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「最速」よりも「数日遅い配達」選択でおトクになる仕組み 「2024年問題」で広がりの動きも
「最速」よりも「数日遅い配達」選択でおトクになる仕組み 「2024年問題」で広がりの動きも 不在の際に荷物を玄関前などに置いていく「置き配」も普及したが、国土交通省の2023年の調査では、再配達となる荷物の割合はおよそ11%にのぼる(撮影/写真映像部・馬場岳人)    国連の持続可能な開発目標「SDGs」。達成に向けて、さまざまな取り組みが行われているが、今年は物流などの「2024年問題」にも直面している。持続可能な社会のために消費者一人ひとりができることは何か。AERA 2024年6月10日号より。 *  *  *  近年注目されているのが、持続可能な社会につながる選択をした人がトクをする仕組みだ。  LINEヤフーが運営する通販サイト「Yahoo!ショッピング」は、「最短お届け日」よりも数日遅い配達日を選択すると、1~100円相当のポイントがもらえる「おトク指定便」を昨年4月から導入している。配送日を分散し、物流業界の負担軽減に寄与するのが狙いだ。  同モール内で出店する「LOHACO」(ロハコ)で22年に試行したところ好評だったため、対象を全ストアに拡大した。ロハコの実証実験では、付与ポイントが最大30円で54%、最大20円または15円でも48%と、いずれも約半数のユーザーが利用。30~60代の女性がメインで、コスメや食品(缶詰、スープ)などの注文で多く見られた。  物流業界では「最速で届ける」ことが至上命令のように認識されているが、商品によっては「最速で受け取る」ことよりも、100円以下のおトク感を優先する利用者が少なからずいることを示している。LINEヤフーの担当者、須田琢磨さんはこう意義を強調する。 「再配達を減らすなど効率的な配送を実現できれば、CO2削減などSDGsにも貢献できると考えています」  このサービスは、再配達を避けるため、「確実に受け取れる日」に配送日を指定したい、という利用者の潜在的なニーズを掘り起こした点でも注目される。ただ、導入の可否は各ストアの判断に委ねているため、現時点で「おトク指定便」を利用できる商品は一部で、対象ストア内での利用率も約3割にとどまっているのが課題だという。  それでも2024年問題の関心の高まりを背景に、他の通販サイトでも同様のサービス導入の動きが出ている。 AERA 2024年6月10日号より   「便利だから」の見直し  ZOZOが運営する「ZOZOTOWN」は今年4月、注文翌日から4日以内に発送する「通常配送」よりも余裕のある配送日(商品注文日の5日後から10日後までに発送)を選択した場合、ポイントを受け取れる「ゆっくり配送」を試験導入した。担当者は「試験導入の結果が確認でき次第、本格導入に向けて検討したい」と意気込む。  2024年問題への対応は急務だ。とはいえ、単にトラックドライバーなどの「時間外労働の上限規制」の問題と捉え、それによって自分たちの生活にも影響が出るかもしれない、という受け止め方でいいのだろうか。これにSDGsの観点から異議を唱えるのが、環境・エネルギー問題に詳しい早稲田大学の納富信教授だ。 「大事なのは、私たちがどのような将来社会を望み、そのためには何が必要か、ということをしっかり見極めることです」  働く人の健康や人権を守ることも、持続可能な便利さや豊かさを追求することも、地球環境への負荷を軽減することも、すべてよそ事ではなく、これからの「自分」とつながっている。納富教授は企業や組織、個人それぞれが背伸びしすぎることなく、自身の持つ課題と社会課題との“つながり”を意識し、環境や社会へのインパクト(影響や負荷)を理解した上で行動を選択することが求められている、と指摘する。つまり、SDGsの目標達成に不可欠なのは、それぞれの主体性にほかならない、というわけだ。納富教授はこう強調した。 「便利だから、何かあった時のために必要だからと、多くの資源やエネルギーを消費してしまいがちな意思決定や行動スタイルは、見直すべきタイミングに来ているのではないでしょうか」  企業と消費者の双方が「サスティナブル・ファースト」の共通認識のもと、“真に必要なもの”を見極める能動的なライフスタイルへのパラダイムシフトが求められている。(編集部・渡辺豪) ※AERA 2024年6月10日号より抜粋  
配達員の過重労働をさらに重くする過大要求 「午後9時半に届けろ」「一滴の雨粒跡で受け取り拒否」も
配達員の過重労働をさらに重くする過大要求 「午後9時半に届けろ」「一滴の雨粒跡で受け取り拒否」も 不在の際に荷物を玄関前などに置いていく「置き配」も普及したが、国土交通省の2023年の調査では、再配達となる荷物の割合はおよそ11%にのぼる (撮影/写真映像部・馬場岳人)    2015年に採択された国連の持続可能な開発目標、「SDGs」。達成期限の2030年に向け、折り返しでもある今年は、物流などの「2024年問題」にも直面している。働き手も少なくなる中、持続可能な社会のために消費者一人ひとりができることは何か。AERA 2024年6月10日号より。 *  *  *  ゴールデンウィーク中、男性(55)が都内のマンションに帰宅すると、宅配便の「不在連絡票」が投函(とうかん)されていた。投函時刻は30分ほど前。であればと、すぐに配達員のドライバーに電話を入れた。 「このあと、うかがいます」  配達員の快活な声に申し訳なさが募る。ただ、どこかで自分には非がない、と思いたかったのかもしれない。それでつい、再配達の商品を受け取る際、気になっていたことを告げた。 「これって、マンションの宅配ロッカーに入れてもらえない商品なんですか」  配達員は一瞬表情をこわばらせ、こう返した。 「宅配ロッカーは満杯です。連休中はこうなることが多くて」  男性は返す言葉がなかったという。正直、宅配ロッカーの混み具合など気にしたこともなかった。だが今、「知らなかった」では済まない事態が進んでいる。 12時間超えの勤務時間  国連のSDGsは今年、折り返しを迎えた。SDGsを考えるとき、実は私たちが普段何気なく続けている習慣や行動が、その達成を阻んでいることに気づかされる。  例えば、冒頭の男性。宅配ロッカーの満杯に意識が及ばなかったことが再配達につながり、その結果、トラックのCO2排出増加や、配達員の長時間労働を招いた。いずれもSDGsが目標としている「気候変動対策」や「健康的な生活」「働きがい」といったキーワードを遠ざけることにつながっている。  まずは足もとの生活から。そして、私たち自身の意識を変えないとSDGsの達成には到底たどり着けない。その如実な例が物流問題だ。中でも今年4月から始まった物流の「2024年問題」はトラックドライバーの時間外労働(残業)の上限規制にとどまらない課題を包含している。 AERA 2024年6月10日号より   「共働きや一人暮らし世帯が増え、週末や夜間の配達ニーズは高まる一方です。そんな中、残業規制を厳密に守ろうとすれば、いま以上に利用者のニーズに応えられなくなります。こうした認識や覚悟が利用者にはあるのでしょうか……」  戸惑いがちにこう話すのは、大手宅配業者で10年余の配達員歴のある男性(44)だ。真っ黒に日焼けした肉厚の手のひらに思わず視線がくぎ付けになる。男性はこう吐露した。 「残業規制は全く守られていません」  配達員が圧倒的に足りない中、ギリギリの人員で何とかやりくりしているのが実情だという。  男性が配達を任される荷物は1日150個前後。午前8時に配送センターに出勤し、2トントラックに荷物を積み込んで都内の担当エリアに向かう。配達を終え、配送センターを経由して帰路に就くのは午後9時過ぎ。12時間を超える勤務時間中は常に配達や集荷、伝票チェックに追われ、車内で弁当を食べる時間を確保するのがやっと。それでも配達しきれず、夜8時以降は個人事業主の委託業者に荷物を引き継ぐ。 「午後9時半に届けろ」  毎日1~2割は不在のため再配達に回る。心が折れそうになるのは、再配達の指定日時に届けても不在の人がいること。「昨日も2件ありました」と男性は声を落とす。  過重労働の負担をさらに重苦しくするのが、利用者の上から目線の態度や過大要求だ。再配達のトラブルで多いのが「家にいたんだけど……」と連絡してくる利用者。月に5、6人はいるという。「インターホンを2回鳴らさせていただきました」と伝えると、中には「だからインターホンが鳴ってねえんだよ。今度からは電話しろよ!」とキレる人も。  忘れ難いのは、花を発注した飲食店の男性店主。指定された時間帯の午後7時過ぎに訪ねても不在だった。不在連絡票を見た店主は「うちは午後9時を過ぎないとオープンしないんだよ。午後9時半にもってこい!」とものすごい剣幕(けんまく)で連絡してきた。営業時間外だと告げても納得しない店主に音を上げ、帰宅途中だった男性はもう一度、制服に着替えて再配達した。何事もなかったように「そこに置いといて」と指示する店主に男性は怒りがこみ上げたが、表に出ないよう必死でこらえた。「会社は理不尽なクレームにも弱腰ですから」と男性はこぼす。  雨の日は細心の注意が必要だ。荷物に一滴でも雨粒の跡があると、受け取りを拒む客がいるからだ。発払いと着払いを別々の伝票に書き込むルールを守らない客もいる。集荷の際に指摘すると、「それはあなたの会社の勝手なルールでしょ。私は忙しいの。なんで私が書かなきゃいけないの」とはねつける女性には何度も手を焼いた。  気候変動も大敵だ。男性はこの数年で2回、夏場の配達中に熱中症で倒れ救急車で搬送された。3年前の8月。台車を押して住宅街をかけずり回り、午前中指定の荷物の配達を終えてトラックに戻った瞬間、頭がクラクラした。同乗していた先輩から「熱中症だよ。一回横になれ」と言われた直後に全身の力が抜けた。男性は病院で点滴を受けた翌日、すぐに仕事に復帰した。「他の配達員にいま以上の負担をかけるのは何としても避けたかった」と男性は言う。 「生活を豊かにする便利なサービスを支えるのは誇り。お客さんのニーズにはできる限り応えたい」。そんな自負のある生身の人間が配達していることを、利用者は頭の片隅にでも思い描いてくれているだろうか。やりきれなさが募る。それでも仕事を続けてこられたのは、配達時に利用者から掛けられる言葉だ。「いつもありがとね」「雨の中、ご苦労さま」「暑いのにご苦労さま」──。男性はこう続けた。 「その言葉を聞いた瞬間、よし頑張ろうとスイッチが入ります。それが一番の支えです。ほとんどの配達員がそうだと思います」 日本は要求水準が高い  宅配を受け取る場面以外にも、生活の中でできる行動はいくつもある。例えば、「地産地消」を心掛けたり、災害時に必要最小限の注文や購買にとどめたりすることは、物流全体の負担軽減にもつながる。 「物流の2024年問題は単にトラックドライバーの労働時間の問題と捉えるのではなく、社会、とりわけ消費者が意識を変えないと解決しない課題です」  こう強調するのは東京大学先端科学技術研究センターの井村直人特任研究員だ。大手食品メーカーで長年勤務した物流のスペシャリスト。自身の経験から「荷主優位」の物流業界の構造をこう指摘する。 食品ロス削減のため、コンビニでも値引きを行う店が増加。ローソンではAIを活用して値引き額やタイミングを決めるシステムも順次導入(写真:ローソン提供)   「運送業者は二言目には『荷主次第』と言います。荷主の依頼があれば、どんな悪条件でも対応するのが使命だというマインドセットになっています」  災害級の大雪や大雨で立ち往生したトラックが高速道路や国道で数珠つなぎになる光景が繰り返されるのは、その典型だという。輸送ルートが通行不能になるのが分かっていても、運送業者の側から配送を断ることはできない。こうした業界の力関係と、それを支える不合理なマインドセット。その背後には消費者の存在がある。 「日本の消費者はあまりにも要求水準が高い。それが過剰サービスにつながり、物流システム全体を圧迫しています」(井村さん) 見えにくい物流コスト  コンビニの24時間営業も、野菜の形や大きさが均一なのも、スーパーの陳列棚に常に隙間なく商品が並んでいるのも当たり前……。「これらは日本以外の国ではすべて当たり前ではありません」と井村さん。 「働き手が少なくなる日本で、こうしたサービスは今のコストでは持続可能ではないことに、日本人も気づき始めています」  ただ、「物流のコスト」は消費者には見えにくいのも事実だ。例えば、通販でよく見られる「送料無料」の表示。実際には、メーカーや売り主が負担しているにもかかわらず誤解を招くという面にとどまらず、物流が提供するサービスの価値を侮る意識を消費者に刷り込んでしまう「効果」も否めない。  国は2024年問題への対策として、「物流の効率化」「荷主・消費者の行動変容」「商慣行の見直し」の3点を掲げ、法整備を進めている。このうち最も難しいのが、「消費者の行動変容」だといわれる。表で消費者が意識したい買い物のコツを紹介しているが、こうした行動変容の広がりが、「物流問題の解決には必要なことです」と井村さんは唱える。 「サプライチェーンの川下に位置する消費者の意識や行動が変われば、それに対応する形で荷主やメーカーなどの川上に波及してサプライチェーン全体が最適化し、持続可能な社会に近づきます」 (編集部・渡辺豪) ※AERA 2024年6月10日号より抜粋
“突破型の蓮舫氏vs劇場型の小池氏”国政に影響も与える一戦 俄然面白くなった都知事選の軍配は?
