石田衣良と歩く池袋 『IWGP』20周年記念で「聖地巡礼」
石田衣良さん(撮影/東川哲也)
一世を風靡した傑作小説が刊行されて早20年。変貌を重ねる魅力的な街を、作者とともに散策する。
東京・池袋西口公園を中心に展開される大ヒット小説『池袋ウエストゲートパーク』(以下『IWGP』)。池袋に住むトラブルシューターのマコト(テレビドラマ版では長瀬智也)が、ストリートギャングらの力を借りて事件を解決する。第1作の刊行から20周年にあたる現在も続く人気シリーズだ。
西口公園は東京五輪を前に、クラシックコンサートもできる野外劇場に生まれ変わる。今秋には先行撤去工事が始まるという。そんな折に改めて「舞台」を訪れた作者の石田衣良さんは、感慨深げだった。
「新人賞に『IWGP』を応募して受賞したことで、作家になれたわけです。その頃コピーライターとして働いていた事務所が市谷にあったので、暇なときには池袋に出ていました。新宿も渋谷も六本木も他の作家がたくさん書いていて、小説に出てこない繁華街は池袋と錦糸町くらい。土地勘があるので選んだんです。
池袋に暮らす人の年齢層は多岐にわたっていますし、外国人もたくさんいる。ホームレスやヤクザもいる多様性に魅力を感じます。マコトのモデルは、小学・中学の同級生。彼の名も誠です。家がお風呂屋さんをやっていて広かったので、みんなでよく泊まりに行きました。先日クラス会があって誠君に久しぶりに会ったら、頭がすっかりピカピカになっていましたね。でも会社の若い子相手に『長瀬のモデルは俺だ』と言ってるんですって(笑)」
時の長さを感じさせるエピソードだ。
「池袋には、20年前とまったく変わらない光景もあれば、タワーマンションが建つなど大幅に変わったところもあります。新旧入り交じった街で、時事的な話題を反映した事件の中に、親子の情愛や熱い友情といった、昔からある“情”を盛り込んだ作品を書き続けたいですね」
【IWGPゆかりの池袋の店】
■タカノフルーツパーラー池袋東武店
「野獣とリユニオン」に登場するこの店で、マコトはメロンジュースを飲んだ。今回のインタビューもここで行い、衣良さんはメロンを用いた季節限定のグラスケーキを食してご満悦だった
豊島区西池袋1‐1‐25 東武百貨店池袋店2階/営業時間:10:00~20:30L.O.(翌月曜が祝日でない日曜は~19:30L.O.)/定休日:東武百貨店に準じる
■つばめグリル ルミネ池袋店
「ハンバーグで有名な店ですけど、僕が好きなのはサーモン。食べてみれば、こちらのほうがいいとわかります(笑)」。「要町テレフォンマン」でのマコトは、まだサーモンの美味さを知らない?
豊島区西池袋1‐11‐1 ルミネ池袋8階/営業時間:11:00~22:00L.O./定休日:ルミネに準じる
■ベル・オーブ東京芸術劇場店
『IWGP』シリーズにはしばしば「東京芸術劇場1階のオープンカフェ」が登場する。ベルギービールを提供するこの店が、それだ。肉料理なども揃い、しっかりとした食事もとれる
豊島区西池袋1‐8‐1/営業時間:11:30~22:30L.O./定休日:東京芸術劇場に準じる
■鬼子母神
「ケヤキ並木が美しい参道をゆっくり歩き、駄菓子屋もある境内でのんびり過ごすと癒やされます。子どもが小さい時に、よく連れていきました」。「鬼子母神ランダウン」はここを舞台にしている
豊島区雑司が谷3‐15‐20
■光麺池袋本店
「東口ラーメンライン」に、行列のできる豚骨醤油スープの名店として実名が出てくる。「でも僕は、あっさりしたスープのほうが好きで、それを“全部のせ”でいただきます」
豊島区南池袋1‐18‐22 /営業時間:11:00~翌1:30L.O.(日月祝は~23:00L.O.)/定休日:なし
【編集部厳選 池袋ではこれを喰え!】
近年、住みたい街ランキングで上昇を続ける池袋。その理由は、おいしい料理が食べられるから!?
■てしごとや
1996年、西一番街に開店した居酒屋。衣良さんを撮影した場所のすぐそばにある。店内は、外の喧騒が嘘のような静かさだ。「ゆっくり落ち着いて飲みたいという年配のお客さんが多いですね。日本酒は90種類ほど用意しています」(水島真治店長)。魚の美味い店として評判で、仕入れ状況によってメニューも変わる。この日も黒板にはおすすめとして、小鯛、メバル、穴子とキンキの天ぷら、鮪の脳天竜田揚げ、磯ツブ貝の旨煮と垂涎もののメニューが並んでいた
豊島区西池袋1‐33‐3 岩田ビル1・2階/営業時間:16:00~23:00L.O(金は~翌3:00L.O.、日は~22:00L.O.)/定休日:年末年始のみ、予約が望ましい
■エー・ラージ
オーナーのラージさんは南インドのチェンナイ出身。タージホテルで長年働き、33年前に銀座の店舗に料理長として招かれて来日。2002年に独立開店した。「南インドでは、水と香辛料だけで作ったサラサラしたカリーをご飯と一緒に食べます。毎日2食はカリーだから、飽きないようにいろんな種類を作る。それを楽しめるのがミールスです。海に面したチェンナイの“おふくろの味”煮干しとナスのカリーも、日本人の口に合うようで人気がありますよ」
豊島区南池袋2‐42‐5 グランステージ1階/営業時間:11:30~14:30L.O. 18:00~22:00L.O./定休日:火
■アガリコ
国内8店舗、韓国に3店舗、ハワイに1店舗を展開する“オリエンタルビストロ”の旗艦店。アジア料理をビールやワインで楽しむ。「ここで試して成功した料理が、各店舗で提供されるんですよ。人気が高いのは、オリジナルドレッシングで食べるパクチー。これでパクチーにはまったという人がたくさんいます」(飯泉温子店長)。朝までおいしく食事できる貴重な店。スパークリングワインを頼むと、こぼれだすほどの量を注いでくれるのも嬉しい
豊島区池袋2‐10‐6 ウエモスクエアビル1階/営業時間:17:00~翌6:00食事L.O.・6:30飲み物L.O./定休日:不定
■千里香
『IWGP』には池袋チャイナタウンの描写がよく出てくる。この地域には、安くて美味く、中国人客であふれる店が多いのだ。「千里香」は北朝鮮と隣り合う延辺地区出身の木村明月さんが経営。「向こうで肉といえば、羊の串焼き。串がクルクル回る自動串焼き機がテーブルに置いてあって、お客さんが焼いて食べるんです。うちは日本で初めて串焼き機を置いた店です」。ピリ辛羊と一緒に飲むのはマッコリ、締めは冷麺というのが、いかにも延辺料理の店らしい
豊島区西池袋1‐21‐1 YKDビル7階/営業時間:11:00~23:00L.O./定休日:なし
※週刊朝日 2018年7月13日号
週刊朝日
2018/07/10 11:30