこもっている期間が20、30年となっている人も結構います。公的な補助をもらうなど、生活面の改善は必要です。フランス国内に180万人程のニートがいると主張している専門家もいて、その大半がひきこもりになっている可能性も考えられ、今後は国として対策を考える必要が出てくるかもしれません。  欧州各国でも近年、この問題が注目され、イタリアやイギリス、オランダ、スウェーデンなどからも講演依頼が来るようになりました。イタリアは3年程前から大手メディアでもひきこもりが取り上げられるようになりました。特に北部では日本のように家族制度が強いので、ニートがひきこもり化する傾向は高いかもしれません。個人主義の強い国にひきこもりがいないというわけではありませんが、ドイツではそこまで広がりがないように感じています。イギリスでは、2018年に政府が「孤独問題担当国務大臣」という役職を設けました。  貧困や同調圧力、社会からの孤立など、あらゆる国や地域で人々が抱えている歪のようなものが、ひきこもりという形で現れています。彼らの声に耳を傾けると、社会の課題も見えてくるのです。 ■うつ病などの精神疾患と誤診も  訪問診療への関与や医師への助言のほか、各国でひきこもりという概念を伝えるのも私の仕事の一つです。フランス国内での市民講座を開くと、100人以上が詰めかけ、質疑応答が2時間続くということもありました。街中でふと「甥がひきこもり状態だ」という話が耳に入ったり、カフェでスタッフの会話を聞いて「息子がひきこもりなんです」と相談を受けることがあります。それほど注目され、「ひきこもり」という言葉が定着していると感じます。  しかし、誤ってうつ病や統合失調症などと診断され、抗うつ薬を処方されたり緊急入院させられたりするケースがまだまだあります。  例えば、ひきこもり始めた最初の1~2年は、無理やり外に引っ張り出そうとした親を殴るなど、家庭内暴力が起きることがよくありますが、精神病による一過性の錯乱と判断されて緊急入院になるケースなどがあります。ひきこもりの場合は、薬は効きませんし、退院させてひきこもっている現状を認めてあげれば暴力自体は減ります。  長期的にひきこもっている場合、フランスでは医療との関わりを続ければ最低限の生活を続けることができる障害者年金を受取ることができるようになりつつあるので、その手続きがなされることもありますし、本人が望めば社会に参加する道をみつける手伝いをしています。  日本でもフランスでも、外とつながるにはきっかけが必要です。彼らはひきこもってゲームに張り付いていても、ニュースをチェックしていたり、パソコンを通して外の世界を観察していることがあります。一見、すべてを閉ざしているように見えますが、それぞれに小さな接点が必ずあります。そこを見つけてつなげてあげれば、外へ出るきっかけになるかもしれません。例えば、ゲームが好きなら、誰かとつながるようなオンラインゲームをやってみないかと提案する。ゲーム内のチャットや掲示板を見ているだけなら「ちょっと書き込みもしてみたらどう?」と言葉をかけてみる。その一言で、本人は外へと動いていきます。  私の訪問を受け入れてくれたある男性は、10年近くひきこもり、毎日15時間もゲームに費やす状態になっていました。やり方を詳しく聞いてみると、ゲーム内でコメントを書き込んだりせず、他のプレーヤーたちのやり取りを見ているだけでした。 「これだけやっていたら、すごく知識があるでしょう? 書いてみたらどう?」とアドバイスすると、攻略のコツやゲームに関する情報を書き込むようになり、プレーヤーからコメントをもらったり、ネット上の友だちができたりするようになりました。彼はその後、外出も増えました。  こういった方法は日本での臨床経験がベースにありますが、本人の生き方を認めて外につなげていくという方法はフランスで教えられたものです。フランスを中心としてヨーロッパの各国を行き来しながら、ひきこもりにとってよりよい生き方を模索しています。
dot. 2020/02/04 07:00
「多剤服用」でうつや認知症の副作用も…それでも減薬が難しいワケ
「多剤服用」でうつや認知症の副作用も…それでも減薬が難しいワケ
