■親の老いのサインを敏感に受け止めて心の準備を

 生活のなかで、次のような場面に遭遇したら、親の老いの始まりのサインと受け止めて、そろそろ親子の立場が逆転する段階にさしかかっていることを察知する必要があります。▼親が「面倒だからやりたくない」「あなたたちだけで行ってきて」と疲れややる気のなさを言葉にすることが増えた▼歩く速度が遅くなった▼聞き返すことが増えた▼家事がおろそかになってきたなどです。そして、子どもである自分が親の世話をする、親のこれからを決めることへの、心の準備を始めてください。

 この段階ではまだ親は元気で、いつもどおり、自分のことは自分でできます。要介護までずいぶん時間があるのではないかと思われるでしょう。実際、いよいよ介護のことを考えなければならなくなるのは、脳卒中や骨折で病院に運ばれた、そして治療は済んで、一般病院あるいはリハビリ病院に転院するとき、あるいは自宅に帰るときです。認知症の場合は、同じことを何度も言う、すべてに時間がかかる、片付けられず散らかすなどが徐々にひどくなり、尿や便にかかわる失敗が繰り返されるようになったときです。

 なんの準備もなくこのショッキングな事態に直面すると、冒頭にご紹介した女性のように、対処できずに「急に起こった」と、突然感が生まれるのです。それとは逆に準備をしていた場合には、「ああ、自分はこういうときのために、心構えをしていたんだ」と、ショックの内にも胸にすとんと落ちるものがあって、状況を受け止めることができるでしょう。

■これからについて、親の考えや希望を聞く時間ができる

 早い時期から親の老いを想定すれば、心の準備だけでなく、具体的な準備をする時間も生まれます。それは、親の考えや希望を聞きだす時間ができるということです。

 親のこれからを決めるのはたいへんな重責です。できたら引き受けたくないと思うでしょう。そのとき、親の考えや希望を知っていれば、よりよい選択ができるはずです。

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親が元気なうちに聞いておきたいこと