写真右の男性が読みとり機を当てていた
写真右の男性が読みとり機を当てていた

 さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版「世界の空港・駅から」。第34回はサンフランシスコ国際空港から。

*  *  *

 到着した空港で、預けた荷物が出てこない……。ロストバッゲージを経験したことがあるだろうか。これはかなり困る。預けた荷物に詰めたものにもよるが、着替えや洗面道具がないことが多く、しばらく同じものを着続けなくてならない。

 海外に出向くことが多いせいか、僕はこれまで8回ほどロストバッゲージに遭っている。しかし自分の荷物が、ロストバッゲージになる瞬間を目撃することはなかった。

 それがサンフランシスコ国際空港で起きてしまった。

 日本からの飛行機がロサンゼルスに着いた。そこでいったん自分の荷物を受けとった。そして空港で荷物を再度預けた。そこまでは問題はなかった。

 その先はユナイテッド航空。サンフランシスコで乗り換え、バンクーバーに向かうことになっていた。

 サンフランシスコ国際空港で、バンクーバー行きの飛行機に乗り込んだ。窓側の席だった。そこから荷物をベルトコンベアーに乗せて積み込んでいるところが見えた。荷物についているダグのバーコードに、水鉄砲のような読みとり機械を当てていた。

 ぼんやり見ていると、僕の荷物が現れた。初老の男性が読みとり機を当て、首を捻った。どうもバンクーバーという受けとり空港が出てこないらしい。男性は僕の荷物を脇に寄せ、次の荷物に機械を当てた。

 この時点で脇に寄せられた荷物は10個ほどあった。大方の荷物を積み込んだ後、脇に置いた荷物に再度、読みとり機を当てる。そこでバンクーバーの表示が出たものを積み込んでいく。僕の荷物になった。再び、脇に寄せられてしまった。

「まずい……」

 客室乗務員に伝えなくては。腰をあげようとすると、ベルトコンベアーが外され、その直後に飛行機は動きはじめてしまった。

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下川裕治

下川裕治

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など

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