“突破型の蓮舫氏vs劇場型の小池氏”国政に影響も与える一戦 俄然面白くなった都知事選の軍配は? 小池百合子(こいけ・ゆりこ)   「『自民党返り』をしている小池さんでは改革はできない」。そう言って行政改革の旗手・蓮舫氏が東京の顔に名乗りを上げた。次期衆院選の代理戦争と位置づけられる都知事選。都民はどちらを選ぶのか。AERA 2024年6月10日号より。 *  *  * AERA 2024年6月10日号より    立憲民主党の蓮舫参院議員(56)が5月27日、東京都知事選(7月7日投開票)に無所属で立候補する意向を表明した。すでに広島県安芸高田市の石丸伸二市長(41)も出馬表明をしているが、現職の小池百合子氏(71)も立候補の意向が伝えられている。蓮舫氏と小池氏の事実上の一騎打ちとなりそうだ。  蓮舫氏は立憲と共産党が支援する。なぜ、蓮舫議員なのか。 「よほど知名度の高い人でなければ小池さんに対抗できません。過去の選挙で蓮舫さんが最も票を取った時は約170万票。野党としては考えられる最良の候補者を担ぎ出したということでしょう」  と話すのは政治とメディアの関係に詳しい日本大学の西田亮介教授。蓮舫氏が会見で「自民党の延命に手を貸している」とした小池都政をこう分析する。 「背景には小池さんが女性初の総理大臣への意欲を諦めていないことがあると思います。いま政治とカネの問題で自民党が弱っているからこそ、『ワンチャンある』と。ダメでも年内と見られる次の衆院選で国政に電撃復帰する選択肢もあり得るのでは」 蓮舫氏は無所属で出馬  小池氏は5月29日の都議会本会議の所信表明演説では出馬を表明しなかった。 「都知事選への言及を後ろ倒しにして引っ張っている気がします。発言しなくてもメディアやSNSでは臆測を呼び、むしろ関心が高まる。知名度の高い小池さんにとってメディア戦略はそれで十分です」  そんな小池氏の姿勢を「小池劇場はもう始まっている」と評するのは、法政大学大学院の白鳥浩教授(政治学)だ。 「5月28日に都内の52区市町村の首長や都民ファーストの会、そして公明党都議団が小池さんに出馬要請しました。翌29日の都議会は本来なら立候補表明に適した日だったはず。肩透かしを食らわせることで関心を引き、いつ表明するのが最もセンセーショナルかを考えながら自分の『劇場』を作っていく。区市町村長は小池劇場の単なる登場人物であり、主役は小池百合子。私たちはある意味、もう小池劇場に取り込まれている」 今年2月、都庁ではプロジェクションマッピングがスタート。小池氏は「新たな観光スポットに」    対する蓮舫氏は29日、自身のSNSで「(立憲民主党を)離党する方向です」とした。 「都市部には無党派層が多く、彼らはより政党色が薄い候補に投票する傾向がある。4月28日の衆院東京15区の補選で、無所属の須藤元気さんが立憲の酒井菜摘さんに次ぐ2位に食い込んだのは象徴的な事例です。蓮舫さんもあえて離党し、無党派層の票を取り込みたいのだと思います」(白鳥教授)  知名度はすでに申し分ない蓮舫氏。党を離れれば、民主党政権時代に事業仕分けで有名になった「きつい物言いの人」の印象を薄める効果も期待できる。 「出馬会見でも、柔和なイメージを印象付ける努力をしているように見えました。『無党派の人たちが乗ってきやすい』ことを狙ったイメージ戦略がすでに始まっている。『小池劇場』対『イメージの蓮舫』と言えるかもしれません」(同) 劇場型vs.突破型  小池氏と蓮舫氏は共にキャスターから政界入りし、閣僚や政党代表などキャリアは重なる部分が多い。しかし、政治家としての資質には大きな違いがあると白鳥教授は言う。 「小池さんはさまざまな政党を渡り歩き、自分でも一から都民ファーストの会という地域政党を作り上げ、一時は都政第一党にまで押し上げた。組織のマネジメント能力は高い。加えて、対立軸を作るなどして『劇場』をお膳立てしていけば有権者がどう動くかも熟知している。そこが非常にうまい政治家です」  一方の蓮舫氏は、2016年に民進党の代表になったものの翌年の都議選で惨敗。1年足らずで辞任に追い込まれるなど長く組織を運営した実績がない。その点では小池氏に一日の長があると白鳥教授は見る。 「蓮舫さんは組織を回すことには必ずしも長けていないし、対立軸を作って劇場型でというよりも、個人の資質で一点突破していく政治家。ひとつひとつの発言にも突破力があります。今回の選挙戦は『劇場型』対『突破型』の戦いでもある。選挙戦が進むにつれ、徐々に二人の違いが表れてくるのでは」  国政にも大きな影響を与えそうな今回の都知事選。次期衆院選の代理戦争という枠組みから有権者が逃れることは難しいだろうと白鳥教授は言う。 「『その枠組みだけ』になってしまっては都政の問題がなおざりになる。誰が知事になれば自分たちの生活が良い方に変わるのか。有権者は『都の行政のかじ取り役を選ぶ』というクールなマインドを持ちつつ、判断していく必要はあると思います」 (編集部/小長光哲郎、井上有紀子) AERA 2024年6月10日号より   ※AERA 2024年6月10日号
不登校の原因は「無気力・不安」は本当?始まりは「眠れない」。でも原因は一つじゃない
不登校の原因は「無気力・不安」は本当?始まりは「眠れない」。でも原因は一つじゃない 眠れない→体がしんどい→食欲がない→夕飯しか食べない……という悪循環も不登校の原因のひとつかもしれませんが、多くの場合、不登校にはいろいろなことが複合的に絡み合っています  3人の子どもの不登校を経験し、不登校の子どもやその親の支援、講演活動などを続ける村上好(よし)さんの連載「不登校の『出口』戦略」。今回のテーマは「不登校の原因が『無気力・不安』って本当ですか?」です。 ***  前回の記事では、学校に行きたくないという子どもの頭の中で起こっていることについて、お話ししました。 今回は不登校の原因について考えてみたいと思います。  2022年から、さまざまな場所で開かれる講演会などを通して、不登校の現状についてお話をさせていただいていますが、その時に必ずあるのが「不登校の原因ってなんでしょうか?」という質問です。  不登校問題は度々ニュースなどでも取り上げられており調査も行われています。令和4年度の文部科学省の調査では、不登校の理由のトップとして挙げられているのが「無気力・不安」。51.8%を占めるとされています。これを見て、親としてどのような印象を受けますか?少なくとも私は、「もうどうしようもないのかしら……」と悲観してしまうような気がします。  不登校の原因は本当に、「無気力・不安」なのでしょうか。 無気力と不安を同じくくりにしているところにも少し疑問は残りますが、そこはいったん置いておきましょう。  私が危惧するのは、「無気力」という言葉からは本人のやる気がないような印象を受け、原因は本人にあると受け取られることで、対策が「根性論」や「やる気を出させるための対症療法」的なものになってしまわないか、ということです。親御さんが「うちの子が無気力になってしまったのは私の子育てのせい」と思ってしまったり、「あなたが無気力なのはやる気の問題なんだから頑張りなさい!」と子どもをせめてしまったりする要因にならないでしょうか。  中学生と会話をしていると、「だるい」「めんどくさい」という子は多いものの、「でもやらないとダメだよなあ」ということはしっかり意識の中にあるようです。それでも、体がしんどくてできないんだ、という子もいますので、そういう子には、まず食事の状況を聞いていきます。「そう言えばさ、昨日の夜って何食べたの?」と尋ねると、大体は教えてくれます。 次男が毎日食べていくおにぎりとお味噌汁。わが家の朝のおにぎりは、いつもシンプルで消化もいい塩むすびです  何を何時ごろに食べたのか。就寝までは何時間くらい空いていたのか。朝食はごはんなのかパンなのか。質問責めにすると答えてくれなくなるので、「え〜昨日は親子丼だったんだね、いいなあ、うちも今日は親子丼にしようっと!アイデアありがとうね!」などと言いながら、キャッチボールをしていきます。  こういう会話をしていく中で、食事に問題を抱える子が多いことに気がつきました。朝ごはんを食べると気持ちが悪くなるから朝は食べない。昼もおなかがすかない。食べるのは夕飯だけ……。実は、我が子が不登校気味でやる気が出ない時期はまさにこの状況でした。  不登校と食事の関係について勉強していくうちに出合ったのが「食養生」という考え方です。健康を維持するために、何をどのように食べるのがいいのか、ということについて、多くの先人たちが引き継いできた英知のことで、簡単にいうと、食べ物や食べ方で体の調子を整えていくことです。  現代は飽食の時代ですから、何を食べたらいいのかよりも何を食べないかのほうが大切です。そして、よく噛むこと。日々の食事をシンプルにして、よく噛む。余計なもの(スナック菓子や甘い物、インスタント食品など)を減らすと、自分の思考に変化が出てくることを実感できます。そして飲み込む前に、最低30回は噛む!  噛むことで、消化酵素が出て胃腸の負担が軽くなり、消化しやすくなりますし、噛むことは脳への刺激になって血流が良くなります。よく噛むことは食べ過ぎ防止にもつながります。わが家では、これを実践するうちに、だんだんと子どもたちの体調が良くなっていきました。  反抗期で朝食は取らず、お弁当も私の作るものは拒否、自分で冷凍食品を詰め込んでいた娘は、遅刻常習犯で、成績も下から数えたほうが早いくらいでした。それがだんだんと変化していき、朝食のバランスを考えるようになり、手作りのお弁当を受け入れるようになりました。一番驚いたのは、よく勉強するようになり、ぐんぐん成績が上がって、卒業するときには成績優秀賞と精勤賞をもらったんです。  朝食を食べるとおなかを下しやすかった次男は、朝はもちろんのこと、昼も食欲がわかず夕方になってドカ食いをしていたのですが、少しの栄養スープを飲むことから始め、小さなおにぎりを食べるようになり、今では朝はおにぎりとみそ汁をしっかりと食べてから行くようになりました。それにつれて、体重も増え、気力もついてきました。 睡眠がしっかり取れているかどうか。体が硬くなっていないかどうか。不登校に明白な理由がないなら、確かめてみてください photo iStock.com/recep-bg  食欲がわかない原因は精神的なものも大きいのですが、食べる時にはせめて「噛む」そして何を食べるかを少し意識してみるとよいかと思います。  食べてから寝るまでの時間が短いと、消化がうまくできずに朝もなんだか体がだるい、という状況にもなります。また、当然ですが寝る時間が遅いと体の充電がうまくできず、朝起きられなくなります。  多くの子どもたちを見ていると、不調の始まりは「夜眠れない」ことから始まるようです。眠れない原因は、心配事、食べ物、頭がさえてしまっているなどいろいろですが、いずれにせよ、生活を見ていくと何かしら原因があるはずです。  子ども自身も自分がなぜ眠れないのかがわからず、布団の中で不安だけがぐるぐると渦巻いてしまっていることもあるのです。たかが睡眠。されど睡眠。お子さんは夜眠れていますか?不登校のカウンセリングでよく言われることの一つに「お子さんのエネルギーがたまるまで待ちましょう」というものがありますが、これは、睡眠をしっかりとってくださいね、ということでもあるのかなと思います。  そして無気力のもう一つの原因として考えられるのは、不安や心配事など、心が抱えるストレスです。ストレスを抱えると自律神経がうまくコントロールできなくなります。交感神経が優位になると眠れないばかりでなく、消化がされにくくなり、食欲も減退します。家でダラダラしているように見えても実は緊張感が強く、体はガチガチという子も少なくありません。緊張感が強いと疲れやすくなりますから、学校に行くという行為自体がさらなるストレスを生むことになり、動き出せないこともあるのです。  教室の音がうるさくて入れない、先生の大きな声が自分が怒られているような気がして怖い、というお子さんも増えていますが、ほとんどの子は、体の緊張が伴っているのではないかと思います。呼吸が浅くなり、血流も悪くなるため頭に酸素がうまくいかず、不安感がさらに強くなり悪循環が生まれているのではないでしょうか?  このように、不登校にはいろいろなことが複合的に絡み合っていますから、何か明白な理由がある場合以外は一つずつひもといていくしかないのです。私は、「不登校の原因は何なのでしょう?」と質問されたら「あなたは何だと思いますか?」と質問をお返しすることにしています。  子どもたちが緊張するような社会を作っているのは間違いなく大人です。不登校の問題は、社会の問題として考えてほしいと思います。  人より良い成績を取らないといい学校に行けず、いい大学に入れず、いい会社に就職できないと言われ、塾や習い事、成績表などで常に評価され、人と比べられる毎日。これでは体や心が常に緊張状態になってしまうのも当然です。  いまの社会は、子どもたちがのびのびと育つのに適した構造になっているでしょうか。本当に必要な学びとは?食べ物もそうですが、子育てにおいても、子どもに何をさせるかより何をさせないかのほうが大事なのかもしれません。  不安や心配事などのストレスが大きな原因になっていて、それを話すのが難しければ、紙に書き出すのもいい方法です。頭の中も整理されますし、人には言えないような内容も書けばスッキリ!吐き出すことで、自分自身の不安やストレスを俯瞰(ふかん)してみることもできます。書いた後は、ビリビリに破ってみると、この音も案外爽快。ごみ箱にポイッと捨てたら、かなり楽になるはずです。  もう一つ。お子さんの体が硬くなっていないかどうか確かめるために、肩や手を定期的にマッサージしてあげることをお勧めします。不登校のお子さんへのアプローチは無限ですから、お子さんにあったやり方を見つけるために、いろいろと試してみてくださいね。  次回は6月18日配信。「不登校は子育てやさまざまなことを振り返る絶好のチャンス!」というテーマでお話しさせていただきます。
皮ごと押し搾る「スロージューサー」 ITでの経験いかし普及めざす
皮ごと押し搾る「スロージューサー」 ITでの経験いかし普及めざす 【HUROM(ヒューロム)】セールス&マーケティングチーム統括マネージャー、部長 安達正倫(あだち・まさとも)/1976年生まれ。大分市出身。2002年に上智大学卒業。IT関連会社、広告・制作代理店で、様々なサービスやブランドの広告・プロモーションの企画・制作、サイト運営などの実務を経験。16年から現職(撮影/篠塚ようこ)  全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2024年6月10日号にはHUROM(ヒューロム) セールス&マーケティングチーム 統括マネージャー/部長 安達正倫さんが登場した。 *  *  *  健康志向の人を中心に注目されている野菜や果物のコールドプレスジュース。スロージューサーと呼ばれる専用の調理家電で素材をゆっくり押し搾りながら作る。摩擦や熱が加わりにくいため、ビタミンや酵素などの栄養素が壊れにくいとされる。  世界では肉や魚など動物性食品をとらないヴィーガンの人たちにも人気だ。日本でも提供するジュースバーやフルーツ専門店は都市圏を中心に増えているが、自宅で作って飲む人はまだまだ少ないという。  野菜350グラム、果物200グラム。どちらも成人が健康的な生活を送るために必要な1日の摂取量だ。だが、7、8割の人は足りていないとされる。 「理由の一つは皮をむいたりする手間が面倒だということ。スロージューサーなら野菜や果物を皮ごと搾ることができ、たくさんの栄養素が詰まったジュースが簡単に作れます」  家庭でも取り入れる人を増やそうと力を入れるのが、ウェブサイトのコンテンツの充実だ。前職のIT関連会社や広告・制作代理店で培った技術や見識を生かし、ニンジン、リンゴ、レモンのジュースなど250以上のレシピを素材や鮮やかなジュースの写真とともに公開した。 「栄養素の効果についてはどこまで言えるのかが難しく、表現には気をつかいます。健康や栄養について日々学び、試してみようと思ってもらえる言葉を探しています」  実際に味わってもらえるイベントも計画中だ。発信力のあるインフルエンサーやモデルに協力してもらい、おいしさも伝えたいと考えている。  ただ、生活に欠かせない家電ではなく、だれもが簡単に手を出せる価格ではないというハードルもある。 「だからこそ、どうしたら普及するかを考えるのが私の仕事。一般的なマーケティングのセオリーが通用しないところが面白い」  健康に詳しくなった自身の日課は、毎朝のニンジンジュースづくり。続けることで季節や産地によって微妙に味が違うと感じるまでになった。  現在のターゲット層は自身と同じ40代。仕事でもプライベートでも多忙だからこそ、健康を意識してほしいと考えている。最終的には、映画やドラマの一場面に普通に登場する家電にまで成長させるのが目標だ。(ライター・浴野朝香) ※AERA 2024年6月10日号
小学生の勉強での“睡眠不足”が、将来の「不登校」の一因に? 睡眠障害につながる7つの“きっかけ”とは
