「プールもあるので、そこでウミガメを泳がせてもいいですか、と市に問い合わせたら、『それなら水族館にしたらどうか』という返事が返ってきました」(むろと廃校水族館館長の若月元樹さん)

 しかし、水族館としての“目玉”はおらず、物足りないかもしれない。そこで考えたのが、もともとの校舎の雰囲気を生かすことだ。近隣の廃校から机やいす、図書室の本などを集め、空いたスペースには、身長計や理科の実験器具などを置いた。手洗い場は、「タッチプール」としてナマコやヒトデなどを触れるようにした。

 あえて“学校らしさ”を残したことが功を奏し、高知県内外から、多くの人が訪れるようになった。夏休みに入ってからの来館者数は、1日500~600人。若月さんは「帰省した親せきを連れていきたい、という問い合わせも多いです」と話す。「売れない覚悟で作った」(若月さん)というブリのぬいぐるみが当たる限定の「ぶりくじ」も好評で、多い時には1日200本が出る。

 水族館での楽しみ方も人それぞれだ。ウミガメの水槽に見入る子どもがいれば、教室に置いてあるアコーディオンを弾いて歌う人、ホルマリン漬けに見入る人、教室でおしゃべりする人、図書室でずっと本を読んでいる人もいる。「館内の自動販売機でジュースを買って、『小学校でジュースを飲むなんて』という背徳感を感じる人もいるようです」(若月さん)

 また、大学生の研修場所としても活用されている。長年ウミガメの研究に取り組む若月さんは「室戸には専門学校や大学はありませんが、研修という形で大学生が集まる場所にはできます。漁師さんからはいろいろな魚がもらえますし、実験もできます。研究施設としては最適です」と話す。

 若月さんは現在、ウミガメの卵のふ化にも取り組んでいる。「展示されている魚は100%室戸産なので、室戸産のウミガメも誕生させたいです」。

 観光施設としてだけでなく、研修施設として、思い出を懐かしむ場所として、老若男女が集まるむろと廃校水族館。かつての学び舎には、今日も子どもたちの声が響いている。年中無休で、入館料は室戸市外の人は大人600円、中学生以下300円。(ライター・南文枝)