松井玲奈のエッセイ『私だけの水槽』 「一番集中できるのは新幹線の中」と話した会見をほぼ全文公開!
エッセイ集『私だけの水槽』の発売を記念し、4月17日に松井玲奈さん(32)が紀伊國屋書店新宿本店で刊行記念会見を行った。
苦手なことも好きなことも、ありのままを書き綴る最新エッセイ集。刊行記念会見の模様を、ほぼ全文公開します!
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ストローでジュースを上手く吸い込めなくても、歌が苦手でも、自分に敬意を払って、日々を過ごす。苦手なことも好きなことも、ありのままを書き綴る最新エッセイ集『私だけの水槽』は、「小説トリッパー」(朝日新聞出版刊)の連載に書き下ろし4作品を加えた1冊。
多くのマスコミを前に行った刊行記念会見の模様を、ほぼ全文公開します!
――『私だけの水槽』を初めて手に取ったときに感じた思いは
「小説トリッパー」での連載が長期に渡っていたので、やはり自分が書き溜めていたものが1冊の本になることがすごく嬉しいです。『私だけの水槽が』が、今からいろいろな人の手に渡り、楽しんでいただけることを考えると、すごくワクワクする気持ちが生まれてきました。
この本には日常の話だったり、役作りで悩んでしまったこと、一緒に生活している猫ちゃん2匹との話も書いていたりします。ミュージカルのオーディションに落ちた話も書きました。
私は自分の内面の苦手な部分やマイナスな部分を出していくことを恥ずかしいとは思っていなくて。いろいろな人に自分のことをもっと身近に感じてもらいたいんです。
4月17日紀伊國屋書店でのサイン本お渡し会の前に行われた囲み会見(すべて撮影:上田泰世/朝日新聞出版写真映像部)
読んでいただいている皆さんと私は同じ。いろんなことで悩むし、躓くし、美味しいものを食べたら嬉しい。そういうことを知ってもらいたいです。
ランニングマシーンをずっと走っている感じ
書き始めた時期がコロナ禍だったこともあり、なんとなく周りの時間が止まっている感覚がありました。連載を書いている中でも、ランニングマシーンをずっと走っているみたいな、周りの景色があんまり動いてない感覚があったんですね。
でも、完成したものを自分で読み直した時に、止まっているように感じても、実は自分が気づかないぐらいでも、ちょっとずつ前に進んでいたりなどの変化があることに気がつくことができました。
『私だけの水槽』の中に「趣味の収穫どき」っていう話があります。「自分がやりたいと思った時が、それに向かうベストな時期」と言ってもらったことがあったのですが、まさにそうだなと思います。
最近はこれが見たい、これが食べたい、これに挑戦してみたいって思ったらすぐ行動に移すようになりました。
苦手なことも好きなことも、ありのままを書き綴る最新エッセイ集『私だけの水槽』松井玲奈著
――原稿を書くのはいつ、どこでですか? 友人からの反応はありましたか?
エッセイを書くのは、お休みの日だったり移動していたりする時に、「今日は書く!」と決めて原稿に向き合うことが多かったなと思います。
新幹線の中が集中できるので、新幹線移動があると「今、書けるぞ」と、パソコンに向かっていました。新幹線って、降りる駅までは絶対に外に出られない場所。なので、原稿に向き合うっていう気持ちになると1番集中できるんです。
友人から「読んだよ」という感想は、まだ無いんですよ(笑)。無いのですが、発売するにあたって「予約したよ」とか「買ったよ」との連絡が何人からか届きました。なのできっと、感想はこれからいただけるのかなと思っています。
東京ディズニーシーでコース料理を1人で
――1人が好きで、相手に対してとても気を遣ってしまうという松井玲奈さん。人との距離感に悩む方々も多いですが……
そうですね。私はアドバイスできるような人間ではないんですけれど。やっぱり無理をしないというのが1番なのかなと思っています。交友関係も大事ですが、自分1人の時間も大事。無理をせず、自分の居心地のいい空間を作っていくことが大切だと思っています。
東京ディズニーシーに行って1人でコース料理を食べることもあります。特に周りの目は気にならなくて、1人で食事をしても平気です。
サイン本お渡し会に参加したファンと、明るく会話がはずむ
誰かとご飯に行っている時に周りを見て、「あの人1人だ」と私は思いませんし、それぞれの人たちがそれぞれの時間を楽しんでいると感じます。
もちろん、友人たちと食事をするのはとても楽しいのですが、食べるものに向き合う時間がすごく少なくなってしまう気がして……。
1人でご飯を食べていると、「これはどういう風に作られているんだろう」とか「こんな味がする。後からこんな味も加わってきた」と感じられます。
食べ物自体に意識をフォーカスできる時間が好きなんです。だから、1人でご飯を食べに行くことは全然苦じゃないです。
アドレナリンが出る幸せな時間
――『私だけの水槽』には、食の描写が多い。松井さんにとって食べること、食事を作ることは自身の人生においてどんな意味がありますか
日々生活していく中での、食事だったり料理だったりというのはあると思います。でも、自分を大切にするための食事でもありますよね。私はその時間がすごく好きなので「これが食べたい」と思ったら、それを目当てに食べに出かけることもあります。
「昔懐かしいおもちゃの中で、まるで魚が自分の手の中で泳いでいるような雰囲気がすごく気に入っています」と、装丁について話す松井玲奈さん
そういう時間が、すごく幸せだなと思うんです。ご飯を食べている時に「どう美味しいのか」、「自分が今それを口に入れて、どう感じているのか」を考える瞬間にアドレナリンが出て、すごく幸せなエネルギーが自分の中に広がる感じがします。
今、「鶏の酒蒸し」を作ることにハマっていて。電子レンジで調理ができて、つけダレもいろいろな種類が試せます。美味しいつけダレの組み合わせを考えるのが、最近の楽しみです。
心が動いた瞬間
――タイトルの『私だけの水槽』に込めた想いと、装丁デザインへのこだわりは?
