今季自己最多のマッチ58勝を挙げた錦織圭。来季は頂点を狙う。(写真:Getty Images)
今季自己最多のマッチ58勝を挙げた錦織圭。来季は頂点を狙う。(写真:Getty Images)

 今季、最も惜しく、錦織圭本人も悔しさを覚えたであろう試合の一つに、5月のローマ・マスターズ準決勝での、対ノバク・ジョコビッチ戦が挙げられるだろう。

 この試合は、今季実に6回を数えた対ジョコビッチ戦の4戦目。過去の対戦経験をもとにジョコビッチ対策を胸に秘めて挑んだ錦織は、ファイナルセットのタイブレークにもつれこむ大熱戦の末に、6-2、4-6、6-7で惜敗を喫した。

 過去2年間の対戦で最もジョコビッチ撃破に近づいたこの試合は、錦織が有するポテンシャルと、世界1位(当時)を破るため……つまりは錦織自身が世界の頂点に立つために必要なものを内包した、今後進むべき道を照らすガイドラインでもあった。

「自分が攻めてポイントを取っていたので、そこが一番よかったところ」

 ジョコビッチを追い詰めた理由を、錦織はそう評価した。

 一方、ダブルフォールトが大きな分岐点となってしまったタイブレークの末の敗因を、彼は苦しそうに振り返った。

「一番は、固くなってしまったこと。勝ちを意識し始めてしまった。ミスしても攻めようという気持ちもあったが、それが出過ぎてしまったのか……あのダブルフォールトも狙いすぎたし。もう少しあのような大事な場面で、しぶとくプレーできたらと思います」

 最も自信を持つフォアハンドで攻める姿勢を貫き、ジョコビッチと互角以上に渡りあったストローク戦。しかし勝敗が懸かった最後の局面で、緊張や焦りが原因で出てしまったミス――。

 ジョコビッチ相手に確信した武器をいかに伸ばし、課題をどう克服するか、という点が、この試合で錦織が持ち帰った頂点への鍵であった。

 錦織がグランドスラムで優勝するために必要なものを、「もっと強くボールを打ち、短くポイントを決めに行くこと」だと指摘したのは、若き日のピート・サンプラスやマリア・シャラポワらを指導したことで有名な、名伯楽のロバート・ランズドロープである。ランズドロープは、パワフルなグランドストローク、強烈なフォアハンドを伝授することに定評があり、その技術は“ランズドロープ・フォアハンド”とまで呼ばれるほど。それだけになおのこと、彼の目には、一撃で決められる強打こそが頂点への鍵だと映っているのかもしれない。

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