小学生の勉強での“睡眠不足”が、将来の「不登校」の一因に? 睡眠障害につながる7つの“きっかけ”とは 写真はイメージ(Gettyimages)  中学受験をする子どもの「睡眠不足」が気になる……という親御さんは多いのではないでしょうか。塾から帰ってきて、家で勉強をして寝るのが12時になってしまう、というケースもあります。こうした塾通いの小学生の睡眠不足に警鐘を鳴らしているのが、熊本大学名誉教授の三池輝久先生です。30年にわたり子どもの睡眠障害の研究を続ける三池先生は「小学生のうちから夜遅くまで勉強して、睡眠不足が蓄積されると、中学生や高校生になってから、不登校になる可能性があります」と指摘します。小山美香さんの著書『中学受験をして本当によかったのか?~10年後に後悔しない親の心得』(実務教育出版)からお届けします。 睡眠不足が「不登校」の引き金になる理由 ――中学受験と不登校、関係があるのでしょうか?  小5や小6の子どもには8時間半から9時間の睡眠が必要です。しかし、中学受験の勉強をしている子どもは夜遅くまで起きていますから、睡眠時間が明らかに足りていない状態です。さらに中学進学後も、中学生は7〜8時間の睡眠が必要ですが、勉強や部活に忙しく、さらにスマホやゲームも加わって、ますます睡眠不足は蓄積されます。中高生の7割近くは睡眠時間が6時間以下という調査結果もあり、明らかに睡眠不足です。睡眠不足が蓄積して、限界を超えると、今度は急に10時間以上眠って起きられなくなってしまう「睡眠・覚醒相後退障害(Delayed Sleep-Wake Phase Disorder)」といわれる睡眠障害になってしまいます。これが不登校を引き起こす原因の一つです。中学受験をする子ども全員がそうなるわけではありませんが、不登校の引き金の一つになりうるのです。 ――不登校は、子どもが学校に行きたくないという心の問題ではないのですね?  不登校の児童・生徒の多くが、元気だけど学校に行かない選択をしたのではなく、昼夜逆転して朝起きられないという体の異常が起こり、学校に行きたくても行けない状態です。不登校の生徒の体を検査すると、発汗反応や眼底検査で異常がみられ、糖代謝が低下し、ホルモン分泌や深部体温のリズムも異常をきたしています。通常は夜中の1時から3時に深部体温が低くなることでぐっすり眠れるのですが、それが朝5時から6時くらいにずれているのです。  人間の全身37兆個の細胞には、概日(がいじつ)リズム(サーカディアンリズム)と呼ばれる体内時計があり、朝になったら活発に動き、夜になったら休息して翌日に備える、というリズムで動いています。ホルモンの分泌や体温の変化だけでなく、脳や臓器の一つ一つが時計を持っていて、それぞれが連携して一つの時間に合わせています。それが、睡眠・覚醒相後退障害になると、なかなか寝つけないのに、いったん眠ると10時間目が覚めません。しかも、極めて質の悪い睡眠で、起きた直後からだるく、体が動かず、意欲もわかず、疲労がまったく回復されません。睡眠リズムや自律神経に問題が起こり、夜間に起こるはずのメラトニン(眠気を起こして、体温を低下させるホルモン)の分泌が朝方にずれ込み、早朝に見られるはずのコルチゾール(血糖値を上げて、活動できる状態にするホルモン)やβ‐エンドルフィン(快をもたらす脳内神経物質)の分泌が午後にずれています。これが不登校の子どもたちの体に起こっている状態です。  中学受験で塾通いする子どもたちも、概日リズムに問題が起こる可能性があります。特に注意してもらいたいのが食事の時間です。塾から帰ってきて、遅い時間に夜食を食べるのはよくありません。胃の中に食べ物が入ると、覚醒反応が起きてしまいます。夕飯は塾に行く前か、塾の途中にとり、なるべくいつもと同じ時間にすることが大事です。夜遅い食事は、朝起きられない原因につながります。 睡眠不足の蓄積で、脳の働きと知能が低下する ――睡眠不足が続くと脳や体に影響がありますか?  夜ふかし・遅寝が続き、体内時計が遅いほうへとシフトして、寝つきの悪さが起こると、朝の起床時刻は変わらないので睡眠欠乏状態になります。すると、睡眠によって保たれていた脳のシナプスや神経細胞の動き(情報処理能力)が低下します。情報処理能力の低下は自律神経機能の中枢でもある脳の視床周辺でも起きるので、覚醒しても不快さが持続したり、日中にも眠気が残ったりするので、イライラしたり、学習への意欲の低下が起きます。   不登校児の脳血流画像検査を行うと、明らかに脳の血流量が少ないことがわかりました。脳代謝異常もみられ、前頭葉を中心に、脳が混乱して、働ける量が減っている状態です。認知機能や記憶力が落ちてしまいます。IQでいえば、15〜20くらい落ちてしまうのです。逆に、睡眠時間が長い子どもは、記憶をつかさどる脳の海馬が大きいという研究結果※があります。睡眠が脳を成長させ、脳の働きをよくすることに大きな貢献をしているのです。  慢性的な睡眠欠乏状態が続くと、エネルギー生産工場であるミトコンドリアの機能を低下させることが知られており、生命力そのものが低下します。持久力がなく疲れやすく、1日の生活が満足に送れなくなってしまいます。結果として、社会生活から離脱せざるを得ない状況です。これが、近年「体内時計混乱」(Chronodisruption)として認識され始めた(かつては小児慢性疲労症候群とされていた)不登校の子どもたちの状態だといえます。  なんとなく不調で普通の病院に行っても、特に異常がないといわれたり、せいぜい自律神経失調症や起立性調節障害といわれるくらいで、細かい検査まではしてもらえません。検査をすれば異常は明らかなはずで、深刻な睡眠障害や体内時計混乱(小児慢性疲労症候群)の可能性もあります。しかし、それを知らない医師のほうが多いのが現状です。 ※東北メディカル・バンク機構、瀧靖之教授第35回日本神経科学大会「記憶にかかわる脳の海馬は、睡眠時間が長い子供のほうが、大きい」2012年9月17日(https://www.megabank.tohoku.ac.jp/news/152) 睡眠障害につながりやすい7つのきっかけ ――平日の睡眠時間は短くても、休日に寝だめをすれば大丈夫ですか?  それは貯金的な意味の「寝だめ」ではなく、平日の睡眠不足による負債の「穴埋め」です。寝だめは疲労回復に一役買っている面はありますが、それは概日リズムが狂う原因になります。夜ふかし・遅寝のがんばりを続けていると、体内時計のリズムに狂いが生じ、睡眠-覚醒リズム、ホルモン分泌、体温調節、自律神経など重要な生体リズムを混乱させる 不健康の土台を作ることになってしまいます。  私の研究では、その不健康の土台に次の7つの出来事が1つでも、2つでも上乗せされると、それがきっかけで概日リズム睡眠障害を起こすおそれがあるのです。 1) 重圧となる責任を負わされる(クラブ活動のキャプテンや代表になるなど) 2) 受験勉強、連日のお稽古、部活動での試合前の休みのないハードな練習 3) 家庭環境の変化(両親の離婚、転職など) 4) 人間関係のトラブル(いじめ、友人関係、家族・親子関係、教師との関係) 5) スマートフォン、ゲーム、テレビ、パソコンなどの過剰使用 6) 感染症での発熱、消耗 7) 交通事故や地震などの自然災害  大人も子どもも社会全体が遅寝になっているのに、学校や会社が始まる時間は昔のままで、現代社会は睡眠欠乏や不登校を助長する社会構造になっています。真面目でがんばる子ほどこうした睡眠障害になる危険性があるのです。東大や偏差値の高い学校をもてはやす風潮がありますが、無理をさせて健康を害したり、家族不和になってしまったケースをたくさん見てきました。しかも、それを治すには長い時間が必要になり、進路を左右する10代後半の大切な時間をそれに充てなければなりません。受験をする人を止めることはできませんが、せめて、睡眠時間を削らないように努力してほしいです。入眠時刻がどうしても夜9時半から10時過ぎになるご家庭では、週に1、2日はご家族全員が夜7時から8時に眠る日を作る、あるいは、昼寝の時間を10分程度取るなどの対策をしていただきたいです。 三池輝久(みいけ・てるひさ)  小児科医、小児神経科医。熊本大学名誉教授。日本眠育推進協議会理事長。1942年生まれ。熊本大学医学部卒、米国ウエスト・ヴァージニア州立大留学を経て、30年以上にわたり子どもの睡眠障害の臨床および調査・研究活動に力を注ぐ。著書に『子どもの夜ふかし脳への脅威』『赤ちゃんと体内時計胎児期から始まる生活習慣病』(以上、集英社新書)、編著に『不登校外来眠育から不登校病態を理解する』(診断と治療社)がある。
なぜ「公園でキャッチボール」が禁止になったのか…野球を「ハードルの高いスポーツ」に変えた大人たちの罪
なぜ「公園でキャッチボール」が禁止になったのか…野球を「ハードルの高いスポーツ」に変えた大人たちの罪 ※写真はイメージです(gettyimages)    なぜ「子供たちの野球離れ」が進んでいるのか。元プロ野球選手でメジャーリーガーの井口資仁さんは「いまの野球は子供の身近にある遊びではなくなっている。行政やプロ野球界の積極的な活動がなければ、野球離れは解消しない」という――。 ※本稿は、井口資仁『井口ビジョン』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。 野球はやっぱり日本の国民的スポーツ 「未来に向けて、どんなビジョンを描いていますか?」  2022年10月に監督を退任してから、皆さんによく聞かれる質問です。ビジョンを描く際、僕の中で揺るがない軸となっているものがあります。それは「野球を次世代につなぐ」という思いです。  物心ついた頃から、野球は僕にとって生活の一部であり、欠かせない存在となっています。好きで始めた野球はいつしか職業となり、さらに選手から監督、評論家へと立場が変わりました。野球との向き合い方やそれを取り巻く環境は変化してきましたが、社会性やチームワーク、人を思いやる心や負けたくない気持ち、試合に向けた準備の重要性など、野球を通じて人として大切なことを学びました。  世界がコロナ禍にあった時は、野球をはじめスポーツは人々の生活に「不要不急」のものと見なされることもありました。確かにそうなのかもしれませんが、2023年の第5回WBCで日本が3大会ぶりの優勝を飾った時、日本で巻き起こった熱狂を思い出してみてください。スポーツの中でも特に野球は日本人の心を?む魅力を持ち、日本中が一体となって盛り上がれる国民的スポーツなのです。  侍ジャパンの試合を観ながら大いに喜び大いに憂えるファンの姿を見て、確かに野球は不要不急かもしれないけれど、生活に彩りと潤いを与える重要な役割を担っているのではないか、と感じ入りました。 「野球のバトン」が途切れつつある  先人たちから受け取った野球のバトンを、今度は僕たちがしっかりと次の世代につなぎたい。そう思うからこそ、野球の競技人口が減っていると言われることに対し、僕はすごく強い抵抗感を覚えます。  そう言われないためにも、まずは子供たちが野球を身近に感じられる環境、思い切って野球を楽しめる環境を整えていきたいと考えています。いくら子供たちの野球離れを食い止めよう、競技人口を増やそうと言っても、環境が整っていなければ問題は解決しません。 公園でキャッチボールすらできない世の中  振り返ってみると、僕が小学生だった1980年代は大らかな時代でした。僕が生まれ育った田無市(現・西東京市)にはまだ野球をして遊べる空き地が点在していましたし、もちろん公園で野球をすることができました。僕らがいつも遊んでいたのは、近所にあった遊水池。 「今日はあそこに集合しよう!」と下校途中に友達と約束し、家にランドセルを置くや否や、カラーバットとボールを持って遊びに出掛けたことを覚えています。すぐ手の届く範囲に野球がある毎日でした。大きな声で盛り上がっても注意されることはなかったし、元気に遊ぶ子供たちを地域の大人たちが温かい目で見守ってくれていたように思います。  昭和から平成、令和へと元号が変わり、街から次々と空き地が消えて住宅が建ち並ぶようになると、いつしか公園でキャッチボールをすることさえも禁止されるようになってしまいました。自分の生活圏内に野球をして遊ぶことのできる公園やグラウンドがなければ、子供たちが野球から離れていくのは当然でしょう。子供の野球離れを食い止めたいなら、まずは野球をできる場所を整えることが第一歩になるはずです。 ボールを使う場所を確保するためにスクールに通う子供たち  すでに野球チームに所属している子供たちも、ボールを使って自主練習をする場所が見つからずに困っていると聞きます。最近ではチームの練習以外にアカデミーやスクールに通う子供たちが増えているようですが、スキルアップや体力強化という目的があるものの、その裏にはボールを使った練習ができる場所を確保したいという切実な思いもあるようです。  公園でボール遊びが禁じられている自治体が多い中、東京近郊で言えば、埼玉県吉川市ではボール遊びができる公園があり、野球に限らず、バレーボール、バスケットボール、サッカーなど球技全般を楽しむ子供が多いそうです。  吉川市の公園では、野球のキャッチボールをしている子供たちの横で、別のグループの子供たちがバレーボールの練習をしていることもあるそうですが、それぞれが安全に配慮しながら練習をしているので、特に大きな問題もなく活動できているようです。 「隣町に行かないと野球もできない社会」で本当にいいのか  面白いと思ったのは、公園でボール遊びが禁じられている近隣の地域に住む子供たちの中には、その地域のチームに入るのではなく、伸び伸びと練習できる吉川市にあるチームまで通う子供もいるということ。やはり子供たちには伸び伸びと体を動かしてほしいと願う保護者が多いということでしょう。  ボール遊び禁止というルールは大人が作ったもの。それぞれの公園や地域で事情はあるでしょうが、一律に禁止してしまうのではなく、子供の未来を思いながら妥協点を探っていくのも大人の役割でしょう。  吉川市の例を考えると、行政と協力しながら環境を整えていくのも一つの方法です。公園で安全にボール遊びをするためのルールを考えてみたり、小学校や中学校のグラウンドをボール遊びのために開放する時間を設けたり。  どの自治体にも必ず、使われなくなったまま放置されているスペースは一つや二つあるものですし、少子化の影響で統廃合される小中学校も多いと聞きます。僕も野球教室や講演活動などで訪問する自治体に働き掛けながら、野球ができる場所、ボール遊びができる環境を整える活動に取り組み続けたいと思います。 プロ野球と子供たちのつながりはもっと多くていい  野球ができる環境を提供するという点では、プロ野球界の積極的な関わりにも期待したいところです。ナイターであれば試合前、デーゲームであれば試合後など、親子でキャッチボールを楽しめるように球場を開放する球団が増えてきました。  ロッテでは社会貢献活動の一環として「マリーンズ・キッズボールパーク」と題し、未就学児から小学6年生までを対象としたボール遊びイベントを開催しています。2022年にはシーズン中に7日間開催されましたが、個人的にはもっと回数を増やしてもいいのではないかと感じています。  子供たちにとってプロ野球選手と同じグラウンドに立てることだけでも特別な体験になるでしょう。そういった特別だったりうれしかったり、心に残る体験を積み重ねることで、野球への愛着は増していくのだろうと思います。  僕が監督2年目だった2019年には、ZOZOマリンスタジアムの外周スペースに子供たちがキャッチボールを楽しめる「マリンひろば」がオープンしました。球場と同じ人工芝が使用されているフィールドですが、低学年までの子供たちが遊ぶにはちょうどいい大きさ。本音を言えば、高学年の子供たちも遠慮せずにキャッチボールできるようなスペースをもう一つ作ってあげられればなお良かったでしょう。  ただ、こうした小さな努力の積み重ねが、子供たちが野球と触れ合う機会を生み、野球をもっと好きになるきっかけにもなります。プロ野球12球団、あるいは日本プロ野球選手会、日本プロ野球OBクラブなどが率先して、野球がすぐそこにある日常が生まれるよう取り組みを続ければ、きっと野球の魅力は子供たちの心にも伝わるでしょう。 野球は道具をそろえるハードルが高い  野球を次世代につなぐために、広く協力を呼びかけたいことがもう一つあります。  それが道具の問題です。  サッカーが世界中に広まった要因の一つは、ボール一つでプレーできる手軽さにあると言われています。正式なサッカーボールではなくても、足で蹴ることのできるボールがあれば一人でもリフティングができたり、ドリブルができたり、シュートだってできる。何人か集まればパスを回すことができるし、簡単なゲームもできるでしょう。手軽で安価に楽しめるスポーツだというハードルの低さが、国の貧富の差にかかわらず、等しく世界中で発展する要因となったというわけです。  その一方、野球は道具がなければできません。公園で遊ぶレベルでもバットとボールは必要不可欠。競技としてしっかりプレーするのであれば、それに加えてグラブが必要になるでしょう。道具を手に入れなければならない手間とコストが、サッカーとは違い、野球がなかなか世界に広がらなかった理由でもあります。だから、日本球界でも使わなくなった道具を回収し、海外で必要とする国や地域に寄付する活動を継続してきました。  しかし、同じ問題は日本国内でも起きているのです。子供が野球に興味を持ったとしても、家庭の経済的な理由から高価な道具を準備できなかったり、保護者が難色を示したりする例は決して珍しくなく、結局のところ野球ではなく別のスポーツを選ぶことになってしまいます。  確かに、小学生の軟式用グラブでも1万円、硬式用であれば3万円前後が相場。バットを買うとなれば、さらに1万円以上が上乗せされることになります。これがスタートラインとなるので、性能がよく高価な道具となれば、驚くような出費になってしまいます。家計への負担を考えると、保護者が二の足を踏むのも不思議ではないでしょう。 大谷翔平の「6万個のグラブ」が訴えかけるもの  2023年11月、子供たちが憧れる二刀流スター・大谷翔平(ドジャース)が、日本全国に約2万ある全小学校にジュニア用のグラブを3個ずつ、合計約6万個を寄贈しました。右利き用2個、左利き用1個という配慮もされたサプライズでしたが、子供たちは大喜びだったそうです。  こういった活動は、現役のプロ野球選手やOBにとって素晴らしい参考例となりました。例えば、日本にある全小学校ではなくても、出身小学校や地域などに道具を寄付することもできるでしょうし、出身チームへの入団を決めた子供に初めての道具をプレゼントするサポート制度を作ってもいいかもしれません。  また、企業の場合、これまでは大会スポンサーとなって大会運営費などを負担する形で、子供たちが野球を楽しむ環境をサポートすることが多かったと思います。しかし、大会スポンサーとして他企業と一緒に名前を並べるのではなく、本社を置く地域にあるチームにそれぞれ足りない道具を寄付したり、野球未経験の子供たちが参加するイベントで道具の割引購入券を配布したり、新たな形でのサポートに取り組むことで他の企業との差別化を図ることもできるのではないでしょうか。  僕自身も実際にはどのような取り組みができるのか、まだまだ考えていかなければなりません。それでも、まずは野球の現状と自分の考えを広く伝えることで、思いを共有する仲間を増やしていくことが大切です。1人の力では不可能なことでも、2人、3人……と集まれば、何か大きなことを成し遂げられるものです。
バイリンガルをめざすなら5、6歳。スマホアイに将来の選択肢を奪われないことが肝心だ