適正に服用すれば効く薬でも、飲みすぎると危険な場合がある (※写真はイメージ) (c)朝日新聞社 同一の薬局で1ヶ月に調剤された薬剤種類数 (週刊朝日2020年1月24号より) 高齢者で特に慎重な投与を要する薬物 (週刊朝日2020年1月24号より)  症状を改善するために飲んでいるはずの薬も、量や種類が多すぎると副作用の危険が高まる。代謝機能が衰える高齢者ではなおさらだ。多剤服用が原因で認知症のような症状を示す場合もある。薬を減らして症状が改善したケースを取材した。身に覚えのある方は、医師に相談してみよう。 *  *  * 「もうほとんど寝たきりで記憶もあんまりないような状態でした。一度ならず、死にたいと思ったこともありました」  と言うのは、東京都世田谷区に住む80歳の女性。10年前くらいからうつ症状があり、心療内科で診察してもらい投薬治療を続けていた。症状が改善しないので病院を渡り歩くうちに、飲む薬が増えていき、抗不安薬、抗うつ剤、睡眠薬、降圧剤など10種類以上の薬を飲むようになっていた。 「飲むだけでも大変な量の薬を飲んでいましたが、飲まないのは不安なので飲み続けていました。でも具合はどんどん悪くなっていく。また別のお医者さんに行って相談しても、もう出す薬がありませんって言われるほどでした」  立ち上がるとふらつくことが増えてきたのは3年前。ある夜、トイレの前で倒れているところを夫に発見される。「倒れて体をぶつけてあざだらけでした。顔なんてお岩さんみたいになっていた」と夫は当時を振り返る。このあとほぼ寝たきりの状態になってしまう。ついには味覚や嗅覚も失い、何を食べても砂を噛んでいるようだったという。衰弱も進み、家には夫婦しかいないのに「誰かいる」と口にすることもあった。「要介護4」と認定された。  ある日、誤嚥性肺炎で入院。咳止めや痰を切る薬も加わった。退院時に、地元で訪問診療を行う医師を紹介された。ふくろうクリニック等々力の橋本昌也医師だ。高齢者の医療に詳しい橋本医師の指導で、飲みすぎている薬を減らしてみることにした。  少しずつ減薬し、最大で11種類飲んでいた薬を4種類にまで減らすと、みるみる症状が改善してきた。女性は「目の前が晴れていくような感じ。味覚も戻り、歩けるようになり、今では要介護度も1になりました。この前は夫と北陸旅行に行ったんですよ。死にたいと思っていたほどだったのに、こんなに元気になるなんて思ってもいませんでした」と笑う。  最新の研究では、高齢者は服用する薬の種類が増えるほど体に異常が起こりやすくなることがわかっている。特に多くみられる症状は、ふらつき・転倒、物忘れ、うつやせん妄、食欲低下など。6種類以上の薬を服用する「多剤服用」の場合、そのリスクが高まることもわかっている。この女性の症状も多剤服用によるものだと、診察した橋本医師は考えたのだ。 「多剤服用による副作用で認知症のような症状を示す事例は増えています。若い人と比べると、高齢者は薬を代謝する肝臓や排出する腎臓の機能が衰えるため、リスクも高くなる」(橋本医師)  それにもかかわらず、高齢者ほど薬の数が増えているというデータもある。厚生労働省によると、1人の患者が1カ月に一つの薬局で受け取る薬の数が7種類を超える割合は、40~64歳で10%、65~74歳で13%、75歳以上で24%。これが5種類以上だと、それぞれ24%、28%、41%となる。  橋本医師によると多剤服用の原因のひとつに「いつのまにか診断」があるという。たとえば、うつっぽい症状があっただけのAさんの例。B病院で症状を伝えると「抗うつ剤を試してみましょう」と言われて抗うつ剤を飲み始める。それでも症状がよくならないのでC病院に行く。C病院でAさんは「B病院で抗うつ剤をもらっている」と伝えると、「うつですね。薬を増やしてみましょうか」と薬を追加される。こうして、ただのうつ症状だったAさんはいつのまにか「うつ」と診断され、複数の薬を服用することになる。 「認知症の場合もそうです。物忘れが多くなり、相談に行った病院で『認知症予防薬を飲んでみましょうか』と言われて薬を飲み始める。これもいつのまにか診断。