2018年4月のオープン以来、多くの人が訪れているむろと廃校水族館
2018年4月のオープン以来、多くの人が訪れているむろと廃校水族館
理科の実験室では、日本ウミガメ協議会が保管してきた標本を展示。手前のカメの甲羅は背負うことができる
理科の実験室では、日本ウミガメ協議会が保管してきた標本を展示。手前のカメの甲羅は背負うことができる
かつての手洗い場は、「タッチプール」として利用されている
かつての手洗い場は、「タッチプール」として利用されている
屋外の25メートルプールでは、シュモクザメが悠々と泳ぐ。プールの底に砂をまき、水質を安定させるようにした
屋外の25メートルプールでは、シュモクザメが悠々と泳ぐ。プールの底に砂をまき、水質を安定させるようにした
学校らしさを生かした「跳び箱の水槽」。普通に廊下に置かれていて目を引く
学校らしさを生かした「跳び箱の水槽」。普通に廊下に置かれていて目を引く

 高知県東部の室戸市にあり、2006年に廃校となった小学校を再生した「むろと廃校水族館」が話題を呼んでいる。かつて児童らが水泳の授業を受けた屋外の25メートルプールでは、現在、シュモクザメやウミガメ、サバなどが泳ぐ。驚く子どもたちやカップルの目の前を、悠々と横切っていく。

【理科実験室やプールなど、学校らしさを活かした館内はこちら】

「学校の文化祭レベルのこぢんまりとした展示をイメージしていたのですが、意外としっかりしていて驚きました。理科室が印象的でした」

 高知県南国市から訪れた会社員の20代男性とフリーターの10代女性が、笑顔で話した。理科室だった3階の教室の棚には、ツバクロエイやマトウダイ、アオブダイなどの骨格標本が並ぶ。隣の実験室や、廊下には魚などのホルマリン漬けがずらり。なんとも不思議な雰囲気だ。

 図書室の本棚の上には、ミンククジラの骨格標本が鎮座する。近くの椎名漁港で水揚げされ、食用となったミンククジラの骨を、スタッフが鮮魚店を回って集めてきたものだ。

 近隣の廃校から“転入”してきた跳び箱の中には、別の廃校の池にいた金魚を入れて「跳び箱の水槽」を作った。四国の夫の実家への帰省がてら、夫と幼い子ども2人と一緒に立ち寄った神戸市の20代女性は「小学校らしさが残っていて面白い」と話す。

 むろと廃校水族館は、廃校となった旧室戸市立椎名小学校の校舎を改修して、2018年4月26日にオープンした。大小約20個の水槽やプールで、ウミガメやサメ、ウツボなど約80種類1000匹以上の生き物を飼育する。展示されている生き物は、定置網にかかった魚や、スタッフや近所の人たちが釣った魚が中心で、ジンベエザメなどの“目玉”はいない。

 アクセスもよいとは言えない。電車の路線がなく、車やバス、タクシーを利用しないとなかなか訪ねることができない場所にある。しかし、来館者数は8月11日で年間の目標にしていた4万人を超えた。

 水族館を運営するのは、室戸市の指定管理者で、全国各地でウミガメの調査、研究に取り組む日本ウミガメ協議会(大阪府枚方市)だ。全国に廃校になった学校は数あれど、その校舎を活用した水族館は珍しい。なぜ室戸でこのような取り組みが行われることとなったのか。

 同協議会は、2001年から室戸市でウミガメの調査を始め、03年からは基地を置いて職員を常駐させていた。定置網に入ってくるウミガメを調査しつつ、珍しい魚などを見つけると標本として保存していたが、基地が手狭になり、保管場所を探していた。2014年ごろ、室戸市が旧椎名小学校の活用案を募集していることを知り、市に標本の保管場所としての利用を打診したという。

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“目玉”のない水族館、そこで考えたのが…