バイリンガルをめざすなら5、6歳。スマホアイに将来の選択肢を奪われないことが肝心だ  小さい時にいろんなおもちゃで遊ぶことは、情報処理能力や運動能力の発達に影響するという。スマホばかりに頼らない日常の大切さを説く眼科医・松岡俊行さんの著書「スマホアイ」(アスコム)から報告する。 * * *  見る力が大切な仕事も少なくない  遠近感をつかむのに必要な両眼視機能など、臨界期に発達するはずの能力を伸ばせなかった場合、将来のさまざまな可能性もロスすることになります。たとえば、お子さんが、憧れの職業に就けなかったり、人一倍、苦労を要したりということが起こりえるのです。  最近の憧れの職業ランキングでは、ユーチューバーが人気のようで、インターネットやスマホがいかに子どもたちの間に浸透しているかもわかります。  一方で、サッカー選手や野球選手、運転士・運転手、パイロットや医師、美容師といった職業も人気の常連です。これらはいずれも、見る能力が重要なウェイトを占めています。遠近感がつかめなければ、球技は難しいですから、サッカーや野球、バレーボールなどで活躍することは、他の子よりハードルが高くなってしまうでしょう。  大型や中型の自動車免許など、遠近感や立体感を調べる深視力検査をパスしなければいけない免許もあります。立体視ができないと、運転にも支障が出てしまうからです。電車の運転士や空を飛ぶパイロットも、この深視力検査などで両眼視機能がチェックされます。  また、刃物を使う職業も両眼視機能が必要です。美容師や理容師のような器用にハサミでカットする作業は、微細な遠近感を認識する能力が必要なので、両眼視機能に問題があると難しくなります。私の知り合いにも、斜視があるために、精巧さが求められる手術が不得意で、苦労するという先生がいます。  お子さんがせっかく抱いた将来の夢をスマホアイが原因で諦めざるを得ないとなってからでは遅いのです。「なんであのときスマホばかり見てしまったのか」と将来嘆くことのないように、スマホ以外のたくさんの刺激を入れてあげてください。    経験値を上げて能力獲得のチャンスを逃してしまわないように  臨界期は、見る能力に限った話ではありません。 【PR by 暮らしとモノ班】 今がシーズン♪ 親子で楽しめる潮干狩りグッズおすすめ8選 https://dot.asahi.com/articles/-/222384  特に言語能力は、視覚と深い関わりがあります。言語の習得には、目で見た情報を通じて環境を理解することが重要だからです。言語の臨界期は、12歳ごろまでといわれてい ますが、完全なバイリンガルをめざすなら5〜6歳、赤ちゃんは生まれてすぐに母語を獲得し始めるため、早ければ早いほどよいそうです。いずれにせよ、視覚との連携、協調が大切なのはいうまでもありません。  また、小さいときにいろんなおもちゃで遊んだり、いろんな体験をさせてあげたりすると、情報処理能力が発達し、知能や運動能力も爆発的に発展するといわれています。つまり、目への刺激を増やすための経験は、その他の能力の発達にも大きく寄与するのです。たとえば動画ばかり見せるよりも、本を読んであげれば、想像力をつける機会にもなるでしょう。   能力を獲得する機会をロスしてお子さんの将来の選択肢を狭めるのか、それとも、可能性を広げるのか、今が大切です。    寝る前スマホがじわじわ体を壊す  体内時計が狂うのは、脳が時間を勘違いしているから  夜、遅い時間まで眠りにつこうとせず、朝は朝で登校時間が迫っているのになかなか起きてこない……。  お子さんが大きくなってくると、睡眠について気を揉むことも多くなりますよね。私もそうです。睡眠のリズムは光と大いに関係しているため、スマホのような明るい光を発する機器による視覚刺激にも気を配る必要があります。  19世紀後半に白熱電球が発明されてから久しいですが、人類の歴史に当てはめればそれもやはりごく最近の出来事。長らくは火が照明としての役割を果たしていました。私たちの体は今も、日中は活動的になり、夜間は休息をとるようにできています。自然と一体化したリズムが備わっているのです。  それをコントロールしているのが体内時計で、これは脳の視交叉上核(し こう さ じょう かく)というところに中心があります。  体内時計に制御されているものの一つが睡眠です。  人の体内時計は、約25時間の周期で刻まれています。  24時間じゃないの? と思いますよね。そう、1日24時間という私たちのリズムとはずれがあるのです。ですから放っておくと、どんどん体内時計と生活リズムはずれていきます。  そこで、毎日体内時計をリセットしてずれを修正しているのが、目から入ってくる太陽の光です。体内時計は、網膜からの光信号を受けて、メラトニンという睡眠ホルモンの分泌をコントロールしています。  朝、光を浴びると、体内時計がリセットされて活動状態に導かれます。また、メラトニンの分泌が止まります。そしてリセッ トされてから一定の時間(14〜16時間)を経過するとメラトニンが放出され、眠気を催すようになっています。朝起きて浴びる光は、日中の活動と夜の睡眠のスイッチを入れるために必要だということですね。  起床後2時間以上、暗い室内にいると体内時計のリセットが行われず、その夜に寝つくことのできる時刻が約1時間遅れるといわれています。体内時計のリズムをきちんとリセットするには、起床後なるべく早く太陽の光を浴びる必要があります。  実は、体内時計へ情報を送る内因性光感受性網膜神経節細胞は、スマホの画面などから発せられるブルーライトに最も反応しやすい特性があります。そのため、寝る前にスマホを見ていると、脳がまだ昼間だと勘違いしてメラトニンを抑制してしまうわけです。    ブルーライトは悪くない?  スマホをはじめパソコンやテレビの液晶画面には三原色(赤、緑、青)のLEDが用いられており、ブルーライトが多く含まれています。ブルーライトを巡っては、さまざまな意見があるのが実情です。可視光線のなかでも強いエネルギーを持つ光なので、害を危ぶむ声もありますが、根拠はなさそうです。商業ベースでの情報ではないかと心配しています。  ブルーライトは、太陽光に含まれる波長380~495ナノメートル前後の青色成分の光です。2021年に、 日本眼科学会は日本近視学会や日本小 児眼科学会などと連名で、小児に対するブルーライトカットメガネの効果について否定的な意見書を発表しました。  他にも、ブルーライトが網膜を損傷するという話を聞いたことはないでしょうか。この話は科学的に証明されておらず、アメリカの眼科学会でも否定されています。そもそも、先ほども述べたようにブルーライトは太陽光にも含まれていますし、紫外線とブルーライトとの境界にあるバイオレットライトは、近視の抑制に効果があるともいわれています  ただ、長時間画面を見ていれば目も脳も疲れますし、睡眠のことを考えると、ブルーライトを寝る前に浴びるのは好ましくありません。お子さんが幼ければ、絵本の読み聞かせがわりに動画を見せることもあるでしょう。  小学校高学年ぐらいのお子さんであれば、夜遅くに自分のスマホをいじることもあるかもしれません。体内時計からすれば、寝る前のスマホは窓の外がいつまでもたっても明るいままになっているようなものです。眠りにつく時間が遅くなったり、眠りが浅くなって睡眠の質が落ちたりしても、仕方がありません。  人の成長ホルモンが分泌されるのは夜、就寝しているときです。成長ホルモンは、日中の活動で傷んだ細胞の修復にも活躍します。  睡眠不足が続くと発育にも影響が及びますし、前日の疲れがとれないままになり、学校生活も大変になります。寝坊すれば朝ごはんを食べる時間も削られてしまいますね。さらには、睡眠不足は自律神経のバランスの乱れにもつながります。
都知事選にワクワクしない マッチョさより「都道の電柱」が気になる“平和ボケおばさん”の視点 北原みのり
都知事選にワクワクしない マッチョさより「都道の電柱」が気になる“平和ボケおばさん”の視点 北原みのり 都知事選への立候補を表明し、会見する蓮舫氏=2024年5月27日  作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は蓮舫さんが立候補を表明した東京都知事選について。 *    *  *  東京都知事選、蓮舫さんと小池百合子さんの事実上の一騎打ちになるのだろうか。  都知事3選を目指すとみられる小池百合子さんと互角で戦えるのは、知名度でいえば蓮舫さんしかいないのだろうな……と思いつつ、なぜだろう、ワクワクしない。都知事選史上初の大物女性候補者どうしの対立となれば面白いに決まっているのに、心は無風、凪、である。選挙のある夏までには気分は盛り上がるだろうか。  思い返せば私が一番ワクワクした都知事選は、2003年の石原慎太郎VS.樋口恵子の戦いだった。もう21年も前のことだが、あのとき樋口さんは、“この選挙は「軍国じいさん」と「平和ボケおばさん」の戦いだ!”と、70歳で政治の世界に飛び込む決意をしたのだ。まさにマッチョ政治とオバサンの対立だった。  選挙の素人だった樋口さんを選挙の素人の女性たちが熱心に支えたのを、私は遠巻きに見ていた。樋口さんの演説を聞きたくてわざわざ出向いたこともある。結果は石原さんの300万票で圧勝であったけれど、樋口さんは80万票も取り、そのうちの一票が自分のものであることに誇りを感じた。夢を見させてもらったのだと思う。70歳の女性が地方選挙に立ち、選挙に素人の女性たちが手弁当で応援し、選挙を盛り上げていく。選挙のあり方も含め、私はこういう政治を求めているのだと思えた。  私は今の都知事を支持しないが、小池さんが有権者をワクワクさせてきた人であることは確かだ。小池さんが初めて都知事に立候補したとき、緑をイメージカラーにする小池さんの周りには、野菜を持って「百合ちゃ〜ん」と熱狂する高齢の女性たちの姿があった。「自民党に真っ向から狼煙をあげる」というような物語は、やっぱり格好良く見えたし、女たちをワクワクさせるだけの時代の空気があった。  ワクワクの賞味期限はさすがに今は切れたように見えるが、選挙は水モノである。何が起きるかわからない怖さが小池さんにはある。  蓮舫さんは出馬表明したばかりで、まだ公約は発表していない。蓮舫さんが有権者をどうワクワクさせてくれるのか期待したいが、出馬表明の記者会見を見て、一番言いたいのが「反自民、非小池都政」のようである蓮舫さんに、ではどんな都政を期待すればいいのか正直わからない。“今こそ国政の流れを変える大きなチャンスだ! 自民党政権にノーをつきつけよう!”という意気込みはわかるが、「反自民」で都民は盛り上がれるものなのだろうか。   都政から政権交代しよう! という永田町の勇ましいノリは、言葉を選ばずに言えば、小池さんの持つマッチョさと同じではないか。小池さんにも蓮舫さんにも、樋口さん的なオバサン要素がなさすぎるのだ。男組織をヘーキで裏切る小池さんか、男組織に忠実な蓮舫さんか。そんな二択の選択肢になるようだから、私はワクワクしないのかもしれない。  私のような政治の素人からすれば、蓮舫さんが力説する、小池さんと自民党との関係性の矛盾などは、あまり刺さらない。それよりも「ご本人の学歴のことですから、私からどうこう言う問題ではない」と蓮舫さんが明言を避けた都知事の学歴詐称疑惑のことのほうが気になってしまう。  さらに私が蓮舫さんの記者会見で一番気になったのは、小池さんの「『七つのゼロ公約』はどこへいったのか」と蓮舫さんが批判するなかで、「都道の電柱ゼロ」を「都電の電柱ゼロ」と言い間違えたことだったりする。「反自民!」といった大きな話からしたら小さな話です。でも、生活に直結する話だから気になる。  これ、共産党の小池晃さんも蓮舫さんの記者会見を受けて「都電の電柱ゼロ」と間違えて言っていた。都電の電柱は……ゼロにしちゃダメでしょう。「都道の電柱ゼロ」は、私が唯一、小池さんに投票してもいいと思った公約でもあったので、蓮舫さんや小池晃さんの「七つのゼロ公約」への関心のなさの方が気になってしまうのである。  それに、蓮舫さんは少しケチそうなのが気になる。都知事の顔写真入りの防災ブックを「デジタルの時代に紙で防災ブックをつくる」と批判していたが、そこはいいでしょ、と思う自分もいる。  しつこいが、私は今の都知事を支持できない。でも、何でもかんでも「無駄だ!」といえばよい話ではなく、デジタルの時代に紙なんて無駄だ! というケチな方向はいやです。  まるで蓮舫さんをディスってるようですが……そうではない。単純にワクワクしてないだけである。都民としては反自民もいいけれど、地道に都道の電柱をゼロにしてくれる政治家がほしいのよ。紙でもデジタルでもいいから、命をきっちり守る姿勢を見せてほしいのよ。人に優しく、安心して生活できて、豊かで、希望を持てる政治を見せてほしいのよ、そういうのがいいのよ……と平和ボケおばさん気分なのである。政治が私たちのほうを向いていない、そういう疎外感を今の政治にはどうしても感じてしまうのだ。  もちろん、私も今の都政が苦しく、国政は問題だらけだとも思う。東京という大きな都市の首長の顔が変わることで、私たちの生活がより安心できるものになればと願いたい。満員電車が解消され、残業がなくなり、全ての幼児が保育園に安心して通え、介護のために自らの職を諦める必要がなくなるほど福祉が充実し、東西南北の東京内格差が解消され、病気やけがをしたペットが殺されず、全ての電柱が地に埋まる。小池さんが約束して実現しなかったこと。8年もあればできただろうに、と思いながら、次の都知事には、地道に丁寧に私たちの生活のために働いてくれる人を期待したい。
「電波少年」坂本ちゃん ブレーク後に数千万円渡しても催促してきた家族と絶縁…「悪魔と思われてもいい」
「電波少年」坂本ちゃん ブレーク後に数千万円渡しても催促してきた家族と絶縁…「悪魔と思われてもいい」 いまだに「電波少年を見ていました」と言ってくれる人が多いという(撮影/平尾類)    今からさかのぼること24年前。バラエティー番組「進ぬ!電波少年」(日本テレビ系)で放送された「電波少年的東大一直線」を覚えているだろうか。学ランに身を包んだお笑いタレント・坂本ちゃん(58)が東大出身の家庭教師・ケイコ先生(春野恵子さん)の下で約8カ月間、東大合格を目指して猛勉強する企画は大きな人気を呼んだ。34歳で突如大ブレークした坂本ちゃんだが、その後の人生は波瀾万丈だった。家族に金銭を要求され続けて絶縁を決断したこと、人生を救ってくれたケイコ先生などについてインタビューで語ってくれた。 *  *  * ――電波少年に出演していた当時の印象が今も強いです。あの番組への思いを聞かせてください。  あの企画は24年前ですけど、いまだに「電波少年を見ていました」って言ってくださる方が多いんですよ。正直言うと、電波少年のことばかり言われて「うーん」と思った時期があったけど、今は人生を変えてくれた番組なので本当に感謝しています。電波少年に出なければ他の番組にも出られなかったですし、世の中に知られることもなかったですから。大好きな槇原敬之さんにも出会えましたし、今回こうやって取材してもらえることにも感謝です。いろいろな意見はあるんでしょうけど、自分の過去を恥じないようにしています。 将来に不安はなかった ――電波少年に出る前はどのような生活を送っていたのですか?  役者を目指して山梨から東京に出てきたんですけど、ミシン工場でずっと働いていました。箱詰めのアルバイトで月給は約8万円。30歳を過ぎても芸能界で全然売れていなかったけど、将来に不安は全然なかったです。あきらめさえしなければ大丈夫だって。勘違いも甚だしいんですけど(笑)。私は男3人兄弟で育ったのですが、親に甘えるのが下手で友達もいなかったから、子供のときはずっと下を向いていたんです。テレビに出たらみんなが私のことに気づいて振り向いてくれるのかなって思って、小3のときから毎日神様に祈っていました。「私をタレントにしてください。恋人や普通の家族は望みません」って。  二兎を追う者は一兎をも得ずで、全部は手に入らないと幼心に思っていました。言霊ってすごいんですよ。恋愛で人と付き合うこともなく、家族とも年数が経ってから関係が切れたんですけど、34歳のときに電波少年のオーディションで合格して、「小3から待ち望んでいた大きなチャンスがきた」と。私は日大の付属高校に通っていたんですけど、勉強ができなくて日大に内部進学できなかった。当時は恥ずかしさがあったけど、もし大学に行っていたらあのオーディションを受けられなかったので、これも運命かなと感じましたね。 ケイコ先生とは今でも連絡を取り合う(事務所提供)   ――1日13時間を超える猛勉強の日々はいかがだったでしょうか?  私よりケイコ先生が大変だったと思います。引き算すらできない人が東大を目指すんですから(笑)。最初は赤本で東大の数学の問題を見ても、国語かなと思うぐらいもう訳がわからない。でも、コツコツやって簡単な問題からどんどん解けるようになって得点が上がると自信につながるんですよ。センター試験(当時)で東大の1次合格ラインに全然届かず、他の私立大を受けることになったんですけど、ある大学の入試問題を見たときに小学校レベルだと感じて。勉強し続けるつらさがゼロではなかったけど、ケイコ先生が丁寧に教えてくれたし、楽しかった思い出という感覚が強いですね。当時住んでいた家は風呂なしだったんですけど、勉強で連れていかれた部屋は、お風呂もエアコンもあるので幸せを感じていました。テストで80点以上を取ればご飯も食べられましたしね。 1カ月でマックス800万、900万円ぐらい ――日大文理学部など8校に合格し、その後はバラエティー番組の出演が殺到しました。  当時のスケジュール帳を見返すと真っ黒でした。どれぐらい稼いだか記憶がないんですけど、そのときのマネジャーに聞くと1カ月でマックス800万、900万円ぐらい。でもお金はたまらなかったんです。売れたすぐ後に家族から「まとまったお金を送ってくれ」と催促が来て。父を早くに亡くして、母に負担を掛けていたので売れる前から微々たる額を仕送りしていたけど、まとまったお金を持っていると知ったら……お金で人は変わってしまうんです。数千万円を渡しましたけど、その後もお金を催促されました。「番組に出て笑っているだけで楽に稼げるからいいじゃん」と兄弟に言われたときはすごくショックで……。汗水たらして稼いだお金じゃなく、もらったお金だから感謝の気持ちがないんです。自分の身を守るために家族と距離を置くことを決めました。もう20年以上連絡を取っていないですね。 勉強で連れていかれた部屋は、お風呂もエアコンもあるので幸せを感じていたという(事務所提供)   ――家族と絶縁というのは大きな決断だったと思います。 「血のつながった家族は一生の家族だよ」と言われることがあるんですけど、幸せな家族だから言えるんです。私も母親のことは好きです。男はマザコンですから。甘えるのが下手だったから、自分が当時の親の年齢を超えて「扱いが難しい子供だったかな」とは感じるけど、幼少のときは家族仲は悪くない。むしろ良かったと思います。でも、私が大金を稼いで関係がおかしくなって。血がつながっていることは関係が深くて素敵なことだと思いますが、怖いとなってしまうこともあるんです。下手に会うと情が移るし、それではお互いが幸せにはなれない。私は家族を捨てたという認識を持っています。批判の声は受け入れていますし、「悪魔」と思われても仕方ない。でも、これからも家族と会うつもりはないです。 ケイコ先生と今でも連絡を取る ――救いになった存在はいらっしゃいますか?  ケイコ先生に相談したとき、「私たちは家族のようなものだよ」って言ってもらったときは本当にうれしくて。ケイコ先生ってすごいんですよ。受験勉強のときに「東大無理だよ」って弱音を吐いても、「絶対大丈夫だから!」って背中を押してくれる。エネルギッシュな人で今でも連絡を取るのですが、「大丈夫だよ」っていう言葉に何度も救われました。私は交友関係が少ないんですけど、同じ事務所の岡元あつこさんも親身になってくれて。本当の家族とは疎遠になってしまいましたけど、血がつながらなくても家族のように大事にしてくれる方たちには本当に感謝しています。温かい雰囲気の所属事務所(浅井企画)も大好きです。こうやって取材のときにジュースを用意してくれますし(笑)。 家族のように大事にしてくれる方たちには本当に感謝している(撮影/平尾類)   ――ご家族との関係をメディアで話すことは、勇気が必要だったと思います。  もう過去のことなので、「家族を助けられてよかった」と考えています。稼いですぐに家族に大金を渡したので、お金がなくなって貧乏のままですし、贅沢三昧な生活をした経験がない。そういった意味では金銭感覚で勘違いしていないし、不幸だとは全然思っていません。私は同性愛者なんですけど、物心ついたころからどこか腹をくくっているんですよね。子供のころから物事を俯瞰して見ていましたし、普通の結婚を望んでいなかった。「こうしなきゃいけない」という固定観念がなくて、私に限らずいろいろな生き方があると思っていて。世の中は幸せな家族ばかりではないと思うんです。そういう境遇の方が私の経験談を見聞きすることで、気持ちが楽になってくれたりして。少しでもお役に立てればうれしいですね。 ※【後編】<「電波少年」坂本ちゃん 大病の手術後に5カ月で19キロ減量「歩くことで人生が変わった」>に続く。 (平尾類) 坂本ちゃん(本名・坂本恭章〈さかもと・やすあき〉)/1966年4月2日生まれ。山梨県出身。日大明誠高から日大に内部進学できず、役者を目指して上京。99年にお笑いコンビ「アルカリ三世」を結成する。2000年に「進ぬ!電波少年」の企画「電波少年的東大一直線」で大ブレーク。東大合格はかなわなかったが、日大文理学部に合格した。その後は「ウッチャンナンチャンのウリナリ!!」にレギュラー出演するなど多数のバラエティー番組で引っ張りだこに。現在は芸能活動の傍ら、新宿ゴールデン街のバーで店番。昨年はYouTubeなどでの配信ドラマ「戦国サウナ」に今川義元役で出演した。
