撮影:土田ヒロミ
撮影:土田ヒロミ

 当時、パチンコ店やカーショップなどの商業施設は、バブル期の最後を飾るあだ花のように派手だった。

「あの時代の日本は、それいけ、それいけと、世界に向かって突っ走っている感じがあった。消費が非常に活発で、とにかく店が派手でしたね。まあ、バブルの崩壊に向かって走っていたわけですけれど、ある意味、日本の絶頂期でもあった」

 東京周辺だけでなく、名古屋や関西方面にも足を伸ばした。

「パチンコ店は、何と言っても名古屋ですよ。なぜかだか分からないけれど、派手だったなあ(笑)」

 赤や青のネオンに彩られた屋根の上に怪しく緑に光るUFOが浮かんだパチンコ店。その横には宇宙服のような耐熱服を着たセメント工場の作業員が立っている。

「キラキラした消費の風景の写真のなかに、こういうシリアスな写真を混ぜているんです」

撮影:土田ヒロミ
撮影:土田ヒロミ

■製鉄所は「撮りたいところだらけ」

 生産と消費の風景の対比について、土田さんは「断層みたいなものですね」と言う。

「まあ、『ハレとケ』というか、『遊びの空間』と『日常的な生産の光景』。生産のシリアスな世界に対して、消費の世界には、ある種の貧困さが見える。われわれは、仕事が終わってプライベートに戻ったとき、豊かな精神性を保つような文化的な行為をする、というより、手短なところでちょっとした快楽を求める。まあ、そういうさみしい文化のなかで生活してきた。その状況は、いまも大きくは変わっていないと思うんです」

 土田さんは90年代、「それまでの基幹産業が衰退して『考古学的な存在』になっていくんだろうな、と思った。あのころ、粗鋼生産高は中国が日本を一気に抜いた。それで、『産業考古学』を撮影したんです」。

 ところが、「いまはもうGAFAの時代ですから」と、つぶやく。

 最近のインターネットによる消費サービスで大きな影響力を持つのは世界的なIT企業群「GAFA」だ。

 一方、土田さんは30年前に製鉄所を撮影したときの新鮮さが忘れられないという。

「撮り始めたら、もう撮りたいところだらけで、やめられない。そのくらい面白かった。また工場の中に入れてくれたら、1週間でも通って撮りたいと思いますね」

アサヒカメラ・米倉昭仁)

【MEMO】土田ヒロミ写真展「ウロボロスのゆくえ」
キヤノンギャラリー S(東京・品川) 11月29日~2022年1月17日