多剤服用の入り口になりやすい」(同) ■減薬に踏み切る判断は難しい  埼玉県の70代男性の場合も、物忘れがひどくなり、かかりつけの医師に相談に行き、そこで専門の認知症外来のある病院を紹介されたのが始まりだった。専門病院で検査をした後、アルツハイマー病の疑いがあるとされ、予防薬を飲み始めた。もともと高血圧と高脂血症の薬を飲んでいたところに、アルツハイマー予防薬と睡眠導入剤、精神安定剤、胃薬などが追加されたことになる。認知症の症状は一進一退だったが、数年後、心筋梗塞を起こし入院。抗血栓薬、睡眠薬、便秘薬など10種類近い薬を飲むようになると、せん妄、不眠、よだれなどの症状が出た。家族が入院先の心臓外科医に服用薬の相談をするとアルツハイマー予防薬、精神安定剤の服用を中止。すぐにせん妄、よだれの症状が改善され、まもなく退院した。家族が医師に服用薬の相談をしなかったら、心臓外科医は認知症の薬をやめる判断はしなかったと話したという。  なぜこの心臓外科医は相談されるまで薬の中止を決断しなかったのか。千葉大学医学部附属病院薬剤部の新井さやか医薬品情報室長は、「多剤服用には“これが原因”というはっきりしたものはありませんが、医師の側、患者の側ともに減薬に踏み切れない理由がある」として、こう話す。 「医療者の側からすると、ほかの病院のほかの専門分野の医師が決めた投薬に口を出しづらいということがある。また、大きな病院だとどうしても一人ひとりの患者さんごとの細かい病歴や服用薬まで把握しきれないこともある。また、患者の側からすると、どこか具合が悪いとすぐに病院に行き薬をもらいたがるという面がある」  たとえば、高齢者で睡眠困難を訴える患者から「どうしてもしっかり眠りたい」と訴えられると、医師は薬の種類が多いのを知りつつも眠れる薬を処方してしまいがちなのだ。特に複数の病院を受診している場合、それぞれの病院で投薬されるため多剤服用に陥りやすくなる状況が生まれていた。  行政も手をこまねいていたわけではない。厚労省は2017年に、多剤服用の害に加え、膨れ上がる医療費の約6割を占める高齢者医療費対策のためにも、処方薬の適正使用に向けたワーキンググループを立ち上げ、18年5月には高齢者医薬品適正使用のためのガイドラインを策定した。同ガイドラインは、医療機関に向けて、不要な薬の処方を減らす必要性や、薬物療法の適正化のための具体的なプロセスを説いたもので、安易な薬剤の使用に警鐘を鳴らしたもの。19年6月には、「外来患者」や「入院患者」、「医師が常勤する介護施設の入所者」など療養環境別のガイドラインも公表し、それぞれの環境で薬剤治療を見直す手段を、より具体的に記載した。  ガイドラインを受けて、18年10月に減薬プロジェクトをスタートさせたのが有料老人ホーム等を運営する「らいふ」だ。同社は1都3県で48の有料老人ホームを運営し、入居者約2400人の約7割が認知症である。入居者の平均年齢は87.5歳、毎食前食後の平均服用薬数は7.2錠だった。  医師・薬剤師・介護職員などからなる専門チームを立ち上げ、半年かけて薬の量が適正かどうかを検討した結果、7割の入居者で薬の量や種類に改善の余地があることがわかった。医師の指導のもと減薬を開始したら、さっそく効果が表れ始めた。  18年暮れに入居した88歳の男性は、認知症による“歩き回り”があり、施設にいることを理解できない見当識の低下があった。病院ではやむなく体幹ベルトなどの身体拘束をされていたが、らいふでは身体拘束ができない。車椅子から立ち上がり勝手に歩き回るため、介護職員の見回りで危険回避に努めていた。また、見当識障害のため、入居者に対して「君は誰だ!」「俺のものだ!」と大声で怒鳴り、興奮状態になることが毎日のように繰り返されていた。抗不安薬を変更し、2種服用していた認知症薬の1種を中止、さらに検査と経過を見ながら胃薬や高脂血症の薬の内服も中止。5種類飲んでいた内服薬を2種類に減らしたところ、約1カ月で症状が改善し始めた。まず、対人トラブルがなくなり、笑顔で入居者と会話ができるようになり、興奮状態もなくなった。見当識や物忘れの改善はできないが、認知症に伴う不安・不穏の症状は改善された。 ■適正な減薬で認知症状が改善  17年11月に入居した際に9種類の内服をしていた91歳の女性は、入居当日から大声を上げ、夜間は眠らずに廊下を這(は)いずり回り、ほかの入居者の部屋に侵入し奇声を発した。物をたたき、入居者へ暴言を吐くなどの症状により、退去を勧告しなければならない状態だった。家族と相談して精神科に入院してもらい、症状が落ち着いた2カ月後に再入居。そのとき薬は12種類に増えていた。だが、暴言・暴力こそなくなったが、夜間の這い出し、奇声は変わらない。内服薬の適正化を試みたのは18年4月。抗不安薬を変更し、長年飲み続けていた胃薬や痛み止めを中止し、まず7種類まで減薬し、症状を見ながらさらに睡眠薬と数種類服用していた下剤も1種類だけに減らした。すると、夜間の這い出しや奇声がなくなり始め、2週間たつと日中も車椅子で落ち着いて過ごせるようになり、1カ月後には入居者や介護職員との会話に笑ったり、つじつまは合わないとはいえ会話も可能になった。また、車椅子を自力で動かせるようになる。2カ月後には他者を気遣う言葉も出るようになり、今では車椅子で自由に移動して過ごせるようになった。そんな女性を見て家族は「病院も精神科もダメで、薬の増量もできない状態で、このまま一緒に死のうかとまで考えたことがあったが、減薬してもらって本当によかった」と話している。  このほか、減薬を試みた認知症入居者の約3割で何らかの改善が見られたという。  同社の「認知症高齢者減薬取り組みプロジェクトチーム」を率いる小林司取締役は、この取り組みは同社だけでなく業界全体にメリットがあると言う。 「薬の適正使用については、本来であれば適正に投与されれば効くはずの薬が、飲み合わせが悪い、重複投与、過量投与などで、果たすべき役割を発揮できない。服用薬の数が増えれば、ご本人は飲むのが大変だし、ご家族は薬代の負担となります。しかし、薬剤数を減らして費用を減らせばよいというわけではありません。われわれは介護施設運営者ですから、入居者の生活の質(QOL)、日常生活動作(ADL)の改善が何より大切だと考えるからです。減薬によって入居者の認知症の進行が改善すれば、現場の負荷も軽減するというメリットもある。ご入居者、ご家族、現場がハッピーになります。今後もこのプロジェクトを続けるとともに、介護業界全体の発展につながればいいと思い、減薬のデータや報告内容を開示していくつもりです」  このプロジェクトを監修した医師は、「医療法人至高会たかせクリニック」の高瀬義昌理事長。認知症治療の権威でもあり、厚労省のガイドラインが公表される何年も前から多剤服用の有害反応について研究を続けていた。 「多剤服用の副作用により認知機能が低下する患者は多くいます。患者のQOLを向上させるためにも医薬品の適正使用は重要です。しかし、これは薬を使わなくていいということではありません。薬は、正しく使えば病気の予防やQOLの向上に役立ちます。ただ、同じ年齢、同じ体重の患者さんに同じ向精神薬を同じ量処方しても効き方は同じではありません。かかりつけ医やかかりつけ薬剤師に、薬の量と数について相談してみてください。自己判断で中止しないことが何より大切です」  高齢者で特に慎重な投与を要する薬物を上に示した。あてはまる薬を数多く飲んでいる場合は、かかりつけの薬剤師に相談したり、かかりつけの医師に「お薬手帳」のチェックをしてもらったりしたらどうか。(本誌・鈴木裕也) 【高齢者で特に慎重な投与を要する薬物】 抗精神病薬、睡眠薬、抗うつ剤、抗パーキンソン病薬、ステロイド、抗血栓薬、強心薬、高血圧治療薬、制吐薬、緩下薬、経口糖尿病治療薬、過活動膀胱治療薬、抗炎症薬、消化性潰瘍治療薬 *服用中の薬は、必要があって処方されているものなので、決して自己判断で中止しないこと。必ず医師・薬剤師と相談してください。 参考資料:日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」 ※週刊朝日  2020年1月24日号
週刊朝日 2020/01/21 08:00
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