【独自】蓮舫「私ほどふさわしい人はいない」 国際都市・東京のトップを目指す理由【単独インタビュー】
【独自】蓮舫「私ほどふさわしい人はいない」 国際都市・東京のトップを目指す理由【単独インタビュー】 都知事選への出馬を表明した蓮舫参院議員。小池都政への想いから自身の生き方まで素直に語った=2024年5月28日(photo 写真映像部・和仁貢介)  東京都知事選(6月20日告示、7月7日投開票)に無所属での立候補を表明した蓮舫参議院議員(56)が5月28日、AERAの単独取材に応じた。小池都政への評価、国政と都政への思い、働く女性へのメッセージなどを語った。 「小池さんはかっこよかった」 ――出馬を表明した5月27日の会見では、小池都政について「自民党政治の延命に手を貸す存在」であると位置づけました。蓮舫さんが「自民党に近い」とする小池百合子都知事(71)と戦うにあたり、まず強調しておきたいことは。  8年前、自民党の衆議院議員でありながら都議会自民党を「伏魔殿」と評し、「都庁はブラックボックスである」と訴えて当選した小池百合子さんはとてもかっこよかった。しかし、8年経って振り返ったとき、やはり「七つのゼロ(※)」はどこへ行ったのか、と。東京で生まれ育ち、東京を選挙区とする参院議員として、残念ながらとても不信感があります。ペット殺処分ゼロなど、頑張ってくださっている部分もあります。しかし、介護離職はゼロになっていないし、通勤満員電車もなくなっていません。本当にゼロにしてほしいと思っていたことに手を付けていないのは、すごく残念に思っているんです。  それにこの間、自民党との距離があまりにも近くなりすぎています。自民党返りですよ。その矛盾を問うことは選挙に挑むにあたっての基本軸です。 ※七つのゼロ:2016年都知事選で小池氏が掲げた「待機児童、介護離職、残業、都道電柱、満員電車、多摩格差、ペット殺処分をゼロにする」との公約 単独インタビューに応じた蓮舫参院議員。「知事は国政でできないことができる」と語った=2024年5月28日(photo 写真映像部・和仁貢介) 国政でできないことが知事ならできる ――2016年の都知事選の際にも待望論がありましたが「やりたいことは都政ではなく、国の政治」と述べて出馬を見送りました。国政はやり切ったのですか。  そうではありません。ただ、残念ながら国の政治はどんどん悪くなってきています。お金に対する感覚も絶望的なまでに鈍ってしまっている。自民党の裏金問題も、政治資金収支報告書を訂正して「はい、終わり」って、そんなことが許されますか。改革を先送りし、覚悟も反省もない自民党の姿勢には本当に怒りを覚えますし、悔しいんです。でも、いま野党である私たちには、法律案の修正の交渉能力はあってもすべてを改革する術はありません。近々総選挙があったとしても一気に政権交代することは難しいかもしれない。政権交代を実現しても、参議院では過半数をはるかに割っています。国会がねじれた場合の政権運営は厳しいです。  一方、国会でできなかった政策でも、知事ならば「今」必要な政策をリーダーシップを持って機動的に実現できる。国政では法案を提出し、衆議院で審議し、参議院を通し、周知して施行するまでに最低でも1~2年はかかる。しかし条例ならば、知事がやると決め、議会で賛同を得られれば早くて次年度の予算で実現することも可能です。ものすごく俊敏性、機動性がある行政を担うことができる。それこそが知事の役割ですし、知事の仕事の魅力だと思っています。そして、それが国政に政策変更の要請をすることにもつながります。 2010年7月、行政刷新担当大臣としてAERA表紙に登場した蓮舫氏   都知事選への出馬を表明した蓮舫参院議員。インタビュー中は自然な笑顔がこぼれた=2024年5月28日(photo 写真映像部・和仁貢介) 「私にはできます」 ――公約は後日発表するとしていますが、都知事として何をやりたいのか、具体的に教えてください。  もちろんプランはありますし、私はリアルに実現できる政策を公約として掲げます。ただ、具体的な公約発表のタイミングは、選挙戦略に大きくかかわります。ですから、もう少しお待ちください。皆さんがワクワクする公約を準備しているので。  私は20年間、行政改革にこだわってきました。国の16.6兆円もの基金を洗い続けてきたわけです。それに対して、東京都の一般会計予算はその約半分の8兆円強。私にはできます。 都知事選への立候補表明の記者会見に臨んだ蓮舫参院議員=2024年5月27日(photo 朝日新聞社) 台湾と日本の2つの文化で育ったからこそ ――蓮舫都知事が誕生すると、都民の生活はどう変わりますか。  まず、蓮舫による行財政改革で財源が生まれます。この蓮舫行政改革により生まれる果実を都民の皆さんが求める、より効果的な政策に使っていきます。  他の地方自治体から見て「豊か」「独り勝ち」と言われる東京都ですが、生活者の実感としては物価が高く、家賃も習い事も高く、中間層の可処分所得は他の自治体に比べてさほど豊かではない実態があります。さらに格差も大きい。この格差是正は最も早く手を付けなければならない課題の一つです。格差は一世代で終わりではなく、再生産されています。連鎖から抜けられなくなる子どもたちを出さないために、早く底上げをしなければなりません。  私は日本と台湾、二つの文化の中で育ちました。互いの文化を尊重し合って多様性を伸ばしていく教育や環境、ビジネスのあり方などを理解する力も、誰よりも持っている自負があります。ダイバーシティーが求められる国際都市・東京のトップとして私ほどふさわしい人はいないと思っています。 テレビの世界を経て政界入りした蓮舫参院議員。言葉の端々に確かなキャリアを築いてきた自信がのぞいた=2024年5月28日(photo 写真映像部・和仁貢介) 卒婚して1人になったら、肩の力が抜けた ――蓮舫さんのキャリアは、働く女性の一つのモデルケースでもあったと思います。ワーキングウーマンも多いAERAの読者に、働く女性のひとりとしてメッセージを。  働く女性と言っても、いろいろな形があります。ダイバーシティーの中で上を目指すプレッシャーと闘っている人もいる。パート・アルバイトで働かざるを得ない環境で不安を感じている人もいる。「1人で暮らす」という選択も普通になってきたかもしれないけれど、そこには将来の不安という新しいプレッシャーが入ってきました。みんなそれぞれ状況が違うので、単一のメッセージを伝えるのは難しいけれど、どこかで諦めてもいいというか、力の抜き方を覚えてほしいなと思います。  私、2020年に卒婚して1人になってよくわかったんです。家族の将来のために私が頑張らなきゃいけないみたいなプレッシャーから解放されて、すごく楽になって、なんだ、自分のことだけ考えてればいいじゃんって(笑)。そう思うと仕事に余裕ができたし、肩の力が抜けて国会質問でも余白ができました。  みんな頑張ってきた経験は自分の中にあるんです。それ以上に無理をして頑張らなくていいんだと思うようになりました。キャリアとかそういうことじゃなくて、自分の生き方の豊かさを一番大切に考えていいと思います。 1967年生まれ。2004年、参議院選で初当選。内閣府特命担当大臣、民進党代表、立憲民主党代表代行、参議院国土交通委員長など歴任。現在、文教科学委員会理事、政治倫理審査会委員。都知事選への出馬を表明し、AERAの単独インタビューに応じた=2024年5月28日(photo 写真映像部・和仁貢介) 背伸びせずに、いま持っているスキルで臨む ――「強い」「怖い」とも言われる蓮舫さんのキャラクターからは意外な言葉です。  よく辻元清美さんと合わせて「あの2人、怖いよね」って言われてきました。笑っただけで「何か企んでいる」って言われてね(笑)。私、国会の予算委員会では80分間くらい質問してるんです。その間、本当は総理と笑い合っている場面だってあるんですよ。でも、ニュースで使われるのは怒っているような10秒だけですから。  私はこれから都知事を目指しますが、それは無理をするということではありません。いま持っているスキルで対応できますから。財政の洗い方も、それぞれの世代の都民がどんなことを求めているのかということも見えている。そこに答えを見つけていくのは背伸びをすることではないんだと思っています。   (構成 編集部 川口 穣) *6月3日発売「AERA6月10日号」では、蓮舫氏の単独インタビュー全文に加え、都知事選に臨む小池氏と蓮舫氏それぞれの政治活動や人柄などに迫る記事を掲載します。
日本の「世界自然遺産」がさらされている“2つの危機”とは?
日本の「世界自然遺産」がさらされている“2つの危機”とは? 白神山地(青森県・秋田県、1993年登録)  日本の自然が世界自然遺産に初めて登録されてから約30年。全部で5カ所ある登録地やその魅力、それぞれどんな課題に取り組んでいるのかを探ってみましょう。 小中学生向けのニュース月刊誌『ジュニアエラ2024年4月号』(朝日新聞出版)からお届けします。 屋久島の訪問客 島の人口の30倍に  鹿児島県の屋久島と青森・秋田両県にまたがる白神山地が、日本で初めて世界自然遺産に登録されてから30年が過ぎた。その後の登録もあり、国内の自然遺産は5カ所となった。それぞれの抱える事情や経緯は違うが、5地域は、連携して課題解決や魅力発信に取り組もうと動き始めた。  屋久島と白神山地は1993年12月、世界遺産に登録された。屋久島の周囲は約130㎞。中央に2千m級の高山が位置し、亜熱帯から亜高山帯までの自然植生と生態系が連続して見られるのが特徴だ。ただ観光客は、樹齢数千年といわれる縄文杉などに集中した。  遺産登録後の2007年度の訪問客は、島の人口の30倍にあたる約40万人を記録。地域住民の生活や自然環境、景観などに悪い影響を与えるオーバーツーリズムが心配された。このため町が公認するガイド制度を採り入れるなど、エコツーリズムに力を入れ、その後の遺産地域の一つのモデルとなった。 屋久島(鹿児島県、1993年登録)/島で産卵するウミガメを守るため、浜への立ち入り制限をする一方で、地元住民がガイドとなって観察会を実施。観光客が払う参加費は、保全活動や地域振興に使われる 白神山地の魅力と今後の課題  白神山地は、原生的なブナ天然林が世界有数の規模で分布していることが評価された。遺産地域への立ち入りが制限されたこともあり、04年度に8万人以上だった入山者は、22年度は約1万6千人にまで減った。いくら自然の価値が高いからといって、人から遠ざけていたのでは意味がない。保護と利用の両面からあり方を考えていく必要があるだろう。  遺産地域が青森県の西目屋村など3町村、秋田県の藤里町にまたがることもあって地域での一体的な取り組みもなかなかできなかった。このため関係市町村などは11年、環白神エコツーリズム推進協議会を発足させた。地域全体で協力した白神の魅力の発信に力を入れている。  白神山地は手つかずの自然だと思われているが、縄文時代から人が暮らし、林業や鉱業が営まれてきた。江戸時代の紀行家、菅江真澄も炭焼きなど人々の営みを記録に残している。  世界自然遺産を正しく理解するには、人とのつながりを合わせて継承していくことが重要だ。屋久島では、11年から地元の語り部が歴史や文化、産業などを案内する「里のエコツアー」を実施している。白神山地も、訪れた人たちにもっと文化的、歴史的な意義を伝える必要があるだろう。   自然遺産がさらされている「二つの危機」  白神山地と屋久島の登録から30年を迎えた昨年、国内の世界自然遺産5地域の関係自治体の首長らが屋久島町に集まり、5地域会議の発足を宣言した。今年1月には第2回が京都市で開かれた。  日本の世界自然遺産は、知床(北海道)、小笠原諸島(東京都)、奄美大島・徳之島・沖縄島北部及び西表島(鹿児島県、沖縄県)を加えて現在5地域。自然遺産はこれ以上増えないとみられている。  これまで地域ごとに自然保護や地域振興に取り組んできたものの、日本の自然遺産全体としての価値を国内外にアピールする機会や、共通する地域課題に統一的に取り組む機会はほとんどなかった。関係自治体の横の連携も不十分だった。  関係者は「それぞれがおもしろい取り組みをしているが、遺産を生かし切れていない地域や元気のない地域もある。まとまることでより存在感を示せる」と期待する。  日本を含め世界の自然遺産は、地球温暖化と生物多様性の喪失という二つの危機にさらされている。世界を代表する自然を守れなければ、いずれは私たちの身の回りの自然も失われ、生活環境も悪化する。世界遺産を担当する国連教育科学文化機関(UNESCO)は、温暖化が遺産に与える影響について指摘、早急な保護や対策の必要性を訴えている。 知床(北海道、2005年登録)/ヒグマなど野生動物とのあつれき回避や植生保護のために、観光客に対するレクチャーやガイドツアーの義務づけなどを実施。マイカー規制やシャトルバスの運行にも取り組む 小笠原諸島(東京都、2011年登録)/固有種が多い島ではペットの野生化による影響が甚大。村は、ペットの登録、マイクロチップ、去勢手術の推奨などを盛り込んだ条例を制定、関係団体とともに取り組んでいる 奄美大島・徳之島・沖縄島北部及び西表島(鹿児島県・沖縄県、2021年登録)/アマミノクロウサギ、ヤンバルクイナ、イリオモテヤマネコなど希少種の交通事故死(ロードキル)が問題になっており、道路への侵入防止柵の設置などの対策を強化している  (解説/朝日新聞編集委員・石井徹) ■世界遺産 国の枠を超えて人類全体に重要な価値を持つもので、自然遺産、文化遺産、両方の価値を持つ複合遺産がある。国内最初の文化遺産は1993年、法隆寺地域の仏教建造物(奈良県)と姫路城(兵庫県)が、白神山地と屋久島とともに登録された。国内には文化遺産20件と自然遺産5件がある。
6歳までの過ごし方が目と脳の一生を決める 何を見て育つかが大きな問題
6歳までの過ごし方が目と脳の一生を決める 何を見て育つかが大きな問題  ものを見る能力は、子どもの発達に深くかかわり、6歳までが大切なのだという。その妨げになるのがスマホ。眼科医・松岡俊行さんの著書「スマホアイ」(アスコム)から抜粋してスマホ育児の問題を紹介する。 * * * 子どもの発達と視覚の深い関係  ものを見る能力(目で捉えたものを脳で見る能力ともいえます)と、子どもの健全な発達はとても深く関わっています。いわゆる「スマホ育児」をしている親がよく心配しているのは「視力が落ちるかもしれない」ことなのですが、実は心配なのはそれだけではありません。  人の持つさまざまな能力が一気に伸びる数年間のことを「臨界期」と呼びます。それぞれの能力を育むために必要な脳のネットワークが構築される時期であり、聴覚や言語などにも臨界期が存在します。そして、視覚の臨界期とされるのが、生まれてから6歳ごろまでの期間なのです。遅くとも10代前半までに視覚は発達しますから、それまでの期間、特に6歳までの過ごし方が極めて重要です。  生まれたばかりの赤ちゃんの目が、どんなふうに見えているかご存知でしょうか?  大人と同じ目がたしかについていますが、見ているものの色や大きさ、距離感や立体感がどう映っているのか、考えてみると不思議ですよね。  生後間もない赤ちゃんの視力は、わずか0・0 1~0・0 2程度です。新生児は色の区別もついていません。明暗の差はわかりますが、両目のピントを合わせたりすることはできません。模様や輪郭を識別する能力が限られていますし、目の使い方がわからないので、両眼視がまだできません。物体を視界のなかで動かすことで注意を引きます。  1週間ほどすると親の顔を認識してじっと見つめたりします。たまらなく可愛い瞬間です。さらに生後3ヶ月になるころまでには、動くものを目で追ったり、はっきりした色や模様を認識するようになります。最初に認識する色は赤で、刺激の強いビビッドな色から順次認識していくといわれています。  4ヶ月にもなると、ものに手を伸ばしたりし始めます。目のピントを合わせたり、奥行きを捉える能力が備わってくるからです。視力はまだ0・1程度ですが、目の使い方を覚えるにしたがって、いろいろなものに興味を示したり、実際に体を動かしたりするのです。そして生後8ヶ月くらいになると、視覚と手の動きと記憶力が連動し始めます。ボールや積み木を触りながら、色や形、手触りを記憶していくんですね。  こうして見る能力をぐんぐん伸ばし、視力も6歳になるまでに1・0に伸び、ほぼ子どもの目は完成します。    人は目から育っていく  赤ちゃんの目の発達からわかるのは、人間がいかに視覚情報から多くの影響を受け、感じ、学び、成長しているかということ。特に子どもが飛躍的に成長する時期に「何を見ているか」は、決して軽んじてはいけないのです。  何度も述べている通り、目と脳は 強く結びついていますから、視覚への刺激は脳への刺激でもあります。  