自分がすごく心が疲れている時に、大きな水槽の中を魚が泳いでいるアクアリウムを表現した絵に出会ったんです。思わず立ち止まってしまうぐらい感動したんですね。そのときの、「心が動いた瞬間」っていうのがずっと忘れられなくて、是非これをタイトルにしたいなと思いました。
本の装丁も「魚が水槽の中を泳いでいるイメージ」で描いていただいたので、昔懐かしいおもちゃの中で、まるで魚が自分の手の中で泳いでいるような雰囲気がすごく気に入っています。
『私だけの水槽』の表紙を見て「懐かしい気持ちになる」と言ってくださる方もいて、同年代なんだなと思って嬉しかったです。
同じ目線で微笑みながら、一人ひとりに丁寧に『私だけの水槽』を渡していく
――本を読むのが好き、子どものころから文章を書くことも好き?
自分では、文章を書くのは得意と思っていなかったのですが、小学校の時の作文コンテストで賞をいただいたんですね。その時の担任の先生から「松井さんはすごく文を書くのが得意なんだね」と言っていただいたときから「私って、文章が書くのが得意なのかな」とは思っていました。
でもまさか、こうやって小説を書いたりエッセイを書き続けたりすることになるとは思っていませんでした。自分でも驚きながらも、まだまだ未熟だなと感じています。
締め切りに関しては、スケジュールとにらめっこしながら、「いつまでに始めよう」と考えたりはしますが。『私だけの水槽』の中に、締め切りがギリギリなのに全然書けなくて部屋の掃除をしてしまうという話があるのですが、多くの方に共感していただけるのではないかなと思います。
締め切りギリギリだからこそ生まれるもの
――エッセイのテーマはどうやって考えていますか
「これを書こう!」と思うというより、日々の生活をしている中で、「ふっと湧いてくる」という感じです。
これならば今、書けるかもしれないと思ったことを、メモをせずに何日か転がしておくと、書けるという確信に変わる瞬間があるんです。
「無理をせず、自分の居心地のいい空間を作っていくことが大切」と話す松井玲奈さん
そういう瞬間を切り取ったエッセイが『私だけの水槽』には集まっています。でも、さきほどお話したみたいに締め切りギリギリだからこそ生まれるものもあります。本当にその時の自分自身と向き合って書いていますね。
――役者として芝居をすること、作家として文章を書くこと。それぞれ、松井さんにとってどのような存在でしょうか。面白さや共通点は?
お芝居をするときは「自分ではない人に近づいていく感覚」が強く、エッセイは「自分から半径1メートルもないぐらいで起こることを書く」ことが多いんです。
自分自身を切り取るというのとは違うのかもしれないですけど、なんとなくですが、役者は「自ら寄せていくもの」、作家は「自分から出すもの」ということが大きな違いなのかなとは思います。
共通点は難しいですね。まだ見つけられてないかもしれないです。
ドラマや映画などで最後まで生きていたいな
――今後挑戦してみたいことは
またチャンスがあれば新しいエッセイ本を出版したいと思います。エッセイを書くのはとても好きなので、これから先もずっとライフワークにしていけたら幸せだなと思います。
ファンからの言葉に、思わず笑顔がこぼれる。松井玲奈さんの周りには、温かい空気が流れていく
いつか脚本にも挑戦してみたいなという気持ちはずっとあります。脚本は「こんな内容で」とお題をいただいて、それに真剣に向き合ってみたいですね。外から刺激をもらった方が新しい発見がたくさんありそうです。どういう風に作ってもらえるのかな、どんな思いで演じてもらえるのだろうかと、すごくワクワクします。
挑戦したことがないコメディも演じてみたいです。割とよく途中で退場する役……殺されてしまったり、命を落としてしまったりする役が多いので、ドラマや映画などで最後まで生きていたいなと思ったりもしていますね(笑)。
松井玲奈(まつい・れな)/ 1991 年生まれ。愛知県出身。俳優、作家。舞台、テレビドラマ、映画など幅広 く活動する。 著書に小説『カモフラージュ』『累々』、エッセイ『ひみつのたべもの』がある。
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2024/04/19 17:56