さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版「世界の空港・駅から」。第54回は台湾の桃園国際空港から。
* * *
航空券の検索サイトの功罪だろうか。ついその運賃の安さに惹かれて、空港で夜明かしという航空券に手がのびてしまう。つらくなることはわかっているというのに……。
かつては旅行会社のスタッフを通して航空券を買った。
「安いですけど、空港で10時間待ちですよ」
「そうですよね。ベッドで眠ることができるわけではないし」
そんなやりとりのなかで避けてきた航空券を、ひとりでパソコンに向かっていると買ってしまうのである。
「機内で眠ればいいし……」
と自分にいい聞かせて。
こうして幾夜、空港で夜明かしをしただろうか。
そんなことを繰り返していると、優しい空港と冷たい空港というものがわかってくる。
東京から中国のカシュガルに向かった。北京とウルムチで乗り換える便で、北京での待ち時間は10時間ほどだった。夜明かしである。いったん中国に入国し、空港のチェックインカウンターの前にある椅子に座る。さて、どうやって寝ようか。
昔の中国なら、皆、床に寝た。しかし最近の中国人は違う。おとなしく椅子に座って寝ている。僕もそれに倣っていたのだが、やはり腰をのばして眠りたい。そこからは「空港ホームレス」と化す。人目につかず、体を横にできる場所を探す。中国人の冷たい視線に晒されながら。
台北の桃園国際空港でも「空港ホームレス」と化した。入国はしなかったので、トランジットラウンジを歩きまわる。シャッターをおろした免税店の前をうろうろしていると、薄暗い一画が目に止まった。行ってみると、そこには水平近くまで背もたれが倒れるマッサージチェアのような椅子がずらりと並んでいた。