いろんな色や形のおもちゃで遊んだり、絵本を読んでもらったり、外で虫を追いかけたり、ボール遊びをしたり……といった子どもらしい経験によって視覚が刺激され、驚くほどの勢いで発達していくのです。脳にある視覚野の発達は、視覚刺激や経験によって形成されます。  赤ちゃんが生後しばらくすると、視覚刺激に反応し、視覚野が発達していきます。この期間に十分な視覚刺激が提供されない場合、視覚野の発達が遅れる可能性があります。脳は生涯にわたって変化し続ける能力を持っています。視覚野も同様に、環境の変化や学習に応じて変化し、適応します。これは神経可塑性(か そ せい)と呼ばれ、視覚野の発達に重要な役割を果たします。  そんな時期に子どもがスマホ漬けになっていたら、どうでしょうか。  たしかに、スマホを通して見る映像や画像も刺激の一つです。ですから決してスマホを見せてはいけないわけではないのですが、だんだんとスマホに頼る時間が増え、子どもがスマホに依存してしまうような事態になると大問題です。  多彩な色や形に触れる機会が減ってしまうだけでなく、近視になったり、内斜視になってしまったり、視野が狭くなってしまったりと、スマホアイになってしまうリスクが高まります。    どんどん落ちている子どもの視力  では、本当にスマホは子どもの目に悪影響を与えているのでしょうか?最もわかりやすい現象が近視の増加です。  子どもたちの視力低下の深刻さは親であるみなさんはすでにご存じのことかもしれません。第1章でも少し触れましたが、今、裸眼視力が1・0未満の子が年々増えています。  この大きな原因が近視にあるといわれています。厳密には視力低下の原因は近視以外にもあるのですが、8〜9割は近視が原因です。  文部科学省による令和4年度学校保健統計では、裸眼の視力が1・0に満たない子どもの数が小学校、中学校、高校の各年代で過去最高を更新しました。視力1・0未満の割合は小学生では約37%。中学生では60%を超え、高校生ではなんと70%にものぼっています。  もはや、、視力がいい子のほうが圧倒的な少数派になっている。この現実には眼科医として驚くばかりです。  さらに、この調査では、視力0・3未満の小学生が全体の11・9%を占めています。0・3未満というのは、教室のいちばん前の席に座っていても、黒板の字が読みづらいレベルです。  文科省による調査が始まったのは、今から半世紀近く前の昭和54年。当時は、視力1・0未満の小学生は現在の半分にも満たない18%弱、中学生でも35%ほどでした。わずか数十年の間に視力に問題を抱えた子がこれだけ増えた背景には、ある劇的な生活スタイルの変化があると考えられています。  それは、近くを見る機会が格段に増えたこと。  特にここ10〜20年は、スマホの普及の影響が非常に大きいと考えられます。スマートフォンの代表格であるアップル社のiPhoneがアメリカで発売されたのは、2007年(平成19年)。翌年には日本でも販売が開始されました。  それからわずか数年の間に、携帯電話はガラケーと呼ばれるようになり、スマートフォンが普及します。  総務省の「令和3年 情報通信白書」によると、8割以上の世帯がスマートフォンを保有しているとされています。学校教育にも導入されているタブレット型端末も4割まで保有率を増やしていますが、スマートフォンの保有率はそれをはるかに上回り、すでに固定電話も抜き去っています。  その爆発的な普及とリンクするように、近年、視力に問題を抱えた子どもが増えているのです  しかも、ここ数年は、新型コロナウイルスが猛威を振るったことで行動が制限され、スマホを利用する機会がますます増加しました。そう考えると、近視の子の割合が過去最悪の結果となったのも頷けるのではないでしょうか。
実は知られてない変動型住宅ローンの仕組み 「5年ルール」「125%ルール」で金利上昇に備える
実は知られてない変動型住宅ローンの仕組み 「5年ルール」「125%ルール」で金利上昇に備える 住宅ローン金利を決める金融機関の判断に注目が集まる    日本銀行の「利上げ」が注目される中、気になるのが住宅ローン、特に変動金利への影響だ。だがその仕組みを詳しく知らない人が実は多い。ローンを組んでいる人も検討中の人も、現状を知ってこれからに備えよう。AERA 2024年6月3日号より。 *  *  * 「5月は住宅ローンの金利を解説するセミナーが多かったです」  こう話すのは住まいのお金専門のファイナンシャル・プランナー(FP)、有田美津子さんだ。 「日銀のマイナス金利解除でローン金利の上昇が取りざたされているので、関心が高まっているからでしょう。本来はこれから借りる人のセミナーなのですが、このテーマだとすでに借りている人もお見えになります」 「すでに借りている人」には共通項があるという。皆、「変動型住宅ローン」を抱えているのだ。  住宅ローンには主に固定型と変動型の2種類がある。固定型は借りている間、金利が変わらず一定だが、変動型は文字通り変動する。 「あわてて勉強し直しに来ていらっしゃるのですが、あまりわかっておられない方がほとんどです。不安を感じてお見えになっている感じです」(有田さん)  実際、一部銀行が5月から住宅ローンの金利を上げた。変動型で言えば共にネット銀行で、住信SBIネット銀行が基準金利を0.1%引き上げ、楽天銀行も同0.08%上げた。  日銀は夏にも政策金利をもう一段引き上げるとみられており、多くの銀行がそのタイミングで変動型の金利を一斉に引き上げるとされる。いよいよ本格的な金利上昇時代が始まるのだ。  これからローンを組む人は、借入額を減らしたり物件レベルを落としたりするなど対策が取れるが、すでに借りている人はそれができない。だから、変動型を借りている人こそ自分のローンを総点検する必要がある。 「まずは自分が借りているローンの仕組みを理解することでしょうね」(同) 金利が決まる「構造」  それには基礎から理解を深めたほうがいい、という。そもそも、日銀の利上げがなぜ変動型の金利上昇につながるのか。 【PR by 暮らしとモノ班】 焚き火を眺め贅沢なひと時に癒やされる。ソロキャンプのお供はコレ! 仕事に疲れた心を癒やす、そんなひと時を求めて。 https://dot.asahi.com/articles/-/222385 AERA 2024年6月3日号より    変動型の金利は市場の短期金利の動向で決まる。多くの銀行が使っているのは「短期プライムレート」(短プラ、業績や財務内容が良い最優良の企業に1年未満の短期で融資する際の最優遇貸出金利)と呼ばれる指標だ。短プラは銀行間でごく短期の資金をやりとりする際の市場金利をもとに各行が決めており、その銀行間の市場金利は日銀の政策金利に左右される。  つまり日銀の利上げが銀行間市場を通じて「短プラ」を引き上げ、それが変動型の金利を上げる。従って変動型を借りているなら、金融情勢の動向への普段からの目配りが欠かせない。  では、短プラからどうやって変動型の金利は決まるのか。まず銀行は短プラに一定の金利を上乗せする。それが「基準金利」と呼ばれるもので、いわば変動型ローンの「定価」のようなものだ。現在、短プラは年1.475%、上乗せ金利は1%の銀行が多く、その場合の基準金利は「2.475%」となる。 「ずいぶん高い」と思われるかもしれないが、実際は各行は「優遇幅(引き下げ幅)」という割引制度を用意していて、個人の勤務先や収入で審査を行い個別に優遇幅を決めている。そして基準金利から優遇幅を引いたものが実際に契約者が借りる金利となる(「適用金利」)。  例えば三菱UFJ銀行のホームページを見ると、5月の変動型の基準金利は2.475%で、引き下げ幅は「年▲2.05%~年▲2.13%」とある。すると、実際の適用金利は「年0.345~0.425%」となるわけだ。  先の有田さんが言う。 「基準金利や優遇幅、適用金利はすべて契約書に書かれています。契約書を読めば、自分がどのようなローンを借りているのか、具体的な数字を把握できます」 返済面でも重要ルール  特に大事なのが「優遇幅」だ。個々に決まった優遇幅は返済期間中、ずっと変わらないからだ。自分の優遇幅を覚えておけば、基準金利が動いた場合、そこから自分の優遇幅を引けば、その時点からの適用金利がわかる。 AERA 2024年6月3日号より    以上が金利をめぐる主な仕組みだが、返済方法でも変動型で多くの銀行が採用している重要な仕組みがある。いわゆる「5年ルール」「125%ルール」である。  いずれも元利均等返済の場合に適用される。「5年ルール」は、毎月の返済額は5年ごとに見直すとするもので、その間は金利が上がっても返済額は変わらない。「125%ルール」は、その5年ごとの見直しで返済額が上がる場合、返済額を前の返済額の1.25倍までしか上げないとするものだ。  二つのルールがあると、金利の変動で返済額が短期に動くことを防げ、また急激に金利が上昇した場合でも過度の返済額上昇を抑えられる。家計にやさしいように見えるが、半面、金利上昇時に、それも金利上昇が返済初期であるほど、元金が多く残っているがゆえに元金が減りにくくなるという側面もある。 知らないことの怖さ  原因は、5年間毎月返済額は変わらないが、途中で金利が上昇したら、その都度、計算し直されるからだ。返済額は一定だから、返済額の中で利息の割合が増えていく。具体例を見るとわかりやすいので、住宅ローンに詳しいFPの中里邦宏氏に4千万円を年0.5%、35年返済で借りる場合で試算してもらった。  5年間変わらない毎月返済額は10.4万円で、最初の内訳は元金が8.7万円、利息が1.7万円だ。これが1年ごとに金利が0.5%ずつ上がっていくとどうなるか。2年後に金利が1.5%になると元金は5.6万円、利息は4.8万円で半々近くになり、4年後に2.5%まで上がると元金は2.7万円まで減り、利息が7.7万円に膨らむ。  そこで金利上昇が止まっても、1年後の見直しで返済額は上がり、しかも元金が減っていない分、本来14.5万円に上げる必要があるのに「125%ルール」で「13.0万円」に抑えられる。 「何も理解していないと、5年後に引き落とし額が変わるまで何が起きているのか気づかないでしょう。ましてや、金利が大幅に上昇することで利息と元金がここまで逆転しているとは思わないかもしれません」(中里氏) 「知らないことの怖さ」を少しはおわかりいただけただろうか。もっとも、ここまで解説したことは「多くの銀行で採用されている仕組み」であることに注意してほしい。銀行によってはルールが違うところがある。 AERA 2024年6月3日号より   金利上昇の影響を試算  例えば、ソニー銀行は基準金利を決める指標が短プラではなく「スワップ金利」だ。同じく楽天銀行は「東京銀行間取引金利(TIBOR)」だし、PayPay銀行は「お客さまへの影響・市場金利の動向などを総合的に勘案して決定」とする。  また、ソニー銀行とPayPay銀行、SBI新生銀行は「5年・125%ルール」を採用していない。金利は年2回、4月と10月に見直すところが多いが、見直し月が異なる銀行もある。  とにかく自分の銀行のルールを確認しておくことが大切だ。  変動型住宅ローンの仕組みがわかったら、次は金利上昇の影響の出方を把握しておこう。現在の毎月返済額を出発点に、さまざまなシミュレーションを行って毎月返済額がどこまで上がるのかを出しておくのだ。  4千万円を期間35年、当初年0.5%で借りて元利均等返済する場合に、時期をずらして金利が上昇したときの返済額を試算した。「5年ルール」で触れたように、初期に金利が上がると影響が大きい。元金が多く残っているからだ。  また、当然のことながら、金利の上昇幅が大きくなるほど毎月返済額の増え方も大きくなった。試算では0.5%から2.5%以上に上がると「125%ルール」が適用されることが多くなる。  さて、ここまで来たらあとは状況に応じた自分の場合の対処法を考えよう。 自分の家計は大丈夫か  先のFPの有田さんは、今のうちに毎月返済額が増えた場合に、家計が回っていくかどうかを見ておくことを勧める。 「例えば政府の物価上昇率の目標は2%なので、金利は段階的に上がって最終的に3%ぐらいになるとして試算してください。仮に現在の毎月返済額12万円が15万円に上がったとすると、その15万円を払っていける家計かどうかを確認するのです」  将来の給料にもよるが、それで生活できればOK。手元の貯蓄を家計に回せば返済が進んでいくのなら、それでもOKだ。  ただし近年、業者のすすめなどで目いっぱいのローンを夫婦で組む例も多い。先のFPの中里氏は、金利上昇時代の今は本当は全期間固定型への借り換えが望ましいが、難しければ次善の策もあるという。 AERA 2024年6月3日号より   「借り換えとなると金融機関にもよりますが、ローン総額の2%以上の手数料がかかるなど負担が大きい。そんな時に一つの手として考えたいのが金融機関を変えずに行う『10年固定』への金利タイプの変更です。現在は年1%程度で借りられる場合もあります。負担が借り換えほど増えないため、10年のうちに生活費の見直しなど家計の立て直しに注力できます」  住宅ローン比較診断サイト、モゲチェックを運営するMFS取締役の塩澤崇氏は、「今の時代は変動型が有利」を持論とするが、どうしても変動型がイヤなら期間固定型の検討を勧める。 「変動金利で借りるのは、返済額が少ない分を運用に回したりして資産形成に励んで金利上昇に備えるのが本来セットなんです。そうしたうえで変動型が怖いとなれば、固定型を選ぶ以外にありません。しかし、それは全期間固定の必要はなく、元金が多く残っている時期にリスクヘッジができればいいので、20年固定で十分ではないでしょうか。返済がある程度進んでいれば10年固定でもいいと思います」 「住み替え」視野の人も  10年固定と違って次の見直しまで猶予期間は短くなるが、ほかにも当面をしのぐ手はある。 「125%ルールがあるローンなら、それを適用した金額を『最低目標値』にするのも一つです。現在の返済額の1.25倍を返せる家計にできれば次の5年は乗り切れるからです」(中里氏)  では、今の返済でギリギリで、今後増える教育費などを考えると金利上昇に耐えられそうもない家計は、どうすればいいのか。 「住み替えを視野に入れた方がよい場合もあります。やりくりに苦しむより今の家に固執しないことも大切です。不動産市況は悪くないので、今なら残債よりも高く自宅を売却できる可能性があります。返せなくなって自己破産すれば、将来にわたって家計や生活にマイナスの影響を与えかねません」(同)  このように対処法を検討しておけば、実際に金利が上がってもあわてずにすむのではないか。まさに「備えあれば憂いなし」。変動型で借りている人は、「今」がその時だ。 (編集部・首藤由之) ※AERA 2024年6月3日号
高校野球キャプテンで学んだ組織の心の合わせ方 日本証券業協会・森田敏夫会長
高校野球キャプテンで学んだ組織の心の合わせ方 日本証券業協会・森田敏夫会長 抜けた力がある1人がチームを引っ張るよりみんなが思いを共有し個性を発揮すれば、成績は一段上がった。会社の組織も似ていてその経験が指針になる(撮影/狩野喜彦)    日本を代表する企業や組織のトップで活躍する人たちが歩んできた道のり、ビジネスパーソンとしての「源流」を探ります。AERA2024年5月27日号より。 *  *  *  2012年8月、野村ホールディングスの執行役・営業部門長と、傘下の野村証券の営業担当専務を兼務したときだ。営業畑を長く歩んで溜めてきた思いを書いた文書を、全国177の営業拠点へ送った。「営業部門が目指すべき方向と具体的戦略について」の題でA4判6ページにまとめたのは、株式などの売買による短期的な手数料稼ぎよりも、客の中長期的な資産形成へのアドバイスを真ん中に置こう、との呼びかけだ。  いまでは、大半の証券会社が掲げている経営方針だ。でも、当時は売買手数料に主眼を置く営業から抜け出ていなかった。相場が動けば売買が膨らみ、手数料が増えるうまみは、営業部隊の身に染み込んでいた。  でも、世の中の多くが「こんなに長寿になりながら、将来に不安があって、資産をどう確保すればいいのか」と、悩んでいる。それは長期的に資産をどういう形にしておくかにつながるから、本当に信頼を得なければ相談相手に選ばれない。アドバイスとなると、株式の売買のように電話のやり取りではなく、個々の客が持つ事情やニーズに沿った案内が必要だから、会って説明しなければできない。単純なようだが、営業部隊の行動様式を変えるのは、大変だ。  でも、若いときから複数の支店で営業をやり、東京・池袋、岡山市、福岡市の3カ所で支店長を務め、執行役になっても中国・四国・九州地域の営業を担当した現場好き。「ずっと思ってきたことを、やらなければ嘘だよな」と、意を決した。 (写真:本人提供)   疑問を付箋に書かせ服の上に貼らせて1枚ずつ順に答える  全国の支店長や部長ら200人余りが集まる機会に、思いを浸透させる仕組みを考えた。全員を3班に分け、順番に集めた部屋の真ん中に置いた机に、大きな付箋をたくさん用意する。もう一度、A4判6ページに書いたことを話し、それに対する疑問や不安などを付箋に書いてもらい、それぞれの服の上に貼らせた。  その付箋を1枚はがし、書かれた問いに対し、相手が腹に落ちたと思うまでやり取りする。それを、みんなにも聞かせる。終われば、次の人の付箋をはがし、体に貼った付箋がなくなるまで続けた。最後に「きみたち部店長が納得したわけだから、同じことを部下たちとやってくれ」と指示する。これを3班やって、約5時間をかけた。  何もはっきり伝えなくても、言いたいことは分かってやってくれるだろう。そんな「以心伝心」で、組織が目指す頂へ到達するのは、至難だ。全員と直に話し、それぞれが「自分は何をすべきか」を理解して最善を尽くさなければ、目標には届かない。これは、鳥取県立米子東高校で野球部のキャプテンをやったときに、身に染みていた。  高校2年生の夏、県大会で剛腕の3年生投手を擁しながら、準決勝で敗退した。その後で新キャプテンに選ばれ、翌年の甲子園を目指すが、秋の県大会で力は自分たちのほうが上だと思っていた高校に、1対9で惨敗する。そこで、考えた。2年生部員は他に6人いたが、個性派揃いで自分で考えた方法で練習して、指示をしても聞かない。「自主性があっていいか」と思ったが、チームとしてどう戦うかの協調性がない。  キャプテンとして一人一人の考えを聞き、全体の姿を描き合う。やがて自主性に協調性が加わり、翌春からいい形の試合が続き、夏の甲子園を目指す県大会を迎える。前年のようなプロ野球選手になるほどのエースはいなくても、順調に勝ち進み、決勝戦へ臨んだ。相手は、秋に1対9で大敗した高校。1番打者で、センターを守った。先取点を奪い、押し気味に試合を進める。だが、中盤に1対1に追いつかれ、9回裏にサヨナラ負け。悔しくて、涙が出た。 「いいチームだった」敗退後に湧いてきた予想もしない気持ち  でも、敗退から数日後、予想もしなかった気持ちが湧いてきた。