この時点で1000試合出場まであと「3」。「甲子園で達成させてやりたい」と考えた小川淳司監督は、直前のDeNA戦で藤本を1軍に合流させ、9月17、19日の2試合に代打起用。そして同21日、藤本は残り「1」で阪神戦を迎える。

 7回1死二塁、「代打・藤本」が告げられると、ヤクルトファンはもとより、右翼席の虎ファンからも大歓声が上がり、阪神時代の応援歌も流れてきた。

「しっかり聞こう」と打席に入る前に立ち止まった藤本は、「グッとくるものがあった」と、思わず涙がこみ上げてきた。

 だが、「泣くと、(視界が)ぼやけるから」と、必死にまばたきを繰り返し、久保田智之の速球に食らいつく。最後は中飛に倒れたが、スタンドの拍手はなかなか鳴りやまなかった。

 翌日以降も登録抹消されることなく、甲子園3連戦すべてにベンチ入りした藤本は、9月24日の巨人戦(神宮)での代打が現役最後の1001試合目の出場となり、試合後、引退セレモニーが行われた。

 現役引退を前に、古巣の先輩の引退試合に“感謝の一打”で花を添えたのが、09年の巨人・木村拓也だ。

 スーパーサブとして広島で11年間活躍し、06年シーズン途中に巨人に移籍した木村は、現役最終年も、9月4日のヤクルト戦で、捕手が不在になるアクシデントに際し、10年ぶりの代役捕手を務めるなど、ユーティリティープレーヤーとして存在を大きくアピールした。

 そして、10月10日の広島戦(マツダスタジアム)、この日は在籍時にお世話になり、“兄貴”と慕っていた緒方孝市の引退試合だった。

 8回表1死、打席に立った木村は、この回から出場した緒方が守るセンターに、はなむけとも言うべき飛球を高々と打ち上げる。打った直後、「狙いどおり」とばかりに笑みをもらした木村。飛球をキャッチした直後、「よくぞ打ってくれた」と言いたげにニッコリ微笑む緒方。本塁、センターと離れていながらも、両者の心が通じ合ったようなシーンだった。

 日本シリーズ終了後、現役を引退し、1軍内野守備走塁コーチに就任した木村は、翌10年4月2日の広島戦の試合前にくも膜下出血で倒れ、5日後に帰らぬ人となった。人生最後の試合が広島戦だったのも、心を打たれるものがある。

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最終打席に古巣対手に一発