また、介護について知識がないことから、自分たちではじゅうぶんな世話ができないことが原因で治るものも治らない、機能が戻らない、維持できるはずの力を失う、精神的な負担が生じるなどの事態に陥るのではないかと、不安でいっぱいになってしまいます。友人知人に聞いてみると、「在宅介護は本当に大変」というような話ばかり。

 でも、本当に高齢者ホームに入居してもらうのでいいのでしょうか。

 介護現場で多くの要介護者とその家族に接してきた介護コンサルタントの高口光子氏は次のように話します。

「ほとんどの家族は、仕方がない状況にある場合でも、親を老人ホームに入れることに罪悪感をもっています。たとえ、プロの介護職の手で、じゅうぶんな療養をさせたいと考えての入居でも、やはり『親を捨てたのではないか』という感覚はゼロにはならないようです」

■親は「家族のためのホーム入居」だと、納得できる

 親のほうはというと、子どもに迷惑をかけたくないことが先に立ち、高齢者ホームへの入居を強く拒絶する人はそれほど多くはないようです。

「ホームに入居してくるおじいちゃんおばあちゃんで、自分のためだけに入居する人はまずいないといっていいでしょう。内心では住み慣れた自宅で最期を迎えたいと思っていても、最終的に家族の負担になりたくないという気持ちが勝って、いわば“自己断念”して明るく入居してきます。家族のために入った、というのが入居の動機なら、納得できる、我慢して受け入れられるんです。特におばあちゃんにその傾向が強いようです」(高口氏)

 入居を決めた親世代は、経済成長期やバブル期を忙しく生きた世代で、自分の親たち(子どもにとっては祖父母の世代)を高齢者ホームに入れた人も多く、もしかしたらそのことにいまだぬぐえない罪悪感を抱いていて、一種の罪滅ぼしのように「今度は自分が子どもたちに迷惑をかけない番だ」と考えているのかもしれません。

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育った時代によってもホームについての考え方は異なる