「いいチームだった。みんなが個性を発揮しながら一つにまとまり、準決勝で負けた前年よりも一つ上へ進んだ」。自主性と協調性の融合──森田敏夫さんがビジネスパーソンとしての『源流』に挙げる体験だ。  1961年4月、鳥取県米子市で生まれる。父は会社員で母と弟の4人家族。小学校6年生で野球を始めて市の大会で優勝し、中学校と米子東高校で野球部に入る。米子東は、春夏の甲子園大会へ何度も出た野球の強豪校。進学校だけに部員は少なく、そのぶん、練習が厳しい。授業中、眠ることが多かった。  大学受験で1年浪人し、同志社大学商学部へ。空白期ができた野球はやらず、学生生活を楽しんだ。就職では、大学時代を無為に過ごした感じから、厳しく試される会社を選ぶ。野村証券は、社員たちが社員章の図柄をもじって「ヘトヘト証券」と言うほど厳しい、と聞いた。  最初の配属先は広島支店。入社式と1日だけの研修後、赴任するとすぐに新規の客の開拓に回らされる。なるほど、と思うスピード感だ。当時の営業部隊は50人近く、課がいくつかあり、課長以下8人のグループにいた。4年間いて、広島ではその課長との出会いがすべて、と言える。しごかれたが、面倒もみてもらった。典型的な例が、入社5カ月目の8月に開拓できた事業主に案内した国債の先物取引の処理だ。  金利の低下傾向のなか、有望にみえた国債の先物を9月に買ってもらう。ところが、直後に世界の経済史に残る出来事が起きる。「プラザ合意」だ。米英仏独日5カ国の蔵相がドル高の修正で一致し、日本銀行は円高・ドル安へ誘導するために金利を上昇基調へ転じた。国債の相場も金利が上がって価格が下落し、先物価格も急落した。相手は大きな損が出て、課長が一緒にいって謝罪してくれた。 野球も証券取引も大事なのは基礎営業の形が固まった  高校野球は基礎的な練習の積み重ねが大事で、証券取引でも同じ。そこから債券先物を勉強して基礎知識を習得し、金利動向を左右するマクロ経済の動きにも視点を築いていく。勉強をして備えを身に付ける森田流営業の形は、このとき固まった。  2017年4月に野村証券の社長に就任すると、またも溜まった思いを社内報に「支店にお願いしたいこと」として書く。伝えるべきことは、短い言葉でいいから、連呼した。『源流』を生んだ野球部のキャプテン時代に言い続けた「やろうぜ」の言葉と、重なる。  2021年6月に社長を退任し、翌月に日本証券業協会の会長になった。今度は「貯蓄から投資へ」の動きを促す役だ。ことし1月、資産形成型の証券投資で得た利益への新しい少額投資非課税制度「新NISA」が始まった。その仕組みや利点を、投資を考える人々に、伝えなくてはいけない。  野村証券時代、部下に「あなたの欠点は、自分ができることは、みんなもできると思っている点だ。何かあるとしつこく連呼し、ずっと言い続ける」と言われた。でも、これは、新NISAでも続ける。高校野球から生まれた『源流』からの流れは流域を広げて、勢いを増す。(ジャーナリスト・街風隆雄) ※AERA 2024年5月27日号
「梅田ダンジョン」でなぜ迷う? 東西南北5つの駅と高速移動する“大阪パワー”に負けないために
「梅田ダンジョン」でなぜ迷う? 東西南北5つの駅と高速移動する“大阪パワー”に負けないために 阪急大阪梅田駅に隣接する阪急ターミナルビルと新阪急ホテル(左)=2022年5月、大阪市北区    大阪の梅田駅。複雑で難解な構造で地元民でも時に迷う高難度スポットだ。人はなぜこの駅で迷子になるのか。街の歴史と駅の成り立ちを識者に聞き、実際に歩いた。AERA 2024年5月27日号より。 *  *  *  新年度も1カ月以上が経過し、新たな生活に少しずつ慣れてきた人も多いだろう。長くその地に暮らしていても混乱したり迷ったりする場所がある。その代表ともいえるのが大阪・梅田地下街ではないだろうか。地下の通路は迷路のようにアップダウンしたり、入り組んでいたりして、「梅田ダンジョン」とも称されている。  なぜ、梅田の地下街が難解になったのか。 「高度成長期を経て『キタ』こと梅田は戦後から復興し、地上部は高度成長期に一気に市街地化しました。その後に梅田の地下街が段階的に発展してきた歴史があります。地上部と地下街が別の動きで発展してきたという経緯があります」  そう話すのは立命館大学教授で都市空間の形成過程に関する地理学的研究を専門とし、『大阪 都市の記憶を掘り起こす』の著書もある加藤政洋さんだ。  加藤さんは江戸時代からの盛り場である大阪のミナミについて研究してきたものの、再開発などにともなう変転著しいキタにも関心を向けるようになり、梅田の地下街にあった串カツ店などが撤去されたことなどを目の当たりにし、地下街の歴史を再考しはじめたという。 地下街はもとは通行路 「梅田地下の通路の上には大きな道路が通っています。地下街のはじまりは、まさに通路として開発されたもので、地上部の道路が斜めに走っていれば、地下の通路もまた斜めの形状となります。面的な広がりはほとんどありませんが、そこにビルの地階が接続するなどして、複雑きわまりない空間へと発達しました」  確かに「大阪駅前南」という地上の交差点に立つと広い道路が斜めに広がっているのがわかる。東の方角には阪急百貨店が蜃気楼のように見える。目には見えているのに、なかなかたどりつけない。 【PR by 暮らしとモノ班】 充電・接続ケーブルが寿命になる前に!Amazonベーシックのセールでお得な新品に買い替え https://dot.asahi.com/articles/-/222365 AERA 2024年5月27日号より   「大阪駅前もビルが立ち並び見通しがよいわけではありませんし、特徴的な造形のビルはあってもあまりに巨大すぎて目印にはしづらいかもしれません」と加藤さん。とすると梅田は地下だけでなく地上も迷いやすいのかもしれない。  梅田の地下街が複雑なのは、「梅田」と名のつく駅がエリアに五つあることも理由の一つだ。「梅田」の名はないものの、JR大阪駅、JR北新地駅を入れるとその数は七つにのぼり、乗り継ぎが可能か否かで混乱が起こる。また、地下に入るとどちらが西で、どちらが東なのかも判別できなくなる。こうして迷い込んでしまうのだ。  どう攻略すればよいのか。 「まずは電車から降りてどの改札口から出て、どの出口に行くかだけをしっかり確認しておくことです。余計なところには目もくれない。それが第一歩です」と加藤さんは力を込めて話す。  地下街自体も迷いやすいが、出口の多さが拍車をかけていると加藤さんは言う。 「梅田にあるほとんどのビルが地下階を持ちそこから出入りすることもできます。地上への出口もあればオフィスの入り口もあり、完全にプライベートなものもあります」  言い換えれば、どこからも入れて、どこからも出られるのだ。  自分にとってスムーズに移動できるルートを覚えたら、次にどこにどのビルがあるのか、この出口を使うとどこに出るのかなど、地上部の状況を記憶に重ね合わせてみる。 「こうして頭の中でメンタルマップをつくり、上書きし続けていきます。頭の中で地図をイメージできると地下街も比較的移動しやすくなるはずです」と加藤さん。  梅田の地下街とは直接関係ないが、大阪は歩くスピードが速いことも迷いやすい要因であると考えられる。 「流れに乗ってしまうと、どこに流れ着くのかわからないという状況になりますよね」と加藤さんも指摘する。 歩く速度が速い大阪  歩行速度に関してはさまざまな調査があるが大阪が世界一とのデータもある。阪急大阪梅田駅から御堂筋線への通路を歩くと、あまりの速さに圧倒された。梅田の地下街で流れる人の波のなかで、ここはどこだろうと考えているヒマはない。  試しに平日の朝8時、阪急大阪梅田駅3階改札から目的地を決めず1階に下り、動く歩道などを人の流れに乗って歩いていくと、御堂筋線梅田駅の改札まで来てしまった。慌てて押し寄せる人波を避けつつ改札手前で流れから逃れた。まさに人の波に溺れるところだった。  人の流れから逃れるには流れに乗りつつ少しずつ左右のいずれかにずれていくことだ。突然横切ろうものなら人の波に押し倒される可能性もある。  高速で流れ行く人の流れは、まさに大河でこれこそ大阪のパワーなのかもしれない。  ただ、急ぐことがなければ迷うのも楽しいと加藤さんは言う。 「わたしはもう梅田の地下街で迷うことはありませんが、初めての街に行く時は、ある程度地図を頭に入れておきながらも、自分なりの感覚でこっちに怪しげな空間がありそうだなとか、この路地は何だろうなどと、迷いながら歩くのは楽しみの一つですよね」 機能的な大阪駅の構造  さて、梅田の地にありながら「梅田」の名を冠さないのがJR大阪駅である。大阪の玄関でありホーム上空には巨大なドーム屋根がある印象的な駅だ。 「大阪駅はJR西日本の基幹となる駅で象徴なので、コンセプトをしっかり定めてつくられています」  そう力強く話すのは建築家の岩田尚樹さんである。岩田さんは大阪駅のマスターアーキテクトを務めた建築家・東孝光氏のもとで学び、現在も大阪駅のデザインなどの監修を務めている。 「大阪駅のコンセプトはグランドステーションでローマ・テルミニ駅やパリ北駅のような世界を代表する駅に引けをとらない駅をめざして設計されています」  それらの駅と比較すると確かにそのイメージはあるが、肝心なのは駅の中身である。  岩田さんに大阪駅構内を案内してもらうと、どこにいるか、どこに行けばよいかがとてもわかりやすいことが実感できる。  岩田さんによると駅は安全性、合理性が必要で迷うつくりではダメなのだと。大阪駅には地上階に南北に貫く二つのコンコースがあり、さらに西口の通路が近く開通する予定である。それぞれのコンコースで柱や壁のテーマ素材が決められ、それらを見ると今自分がどこにいるかがわかるようになっている。 「中央コンコースの床によく採用される迷路のデザインにあやかりつつ、メインの2列の列柱の間に絨毯を敷くようにデザインを施して、その上を人々に歩いてほしいという思いを込めました。聖堂では迷路を抜けて神のもとへ向かうともいわれており、駅から新たなステージへ旅立つという意味も込められているように思います」と岩田さんは当時描いた原案のデザインを見せてくれた。 発見する楽しみがある  さらに大阪駅は利用しやすさを追求しつつも、さまざまな仕掛けがあると教えてくれた。 「中央コンコースには2カ所キヨスクがありますが、そのガラスの壁には全体が植物で覆われたレリーフの中にネコやチョウなどの生き物が隠されています。また、中央コンコースのノースゲートビルディングへ向かうエリアに立つ柱には数多くのアンモナイトが埋もれています」  このように大阪駅は電車に快適に乗り降りして通過するだけではなく、発見する楽しみがあるのだ。梅田地下街が迷いやすいのとは対照的だ。(ライター・鮎川哲也) ※AERA 2024年5月27日号より抜粋
松下洸平さん「吉高由里子さんは『この人のためにがんばろうと思わせる』」 AERAの連載で待望の対談スタート/表紙は杏さん/『AERA』5月27日発売
松下洸平さん「吉高由里子さんは『この人のためにがんばろうと思わせる』」 AERAの連載で待望の対談スタート/表紙は杏さん/『AERA』5月27日発売  5月27日発売のAERA6月3日号は、杏さんが表紙に登場。パリと日本の2拠点生活を送りながら様々な表現を続ける杏さんが、年齢を重ねたことでの変化や現在の暮らしについて語ります。巻頭特集は「君たちは大学でどう学ぶか」。著名人たちが大学での学びが「今」にどうつながっているかを語るインタビューに加え、大学の教育の最前線を取材しました。本格的な金利上昇時代が到来するなか、変動型住宅ローンについて仕組みを詳報し、これからに備えるための記事もあります。望海風斗さんのインタビューも収録。宝塚歌劇団を退団して3年、これまで言葉にしてこなかった思いに迫ります。大好評連載「松下洸平 じゅうにんといろ」は、新たなゲストに吉高由里子さんが登場。TBS系ドラマ「最愛」、NHK大河ドラマ「光る君へ」などで共演する二人。「ついに来てくれました!」という松下さんの言葉で始まる待望の対談は、今号から4回続きます。ほかにもさまざまな企画が詰まった一冊です。   表紙+インタビュー:杏  表紙を飾る杏さんは、映画「かくしごと」で、記憶を失った少年を自らの意思で引き取り、息子として育てる女性を演じました。オファーを受けた際、「いまの私ならできるかもしれない」と感じたそうです。その根底にある深い思いを、「年齢を重ねることによって、様々な事象に対し想像ができるようになる」「子どもや動物といった、振り回され、自らでは選べない運命を辿ってしまう存在を思うとやるせなくなる。そうした感覚が、年々強く、濃くなっていった」と話します。変化は2022年からパリと日本の2拠点生活を始めたことでも。「日本にいては感じられなかったであろうことを、肌で感じながら日々を過ごしています」と語ります。表紙とグラビアの撮影はもちろん蜷川実花。はかなげで透き通るような美しさの写真に心奪われます。 巻頭特集:君たちは大学でどう学ぶか  大学は様々なトライ&エラーを試みる実践的学びの場。学生時代の経験は「今」にどうつながっているのでしょうか。早稲田大卒のフリーアナウンサー・ヒロド歩美さん、ハーバード大卒の芦屋市長・髙島崚輔さん、大阪芸術大卒の映画監督・石井裕也さんが大学時代を振り返りながら、その学びの本質を語ります。そのほか、新設学部のトレンドや、活況が続く「大学発ベンチャー」への取り組みについても取材しました。大学からの後押しで成長するアントレプレナーシップの現場について詳報します。また、大学での学びに関心を寄せる高校を集めた「AERAサポーター高校」発の記事もあります。今後、高校生たちが「サポ高記者」となって誌面作りにも参加しますのでお楽しみに。 変動型住宅ローン総点検  金利上昇時代に気になるのが「住宅ローン」。特に「変動型」住宅ローンを組んでいる人や、これからローンを組むという人は注意が必要です。仕組みをしっかりと把握して総点検し、これからに備える必要があります。どんな仕組みなのか、チェックすべき「5年ルール」「125%ルール」とは何なのか、金利タイプの変更など対処方法はどのようなものがあるのかなど、家計にマイナスの影響を与えないための情報について詳報します。 望海風斗「自分の人生を生きる」  2021年4月に宝塚歌劇団を退団して以来、舞台にミュージカル、歌と走り続けてきた望海風斗さん。最新曲の「Breath」には、これまで言葉にしてこなかった思いを込めたと言います。退団後については、「若くもない年齢での再スタートですからやはり怖かった」と話します。曲を作る過程では、「人に吐き出していなかった思いを探り直しました」と語ります。それらを通して至った境地についてじっくりと言葉を紡ぎ出したインタビューです。 松下洸平×吉高由里子  松下洸平さんがホストを務める対談連載「じゅうにんといろ」。今号から4回にわたって、俳優の吉高由里子さんをゲストにお迎えします。吉高さんがスタジオに入ってきた瞬間から、現場が一気にポジティブで明るい雰囲気に。共演したときを振り返りながら、松下さんが「この人のためにがんばろうと思わせるんですよ、吉高さんは」と言うと、吉高さんは「めちゃくちゃ良いこと言ってくれるね。ほめ殺しコーナーなの?」と笑います。共演したときの現場の様子が手に取るようにわかる、笑いあふれる対談です。二人の空気感が伝わってくる撮り下ろし写真も必見。対談も写真も、誌面でぜひご覧ください。 ほかにも、 ・うつ病と認知症どう見分ける? 12のチェックポイント ・【女性×働く】アスリートの産後復帰わずか1.6% ・自称・世直し隊「つばさの党」はなぜ出現したのか ・自治体首長のハラスメントが相次ぐのはなぜか ・水原裁判、抗議文の内幕 報道陣は「ノット・ギルティー」を目撃できず ・中村哲医師殺害事件の教訓 日本に届かぬ遺族25人の声 ・平泉 成×佐野晶哉(Aぇ! group) 58歳差対談 ・超ときめき?宣伝部 ときめきは海を越えて ・2024パリへの道 スケートボード・草木ひなの ・武田砂鉄 今週のわだかまり ・ジェーン・スーの「先日、お目に掛かりまして」 ・現代の肖像 デイリーポータルZ代表取締役・林雄司 などの記事を掲載しています。 ※発売日の5月27日(月)正午からは、公式X(@AERAnetjp)と公式インスタグラム(@aera_net)で、最新号の内容を紹介する「#アエライブ」を行います。ぜひこちらもチェックしてください。 AERA(アエラ)2024年6月3日号 定価:470円(本体427円+税10%) 発売日:2024年5月27日(月曜日)
飲食店を仲睦まじく経営するご夫婦。2人の食事代は経費になるの? 税理士が疑問に答える③
