ちなみに、塩分1gの目安は、濃い口しょうゆなら小さじ1杯、みそ大さじ1/2杯、たくあん1~2切れ、ロースハム2枚ほどです。

 さらに、塩分を排出しやすくするカリウムを豊富に含む野菜やくだもの、大豆製品をとる、血圧を安定させる効果のあるカルシウムを多く含む牛乳や乳製品をとることも勧められます。ただしカリウムについては、腎臓病など持病のある人は主治医と相談が必要です。

 そして、適度な運動も有効です。運動習慣がない人や運動する時間がとれない人は、エレベーターではなく階段を使う、バス停一つ分歩く、少し遠回りして買い物に行くなど、「生活の中で少し意識して歩く機会を作るだけでもいい」と山岸医師は言います。

 また、自覚症状のない病気だからこそ、健康診断を受けることも大切です。

「高血圧だけでなく、糖尿病や脂質異常症、腎臓病など健康診断で見つかる病気は無症状のものが多く、早期発見には健診を受けるしかありません。症状がないから健診を受けない、ではなく、症状がない人こそ健診を受けることが必要です」(山岸医師)

■年齢に関係なく、味覚が発達する幼少期から減塩に取り組もう

 高血圧予防の「始めどき」について、両医師は「早ければ早いほどいい」と口をそろえます。

「高血圧の予防や早期治療の大切さ、減塩の方法を学校教育に組み込むなど、子どものころから理解し、意識することが将来の高血圧予防につながります」(山岸医師)

「食育のひとつとして、味覚が発達する幼少期から減塩に取り組むことが必要と考えます。以前、小学生を対象に減塩について講演したことがありましたが、とてもよく理解してくれました。家族みんなで減塩に取り組むことで、若い世代の親も子も、共に将来の病気のリスクを減らすことができます。また、高血圧予防は一生続くことなので、極端な制限をして息切れするより、少しずつでも無理なく、継続できることが大切です」(勝谷医師)

(文・出村真理子)

筑波大学医学医療系社会健康医学 教授 山岸良匡(やまぎし・かずまさ)医師

2000年、筑波大学医学専門学群卒業。03年、同大学院修了。同大学院医学研究科博士特別研究員、人間総合科学研究科講師、ミネソタ大学公衆衛生大学院客員講師などを経て2019年から現職。高血圧など生活習慣病の予防と疫学研究が専門であり、厚生労働省の「e-ヘルスネット」情報評価委員として啓発記事を執筆。

筑波大学医学医療系社会健康医学 教授 山岸良匡医師
筑波大学医学医療系社会健康医学 教授 山岸良匡医師

勝谷医院 院長 勝谷友宏(かつや・ともひろ)医師

1989年、和歌山県立医科大学卒業。93年、大阪大学大学院修了、スタンフォード大学医学部Falk心臓血管研究所 postdoctoral fellow、98年大阪大学医学部助手などを経て2019年、同大学院招聘教授に就任。09年から勝谷医院院長。大阪医科薬科大学教育教授など、大学でも教鞭を執る。日本高血圧学会理事、日本抗加齢医学会理事、日本血管不全学会理事、兵庫県内科医会会長など。医院の診療で地域の人々の健康を支えつつ、大学や学会での研究などにも参加し、高血圧に関わる研究での受賞も多数。

勝谷医院 院長 勝谷友宏医師
勝谷医院 院長 勝谷友宏医師

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