また、1980年代に活躍し、グランドスラムで7つのタイトルを獲得したマッツ・ビランデルは、フランスのスポーツ紙『レキップ』に掲載しているコラムで、錦織を“サーブを持たぬテニスの王様”と形容した上で、次のように記している。

「もしテニスがサーブなしの競技であったなら、錦織はチャンピオンになっている」

 元世界1位のこの言葉を逆説的に解釈するなら、サーブさえ向上すれば、錦織はチャンピオンになれるということだろう。

 錦織がサーブで優位に立つのが困難なのは、トップ10で最も小柄な身長を思えば致し方ないところ。ただサーブは、トップ選手たちですら常に微調整を繰り返しているショットであり、少しの技術的な修正などにより、大幅な向上が見られるエリアだとも言われている。例えばラファエル・ナダルは、全米オープン獲得を最大の目標とした2010年に、サーブの改善に力を入れた。「この(全米の)コートでは、サーブが良くなくては勝てない。僕はサーブが弱かったから、そこを強化しようと思った」というナダルは、グリップを変え、コースのバリエーションも増やすことでサーブの改善に成功し、狙い通り同年の全米オープンを制覇。ちなみにこの年のナダルのエース数は310本で、前年の219本から大幅に上昇。1試合あたりの平均エース数も、前年の2.8本から3.8本へと伸ばした。

 このナダルのように錦織にも、サーブの革新的な改善に成功した時期がある。それが、マイケル・チャンがコーチに就任した2014年シーズン。スピードの向上もあったが、何よりワイドに切れていくスライスサーブなど、球種やコースの打ち分けと精度に磨きが掛かった。結果、錦織のエース数は2013年の140本から、2014年は286本へと倍増。2015年はさらに増え、キャリア最高の306本に達している。ただ今シーズンは、サービスゲーム数は前年の809から877に増えたが、エースは255本へと減少。対戦相手の特性やサーフェスとの関連性もあるので、一概にエース数のみがサーブ好不調の指標になる訳ではない。ただ、エースの増加が体力の温存や、試合時間の短縮につながるのは間違いないだろう。そして過去2年の成長の足跡が示すように、サーブにはまだ修正・改善の余地が残されているはずだ。

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