飲食店を仲睦まじく経営するご夫婦。2人の食事代は経費になるの? 税理士が疑問に答える③ 保育料は経費? イラスト/福田玲子  確定申告の時期になると、レシートの整理に追われる人が多いのではないでしょうか。そこでよく直面するのが「この領収書は経費になるのか」という疑問。税理士・廣岡実さんの著書「お金と税金のことが90分でわかる本」(アスコム刊)から、経費になるもの、ならないものについて解説します。 *  *  *   【この連載を読む】 会社員とフリーランスの違い 注意すべきポイントは? 税理士が疑問に答える① https://dot.asahi.com/articles/-/222270 「無駄な経費をバンバン使って節税する」これって得策? 税理士が疑問に答える② https://dot.asahi.com/articles/-/222271 飲食店を仲睦まじく経営するご夫婦。2人の食事代は経費? 税理士が疑問に答える③ https://dot.asahi.com/articles/-/222275    飲食店の夫婦の食事代は経費にできるのか?  夫がシェフで妻が経理を担当しているご夫婦です。仕事の後に2人で食事に行った場合、この食事代は経費にできるのでしょうか?公私にわたるパートナーだから、会話の内容には子どもの将来のこととか、ご近所とのお付き合いの話、日常生活のいろいろな話題が上がってくるでしょう。  でも、一緒に仕事をしているのだから当然、仕事の話題も全体の何割かは占めるに違いありません。だとすれば理論上、2人の食事代のうち何割かを経費とすることができるはず。  これを会計用語で支出した金額を「按分」するといいます。  実務的に考えて、食事代が1万円だったとすれば、このうち5000円を経費として処理し、残りの5000円は社長への貸付金として処理をします(帳簿上は「事業主貸」となります)。  ひとりランチや保育料は経費にできるのか?  経費にはそもそも売上に貢献するとしても「社会通念上」認められないものもあります。例えば、お昼に食べた牛丼だって、スーパーで買った食材だって、食べないと仕事にならないから売上に貢献している、と言い張ることもできそうですが、これは「社会通念上」経費と認められないのです。  普通に考えてそれは経費でなく「生活費」ですよね、ということです。  仕事をするために子どもを保育園に預けた場合の保育料はどうでしょうか。現在の税法の中では保育料は「家事費」と判断されるため、経費に入れることはできません。   人間ドックは経費になるのか?  よく「人間ドックの費用は経費になりますか?」という質問を受けますが、確かに事業主や社長の健康維持のための検査は、広い意味では売上の獲得に貢献するかもしれませんが、これは必ずしも「利益獲得に結びつくもの」とみなされません。あくまで自分の健康管理のための行為とされるため、残念ながら経費にはできません。  しかし、もし再検査が必要になって、治療が必要な病気が見つかった場合は最初に受けた人間ドックの費用もすべて「医療費控除」の対象になります。  また、会社の代表者や幹部を含めてすべての従業員に同じメニューの人間ドックを行うのであれば、それは「福利厚生費」となり経費になります。ただし、社長だけ2日間のスペシャルな人間ドックをやったとしても、それはプライベートな利用になるので経費になりません。  パソコン代は経費になるのか?  パソコンなど、10万円以上の支出は「一時の経費」でなく、「固定資産」として「減価償却の方法で経費化」をしなければいけません。減価償却の対象となるものは一定額以上の建物や設備類、車両、工具、家具、電化製品、事務機器などで、耐用年数で割って各年の経費として計上します。  そもそも、なぜ「減価償却の方法で経費化」しなければならないのでしょうか?固定資産も、他の経費と同じように「売上に貢献する」ものです。ただ、固定資産は数年間にわたって利用して売上獲得に貢献するわけですから、他の、例えば交通費などのように、代金を支払った時に一度に費用にするのは不合理といえます。  200万円の自動車を経費にする場合は?  例えば新車の営業車を買ったとします。価格は200万円。この車を営業に使って売上獲得に貢献するのは1年だけでしょうか? そんなことはありません。数年から10年は貢献することになります。だったら、200万円の営業車を10年間にわたって使用することによって売上を獲得できたことになります。  つまり会計上は、200万円すべてを購入した年の経費にするのではなく、10年間にわたって「売上獲得に貢献する」から、その期間にわたって経費として処理するのです。  ただし、同じ営業車でも、4年でダメになることもあれば10年もつことだってあります。国税庁からすれば、それぞれが勝手に処理してもらっては困るのです。コンセプトは「公平性」なので、一律にその計算方法を決めたのです。  耐用年数についても国が「法定耐用年数」というものを定めて、同じ条件で減価償却費の計算をすることを義務付けたのです。つまり、新車の営業車は6年と決められており、6年間にわたって売上獲得に貢献すると想定してその期間にわたって「減価償却費」として経費にしてよいと規定しているわけです。  「この 領収書が経費になるか?」の判断基準  確定申告の書類作成時期になると毎年こんなことをよく聞かれます。 「いくらまで経費を使っていいですか?」 「この領収書、経費として認められますか?」  税理士は税務の専門家だから聞けば即座に答えてくれると思っているのかもしれません。でも、何が経費になるかというのは、税理士にしても簡単に答えることはできないのです。その内容と目的によって決まるのです。  私はクライアントから確定申告の相談を受ける時に、「経費とは何だと思いますか?」と必ず尋ねることにしています。ほとんどの人はこの質問に正確に答えることができません。でも、これからフリーランスになったり、起業して事業を営んでいこうという人にとって、この定義を知っておくことは大切かつ必要不可欠なことです。  経費とは「売上を獲得するための支出」を指します。  大事なのはこの支出は、単なる「消費」ではなく、「売上を獲得するために貢献する」ものでないといけないのです。逆にいえば、「売上獲得に貢献しない支出(など)は経費ではない」ということになるのです。  つまり、何が経費になるのかは税理士でなく、基本的にはこの判断基準であなた自身が決めることです。あなたがその支出が売上に貢献すると判断できれば経費にすればいいのです。  そしてその領収書が経費になるかどうかも、「それがあなたの事業の売上に貢献しているなら経費」ということになり、これもあなた自身しかわからないことです。   【この連載を読む】 会社員とフリーランスの違い 注意すべきポイントは? 税理士が疑問に答える① https://dot.asahi.com/articles/-/222270 「無駄な経費をバンバン使って節税する」これって得策? 税理士が疑問に答える② https://dot.asahi.com/articles/-/222271 飲食店を仲睦まじく経営するご夫婦。2人の食事代は経費? 税理士が疑問に答える③ https://dot.asahi.com/articles/-/222275  
観客に手拍子を求めるのは最低!? TAJIRIが語る"プロレス界の真実"
観客に手拍子を求めるのは最低!? TAJIRIが語る"プロレス界の真実" 『真・プロレスラーは観客に何を見せているのか 30年やってわかったこと (徳間文庫)』TAJIRI 徳間書店  今回ご紹介するのは、プロレスラーとして30年以上のキャリアをもつTAJIRI氏の著作『真・プロレスラーは観客に何を見せているのか 30年やってわかったこと』(徳間文庫)。同じ仕事を30年続けるのは並大抵のことではない。それも肉体的にハードなプロレス業界......さぞかし苦労が多かったのではないだろうか。 同書では、TAJIRI氏のプロレス人生におけるさまざまなエピソードが紹介されている。新日本プロレスでの体験はかなり厳しいもので、読みながら状況を想像すると背筋が寒くなった。また、試合を観戦しているだけではわからない選手同士の関係性は興味深い。「ライガーさんは怒り心頭でコーナーへ戻ると、ダメージを負ったオレを捕獲したサムライ選手にタッチを求めた。そして、二人がタッチする瞬間、オレははっきりと聞いた。「こいつ潰すぞ!」「え、本当にやるの!?」二人の声を耳にして、とんでもないことになってしまったと思った。殺るとか殺られないとか、そんなことはどうでもよかった。そうではなく、新日本というメジャー団体からこんな弱小インディーにやってきた超大物がお怒りになられてしまったのである......オレのせいで!」(同書より) これは、TAJIRI氏とライガー氏が初対戦した際のエピソードである。この試合は、ライガー氏がTAJIRI氏の顔面をボールのように蹴飛ばしたり、親指を眼窩に突っ込んできたりと衝撃的なシーンも多く、当時の『週刊プロレス』に記述されるほどだったという。 しかし、ライガー氏は怒っていたわけではなかった。TAJIRI氏に対して「もっとガンガン来れるようにならないと!」と感じていたからこその試合展開だったのだ。先輩からの指導と捉えればいいのか。プロレスラーらしい指導なのかもしれないが、あまりの激しさに読んでいて全身に力が入ってしまった。 またTAJIRI氏は海外での活動経験も多く、WWE(かつてのWWF)に所属していた経験もある。日本とは違う海外の事情は実に興味深い。例えば、WWEの収入形態についてだ。まず契約形態は選手ごとに異なり、全選手共通の基本ギャラというものが存在しないという。 TAJIRI氏はこうしたWWEの形態について、次のように述べている。「日本の企業だったら、『あいつの副業だけ認められてるのはおかしい!』『キャリアは同じなのに、なんであいつのほうが俺よりもらってるんスか!?』など、誰かが必ず言い出すものだが、WWEにまで到達できる選手はマインドが完全にプロなので、そういうことを言う者は一人もいない」(同書より) "プロである"ということに対して、TAJIRI氏は非常にこだわっているように感じる。同書では、TAJIRI氏が考える"プロ意識"について語られることが多いのだ。プロレスラーとしての"プロ意識"のほか、職業に関わらず参考になる考え方も多い。「技に限らず、プロレスはとにかく、『美しく』あらねばならない」(同書より) TAJIRI氏の信念でもある考え方であり、それが練習やキャラ作り、後輩への指導にも反映されている。この"美しさ"は画一的なものではなく、選手のタイプによって変わってくる。プロレスラーはそれぞれキャラ作りをしているため、それぞれの選手に合った"美しさ"を追求すべきだ、という考えだ。 プロレス観戦に来るお客さんが見たいのは、日常生活からかけ離れた存在。だからこそ、ただ技が巧いだけではなく、お客さんが「お金を払ってでも見たい」と感じるだけの魅力をもつ必要があるのだ。 また、TAJIRI氏は「技の前に観客に手拍子を求めるのは最低だ」と述べている。これは小さな会場でしか通用しないプロレスであり、お金を稼げないプロレスだとも。 プロレスに限った話ではないだろう。規模が小さければ得られる利益も少ない。大きな利益を得たければ、広い会場や大規模な市場で勝負する必要がある。そのために必要なのは、お客さんに「お金を払う価値がある」と感じてもらえるだけのパフォーマンス(商品)だ。 同時に、プロレスは常にケガと隣り合わせ。どれだけ体を鍛え経験を重ねても、大きなケガが原因で体に麻痺が残ってしまう選手もいる。TAJIRI氏は今後のプロレス業界が取り組むべきこととして、「怪我をしないプロレス」「危険なことをしないプロレス」を挙げている。 本来のプロレスでは、危険な技を毎試合使用する選手はいなかった。そんなことをしなくても「理にかなっている試合を構築すれば、危険なことをする必要がない」のだという。TAJIRI氏が恐れているのは、危険な技が日常化することで、見ているファンが危険なものだと感じなくなることだ。これもまた、プロレス業界だけの話ではない。 「プロレス自体が世界と連動しているジャンル」と表現しているが、全くもってその通りだと思う。プロレスはただの娯楽ではなく、社会や文化の一端を担うものだ。プロレスを通して見る世界は、新たな視点や新鮮な気づきを与えてくれるだろう。
「頭が痛い」「お腹が痛い」の裏にある本当の理由とは 不登校の子どもの頭の中で起こっていること
「頭が痛い」「お腹が痛い」の裏にある本当の理由とは 不登校の子どもの頭の中で起こっていること 不登校の本当の理由が言えないのは、「学校に行っていないだけで迷惑をかけてるから、これ以上は……」。子どもは子どもなりに、親を気遣っているんです  3人の子どもの不登校を経験し、不登校の子どもやその親の支援、講演活動などを続ける村上好(よし)さんの連載「不登校の『出口』戦略」。今回のテーマは「そのとき子どもの頭の中で起こっていること」です。 ***  この連載の2回目では、学校に行きたくないと言われたときに親にできることについてお話ししました。思春期ゆえの扱いにくさや、子どもの表現力の未熟さが、不登校をより複雑にしている可能性があるんですよね。  私は学校にも勤務していますので、毎日、中高生といろいろな話をします。私が勤務しているのは男子校で、中学1年生は、制服もまだブカブカで着慣れていない感じがとても初々しい、この間までランドセルを背負っていた生徒たちです。一方で高校生になると、びっくりするくらいに大人っぽくなって、この時期の子どもたちの成長には驚かされる毎日です。  思春期は、体が急激に成長していく時期。そのため、心と体のバランスがうまく取れずに悩みを抱えていることも多いのです。体は成長しても脳は未発達で発展途上であるということは前回も書きましたが、多くの子はそのことに気づく機会がありません。親である私たちも、目の前のわが子の態度や言動を目の当たりにすると、ついつい言わなくてもいいことまで言ってしまうことがあるのではないでしょうか?  私も、今でこそこうやってみなさんにアドバイスなんかしていますが、子どもたちが不登校だった当時は怒りの沸点が低く、ちょっとした言動で頭ごなしに叱りつけることもしょっちゅうでした。私自身が感情に乗っ取られていて、怒りに任せてそれを子どもにぶつけていた日々でした。  いま、私が親御さん向けに行っているグループレッスンに、「自己肯定感を育てる親講座」というものがあります。そのワークの一つに、親に否定語と指示語で言い募られるシーンを子どもになったつもりで聞く、というものがあります。参加者には「子どもになったつもりで聞いてくださいね」とあらかじめ予告してから始めます。  私が迫真の(?)演技で日常生活に起こりそうなシーンを再現します。使うのは否定語と指示語ばかり。しかめっ面の怖い顔でヒステリックに叫びます。 「いつまで寝てるの!さっさと起きなさいよ!」 「ねえ、そんなことしてたらまた遅刻するよ、ぐずぐずしてないで早くしなさい!」 「何回おんなじことを言ったらできるようになるの!いい加減にして!」 講座は通常、オンラインで行います。こんな風に互いの顔を見ながら進めていきます  演じた後に感想を聞くと、みなさんこうおっしゃるのです。 「やる気がなくなった」 「こんな親にどうせ何を言っても無駄」 「自分はダメな子なんだなと感じる」  そして、こうも言います。 「いつもの私です!先生、どうして私がこう言ってるって分かったんですか?」 「今朝、ちょうど同じ言葉を言っちゃいました」  このワークを通して気づきを得た親御さんたちは、子どもにかける言葉を考え、少しずつ変えていきます。そのことで、親子関係も変わってきます。  大人は自分の感情に任せて、または不安から心配が先走って、ついついダメ出しをしたり先回りして指示したりしますが、子どもには子どもの意思があり、考えがあります。ゆっくり成長している脳の発達をしっかりと理解して、少しでも「以前との本人と比べてできるようになったこと」に目を向け、言葉にしていただきたいと思います。  さて、そんな中高生ですが、子どもたちと話をしていると、最初は緊張してあまり話さない子たちも、双方向にやりとりをしていくと少しずつ緊張がほぐれ、話をしてくれるようになります。ポツリポツリと本音も話してくれます。  例えば、両親の離婚で心が萎んでしまって、そこから学校に行く気力がなくなってしまったこと、家庭内の不和で心労が重なり眠れなくなってしまったこと、親の病気が心配で心が押し潰されそうになり、落ち着かなくなってしまったこと……。うつむき加減に不安そうな表情を浮かべながら、少しずつ言葉を選んで、自分でふたをしていた気持ちを伝えてくれるのです。 「頭が痛い」「お腹が痛い」という訴えが、こういうことに起因していることも、少なからずあります。「このことはお母さんに話したことあるの?」と聞くと、「自分のせいでますますお母さんに心配をかけてしまうから言わない」「学校に行っていないだけで迷惑かけているから、これ以上は迷惑をかけたくない」と言って本当の理由を話していない状況にある子も、ときどきいます。 こうして布団をかぶっている間も、子どもなりにいろいろ考えているんです photo iStock.com/liebre  子どもは子どもなりに親のことを気遣い、特にお母さんには心配をかけたくないと思っているようで、自分だけでなんとか解決しようと抱えこんでいるんですね。母親としては、「どうしてうちの子は何も言わないのかしら」「なぜあの子は黙っているだけなのかしら」と思うかもしれませんが、子どもたちはちゃ〜んと考えているのです。  言葉や態度でうまく伝えられるほど表現力が育っていないので、「だんまり」や「そっけない態度」で取り繕っていることもあるのだと思います。しかし、どの子も、間違いなくお母さんのことが大好きなんだなということはひしひしと伝わってきます。ここは、お父さんではないところがポイントです(笑)。  子どもが不登校になったとき、最初は強い態度で接してしまうお父さんは多いと思います。でも、それがうまくいかないと、今度はどう接していいか分からず、腫れ物を触るように我が子を扱ってしまうケースも少なくありません。そうなってしまうと家の中のパワーバランスが崩れて、結果的に負担がお母さんにいってしまうことになります。  これはこれで、また大変。そうならないためにも、お父さんは、例えばお子さんが男の子なら、男同士でアウトドア体験をして、家にいたらお母さんに止められそうな、ちょっとだけワイルドなことをしてみてはどうでしょう。一緒に何かを体験することで心がほぐれ、子どもの言葉が出やすくなります。試してみてください。  女の子の場合は、お母さんとの関係性が崩れていなければ、二人でお出かけしてスイーツを食べに行くなどすると、そこで幸福感を味わいながら、ふと心のうちを話してくれるようになることがあります。あくまでも、相手が話してくれるまでゆっくり待つことが大事です。  お母さんとの関係性が悪化している場合は、お父さんがちょっと外に連れ出してあげて、同じようにカフェや買い物にいくというのも手かと思います。場所が変われば気持ちが変わりますし、美味しいものを食べれば心がほぐれます。さまざまなご家庭を見ていて、お父さんとお母さんの役割分担がうまくできると、お子さんは変化していきます。  親としては、特に母親は、お腹の中にいる時からわが子のことを常に考え、心配し、世話をしてきているので、子どものことは全部わかっていると思いがちですし、そう思いたいという気持ちもあるかもしれません。ですが、子どもたちは成長の過程でたくさんの人に出会い、いろんな影響を受けて、だんだんとその子なりの意思や価値観が生まれていきます。このことは、将来自立した大人になるためにとても大事なことなのです。  子どもの考えていることがわからなくなると不安になる気持ちもわかりますし、コントロールしたい気持ちもわかります。でも、自転車に乗れるようになったとき、途中まで添えていた手を最後には離したように、子育ても次第に手を離していく必要があります。手を離しても、転んでも自分で起き上がれるようになるまでが、後方から「大丈夫、あなたならできるからね」と信じて見守っていけばいいんです。  子どもの考えていることがわからなくなってきたら、その日を「記念日」に設定し、日記に成長の証を残すくらいの気持ちで、ゆったりと構えてみるのもいいのではないかと思います。  あなたもそういう年齢になったのね。あなたの意思があるものね。今までみたいにママになんでも話すことは、この先は少なくなるかもしれないけれど、自分一人や友達に話して解決できない時はいつでも聞くからね。応援してるよ。  こう伝えてあげると、子どもは安心します。そして、親という存在をいざとなった時の切り札として、お守りのようにして生活していけるようになるのです。心の安定感があると自己肯定感も上がっていきますから、親子関係も変わっていきます。  次回は6月4日配信。不登校の原因が「無気力・不安」って本当なの?をテーマにお話し致します。

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