現役最終打席で古巣を相手に劇的な決勝本塁打を放ったのが、近鉄・山本和範だ。

 99年、プロ23年目の“雑草男”は、開幕から2軍暮らしが続き、シーズン後の退団が決まっていたが、本人はまだ現役続行に意欲を燃やしていた。

 球団側は最後の花道として、9月30日の古巣・ダイエー戦(福岡ドーム)に合わせて1軍登録。山本は6番DHとして出場した。

 4対4で迎えた9回2死、この日4度目の打席に立った山本は、篠原貴行の138キロ速球を一振。快音を発した打球は、値千金の決勝弾として右翼席に突き刺さった。

 福岡ドームは、ダイエーを戦力外になり、近鉄にテスト入団した直後の96年のオールスターでも決勝本塁打を放ち、MVPを獲得した思い出の地。「世界で一番広い福岡ドームで41歳が打てた」と感動に打ち震えた山本だったが、この快挙が現役引退を決意させる。

 試合後、両軍ナインから胴上げされた山本は「これ以上の感動をファンに与えることは、もうできない。卒業します」と引退を表明。最高の有終の美を飾った男として、今もファンの脳裏に刻まれている。。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2020」(野球文明叢書)。

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久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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